第4話「落ちこぼれ同士」
倉庫に籠って三日目の夜、レンはついに一つの成果を形にしていた。
廃棄予定だった旧式の籠手——本来なら鋳潰されるはずだったそれは、今や見違えるほどの姿になっている。表面には淡い光を帯びた紋様が浮かび、握り込むだけで、内側から力が漲るような感覚があった。
「……これも、いけるか」
レンは自分の手にはめた籠手を見つめながら、静かに呟いた。もっとも、いくら籠手の性能を上げたところで、レン自身の腕力が変わるわけではない。強化されるのはあくまで「道具」であり、レンの身体能力は最後まで一般人以下のままだ。
その事実に、僅かな寂しさを覚えないと言えば嘘になる。だが今は、それよりも純粋な好奇心の方が勝っていた。
その頃、倉庫の外では、ある人物が壁にもたれて座り込んでいた。
「……はぁ。今日も昇格試験、落ちたか」
褐色の肌に、白髪交じりの短髪。屈強な体躯を持つ青年——ガイウス・フォルセインは、深いため息をついていた。
身体能力だけなら、基地内でも屈指と評されるほどの実力者だ。だが、いくら鍛えても、正式な戦闘職としての「格上げ試験」には、なぜか毎回落とされ続けていた。
「あんたも大概、運がないな」
声をかけてきたのは、ガイウスと同じく試験に落ちた仲間の一人だった。
「うるせえ。あの試験官、絶対俺のこと気に食わねえんだよ」
悪態をつきながら、ガイウスはふと、倉庫の窓から漏れる明かりに気づいた。
「……こんな時間まで、誰か作業してんのか」
好奇心から、ガイウスは倉庫の中を覗き込む。そこには、山積みの廃棄装備に囲まれながら、一心不乱に何かを弄り続けている青年の姿があった。
「……お前、確か第七小隊の。物資管理の」
「うわっ!?」
突然の声に、レンは飛び上がりそうになった。
「す、すみません、こんな時間まで倉庫使って……」
「いや、別にそこは咎めてねえよ」
ガイウスは倉庫の中に足を踏み入れ、レンの手元にある籠手を興味深そうに覗き込んだ。
「これ、お前が作ったのか? 廃棄予定のやつだろ、これ」
「あ、はい……その、俺のスキル、アイテムを強化するだけのものなので」
「知ってる。噂になってるからな。盾の一件」
ガイウスは籠手を手に取り、しげしげと眺め回す。
「……なるほどな。確かに、ただの廃品にゃ見えねえ」
「あの、良かったら、着けてみますか?」
レンが差し出すと、ガイウスは半信半疑ながらも籠手を装着した。
「うおっ……なんだこれ、軽っ」
軽い驚きの声を上げながら、ガイウスは拳を握りしめる。
「……なあ、ちょっと殴ってみていいか、あの壁」
「え、あ、はい。どうぞ」
ガイウスは倉庫の頑丈な石壁に向けて、渾身の一撃を放った。
――ドゴォッ、という重い音と共に、石壁に大きな亀裂が走る。
「なっ……!?」
ガイウス自身が、一番驚いていた。
「お、俺の拳の威力、こんなもんじゃねえぞ。何をどうしたら、こうなる」
「その、籠手の“衝撃伝達効率”を、理論上の限界まで高めてみただけで……本当は、俺自身の力は何も変わってないんです」
「はっ、道具だけでこれかよ」
ガイウスは呆れたように笑いながら、籠手を外してレンに返す。
「なあ、お前」
「はい……?」
「俺、実はずっと昇格試験に落とされ続けてる。理由は分からねえ。腕力にも、剣術にも自信あるのによ」
ガイウスは自嘲気味に笑った。
「お前がハズレスキル持ちって呼ばれてるのと、似たようなもんかもな。周りに認められねえって点じゃ、俺たちお互い落ちこぼれだ」
その言葉に、レンは少し驚いたように顔を上げた。今まで、誰かに「同じ立場だ」と言われたことなどなかったからだ。
「……そう、かもしれません」
「なあ、レン、だったよな」
「あ、はい」
「今度、俺の武器も強化してくれよ。もし本当にその力が本物なら——俺と組んで、この基地の連中を見返してやろうぜ」
差し出された手を、レンはしばらく見つめた後、おずおずと握り返した。
「……よろしくお願いします」
「おう。任せろ」
この夜交わされた、ささやかな約束。
それが後に、大陸を、宇宙を巻き込む物語の中で、最も長く続く友情の始まりになるとは、この時二人はまだ知る由もなかった。
(第5話へ続く)




