事実上の島流し
「くっ! 俊司様の服を血で汚すとは! なんと不遜な!」
「映美、いい。死体は後で回収させるよう手配しておく」
「承知しました。ですがこれでは……」
「おおかた黒幕のアテはついた。問題ない」
雇い主を言えない時点で、正面切って天離家と対立しているアイセンベルク家の線は薄い。ではローゼンハイム家の誰かだ。それと俺に専属の侍従がいることを知らなかった。
「姉さん……敢えて泳がせているな」
亜里沙姉さんが裏で手を回せば、俺を守ることなど容易い。嫁入りしたとて、レアアースの一種、ジスプロシウムを錬成できる姉さんの能力が強大であることは変わりないからだ。姉さんは一族の利益にも大きく貢献していたし、私兵の傭兵部隊もかなりの規模だ。
それが、この程度の襲撃すら事前に防げなかった。いや、防がなかった。
つまり……
「俺にも手伝えってことか。ローゼンハイム潰し」
「え、なんか仰いました?」
映美が不思議そうな顔で訊いてくる。
「いや、なんでもない」
まずは戦力を整えないとな。
◇
「二週間後、お前にはナイル共和国に赴任し、現地法人のプラバ社の取締役になってもらう」
天離家の『取締役会』とも呼べる家族会議で、俺は父の悠翠から事実上の左遷を言い渡されていた。曙光学園がテロを受けて休校になった途端にこれだ。
「嫌ですよ。あそこまだ内戦の復興か一年くらいしか経ってないじゃないですか! インフラも未整備の未開拓領域なんて、地獄も同然ですよ!」
ナイル共和国は、内戦の末エジプトを潰して誕生した新興国だ。
「お前の『窒素を鉄に変える』程度の局地的な技術は、現在の我がグループにおいては全くスケールしない。要するに、投資価値ゼロの無能。不満があるなら、その無価値な錬金術で先進的な国に開拓してみせることだな」
親父は、まるで不良在庫を押し付けるような冷たい目で俺を見た。
「フフ、我々が共和国の独立を支援したのですから、その一族のあなたが役員に就く程度、何ら問題ないのではなくって?」
黄金錬成という、一族で最も『利益』を生み出す能力を継承した瑠理香姉さんが、薄ら笑いを浮かべる。
「はいはい、行きますよ。行けばいいんでしょ」
亜里沙姉さんという後ろ盾を失った途端にこれか。まぁいい。僻地で力を蓄えるとしよう。




