恋愛小説
屋敷の工事が始まってから、リリアーナは部屋へ引きこもっていた。
もともと引きこもり気質なので問題はない。
むしろ楽しい。
工事期間中は本をたくさん部屋へ運び込んでもらった。
そして、最近の新しい楽しみ。
恋愛小説。
侍女へおすすめを沢山聞いて、片っ端から読んでみたのだ。
最初は、
“恋愛のお話って、みんな同じなのでは?”
と思っていたのだけれど全然違った。
政略結婚。
身分差。
騎士と令嬢。
幼馴染。
すれ違いや片想い。
どれも面白い。
読めば読むほど、
「人を好きになる」
という感情は奥深いのだなと思う。
そして、
とくに、
旦那様に似た人が出てくる話は、ものすごくドキドキした。
寡黙で不器用で。
過保護で、でも大切な人には甘い。
……なんだか既視感があるわ。
読みながら顔が熱くなってしまうことも増えた。
ある日、侍女へぽつりと漏らす。
「旦那様に似た方がお相手のお話、特にどきどきするわ」
すると侍女が満面の笑みになった。
「やはりそうでしたか!」
何故かとても嬉しそうだ。
「奥様、恋愛小説への適性がおありです!」
適性って何かしら。
少し不思議だった。
◇◇◇
工事中、アルヴェイン・クローディアは忙しそうだった。
業者へ指示を出したり。
進捗を確認したり。
だが、どれだけ忙しくても、時々必ずリリアーナの部屋へ来る。
こんこん。
扉が叩かれる。
「リリアーナ、入ってもいいか?」
「はい」
すると旦那様が様子を見に来る。
「騒がしくないか?」
「大丈夫です」
「困っていることは?」
「ありません」
「本は足りているか?」
「十分です」
そのやり取りを毎回している気がする。
旦那様は安心したように頷いて、それから少しだけ名残惜しそうに帰っていく。
なんだか大型犬みたい。
そんなことを思ってしまって、少し笑った。
◇◇◇
そして数日後、工事は終わった。
「完成しました」
執事に案内されて向かった先で、リリアーナは言葉を失った。
まず図書室。
……広い。
以前ですら十分すぎるほど広かったのに、さらに拡張されていた。
本棚が増えている。
読書スペースも増えている。
窓際には柔らかなソファ。
寝台のように寛げる長椅子。
紅茶を置くための小机。
しかも、
「こちら、移動式梯子でございます」
「まあ……!」
高い本棚の上段まで届く立派な梯子まで設置されていた。
夢の空間では?
「高い位置の本は使用人にいつでも申し付けください。侍女でも簡単に取れるように致しました」
そして隣には温室。
ガラス張りの美しい空間。
花々。
緑。
柔らかな陽光。
読書用の椅子まで置かれている。
「ここでも本が読めるわ……」
思わず呟いてしまった。
すると後ろから声がした。
「気に入ったか?」
振り返ると旦那様だ。
少しだけ緊張したような顔でこちらを見ている。
リリアーナは慌てて頷いた。
「とても素敵です!本当に……ありがとうございます」
すると旦那様が、ほっとしたように笑った。
「それなら良かった」
そして図書室を見回しながら静かに言う。
「これで、もっと快適に暮らせるだろう」
その声は、どこか嬉しそうだった。
リリアーナは温室へ足を踏み入れる。
暖かな空気。
花の香り。
木漏れ日のような光。
まるで物語の中みたい。
こんな生活、昔の自分なら想像もしていなかった。
本が好きで。
静かな暮らしが好きで。
結婚なんて面倒だと思っていたのに。
今はこの屋敷で、旦那様と過ごす毎日がとても幸せだった。




