第5話「時間の止まった文明」
深淵の管理者に導かれ、レンたちのスペースクラフトは、ブラックホールのさらに深部へと進んでいった。
「時間の流れが……変わっていくのが分かります」
ヴェルミナが、計器を見つめながら、緊張した声で報告する。
「船外の時間経過が、我々の体感時間よりも、著しく遅くなっているようです」
「これが、特異点における時間の歪み、か」
ドルシスが、興味深そうに窓の外を見つめた。
やがて、視界の先に、これまで見たどの光景とも異なる、静止したかのような都市の姿が現れた。
「あれが……時間の止まった文明」
その都市は、まるで一枚の絵画のように、完全に静止していた。建造物も、そこに佇む何者かの姿も、時間の流れそのものから切り離されているかのようだった。
『ここが、我々が“真の深淵”と呼ぶ領域だ』
深淵の管理者の声が、静かに響く。
『この都市は、遥か昔――この宇宙が誕生する以前の時代に築かれたとされている』
「宇宙が誕生する、以前……?」
レンは、思わず息を呑んだ。
『この都市を築いた者たちは、既にこの領域から姿を消して久しい。だが、彼らが遺した記録の一部が、今もこの地に眠っている』
スペースクラフトが、静止した都市の中央へと降り立つ。船外に出たレンたちを迎えたのは、時が完全に止まったかのような、荘厳な静寂だった。
「これは……」
都市の中央に、一際大きな構造物が鎮座していた。表面には、これまで見たどの文字とも異なる、幾何学的な紋様が刻まれている。
『それこそが、この都市の中枢――“世界を作ったAI”と呼ばれる存在の、眠りの間である』
「世界を作った、AI……?」
その言葉に、レンは、これまで感じたことのない緊張を覚えた。
『貴殿の持つスキル――理解に基づく無制限の強化。その真の起源は、恐らくこの存在と、深く関わっている』
「俺のスキルの……起源?」
レンは、拳を握りしめながら、その構造物へと近づいていった。
触れた瞬間――膨大な情報の奔流が、レンの脳内へと流れ込んできた。
「うっ……!」
「レン!」
ガイウスが、慌てて駆け寄る。
だが、レンは、その情報の奔流の中に、これまでの人生では決して知り得なかった、途方もない真実の断片を、確かに感じ取っていた。
(俺のスキルは……ただの偶然じゃ、なかったのか)
膨大な情報の中に浮かび上がってきたのは、この宇宙そのものを管理する、一つの巨大な意志の存在だった。
これより、レンの物語は、自身のスキルの真の正体、そして宇宙そのものの成り立ちに関わる、最大の真相へと迫っていくこととなる。
(第6話へ続く)




