第5話「秩序の観測者」
「秩序を見守る者……あなたは、いったい何者なんですか」
レンの問いに、その存在は、静かに応じた。
『我は、この宇宙が生まれてより、その均衡を見守り続けてきた、単独の知性体である。名は――便宜上、“観測者”とでも呼んでもらえれば良い』
「観測者……」
『貴殿らの動向は、既に長きにわたり、興味深く見守らせてもらっていた』
その言葉に、レンは僅かな緊張を覚えた。
「俺たちのことを、ずっと見ていた、ということですか」
『左様。理解に基づき、際限なく可能性を押し広げていく貴殿の力――それは、この宇宙において、極めて稀有な性質である』
観測者は、静かに続けた。
『通常、文明の発展は、力による支配か、あるいは画一的な効率化のいずれかへと収束していく。だが貴殿は、そのいずれとも異なる道を、着実に切り拓いている』
「俺は、ただ、目の前で困っている人を助けたい、その想いだけでここまで来ました」
『そう、それこそが、貴殿の力の本質だ』
観測者は、そう告げると、一瞬、間を置いた。
『一つ、問おう。貴殿は、この宇宙の果て――全ての物理法則が意味を失うとされる、特異点の領域について、聞いたことはあるか』
「特異点……ブラックホール、のことですか」
『いかにも。この宇宙には、いまだ誰も踏み込んだことのない、深淵なる謎が存在する。貴殿の“理解する力”が、いずれその領域にまで届くのか――我は、それを見届けたいと思っている』
その言葉に、レンは背筋に緊張が走るのを感じた。
「それは……いずれ、俺がそこへ向かうことになる、ということですか」
『それは、貴殿自身の選択次第だ。我は、ただ見守るのみ』
観測者の姿が、徐々に薄れていく。
『貴殿の歩む道、これからも興味深く見守らせてもらおう。……いずれ、また会うことになるだろう』
そう言い残し、観測者は、静かに宇宙の彼方へと姿を消していった。
指揮所には、しばらくの間、重い沈黙が流れた。
「……ブラックホール、ですか」
ヴェルミナが、静かに呟いた。
「零崎殿、あの観測者の言葉、単なる示唆ではなく、明確な“予言”のようにも聞こえました」
「はい……俺も、そう感じました」
レンは、拳を握りしめながら、遠い宇宙の彼方に思いを馳せた。
(ブラックホール……いつか、俺は、本当にそこへ向かうことになるんだろうか)
だが今は、目の前の課題に集中する必要があった。
「零崎殿、集合意志より、新たな提案が届いています」
ヴェルミナが、通信記録を確認しながら告げた。
「虫族連合、そして今回の観測者との接触を経て、この星系一帯の安定した秩序を築くため――複数の友好文明による、正式な“銀河連邦”の設立を提案したい、とのことです」
「銀河連邦……」
レンは、その言葉の重みを噛み締めた。
「地上の大陸統一の、さらに先にある道、ということですね」
「はい。そして、その中心的な役割を、零崎殿に担っていただきたいとの、強い要望も添えられています」
レンは、深呼吸をしてから、静かに頷いた。
「分かりました。……この宇宙に、真の平和をもたらすために、全力を尽くします」
こうして、レンたちの物語は、銀河連邦の設立という、さらに壮大な次なる目標へと、その歩みを進めていくこととなる。
(第6話へ続く)




