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18/31

引きこもり生活、再び

最近、旦那様がずっと家にいる。


本当にずっといる。


以前は侍女が常についていたのだけれど、今ではその役目を旦那様が担っているような状態だ。


旦那様は執務室で仕事。

私はその近くで読書。


新しい本を取りに図書室へ向かう時も。


「私も息抜きに同行しよう」


と、一緒についてくる。


お茶の時間も一緒。

休憩も一緒。


ときどき侍女や執事が紅茶や手紙を持って入ってくるが、用事が済めばすぐに二人きりになる。


最初はさすがに、

“こんなに一緒にいて邪魔になっていないかしら”

と不安だった。


だがある日、旦那様の方から聞かれた。


「リリアーナ。ずっと私と二人で、疲れないか?」


心配そうな顔だった。

だからすぐ答えた。


「全く」


むしろ、


「毎日幸せです」


すると旦那様が、少しだけ目を丸くして、それから嬉しそうに笑った。


「……そうか」


その顔を見ると、こちらまで嬉しくなる。


けれど心配なのは旦那様の方だ。

仕事を家へ移して、本当に休まっているのだろうか。

以前より私といる時間は増えている。

その分、無理をしているのでは。

そう尋ねると。


「問題ない」


旦那様は即答した。


「むしろリリアーナと一緒にいられて幸せだ」


そんなことを真顔で言うものだから、胸がこそばゆくなってしまう。


なんだか結婚したばかりの頃へ戻ったみたいだ。

あの頃も夜会も慈善活動も何もせず、ただ本を読んで穏やかに暮らしていた。


違うのは、今はそこに旦那様がいること。

それだけで、毎日がずっと温かい。


しかも旦那様は、最近むしろ顔色が良い。

本当に問題ないように見える。


……不思議だ。


◇◇◇


ただ、一つだけ困ったことがある。


眠い。


昼食後など、特に眠い。


旦那様が執務を頑張っている横で昼寝をするのは流石に気が引ける。

だから耐えようとするのだけれど、どうやら旦那様には全部バレているらしい。

リリアーナがうとうとし始めると。


「少し休憩しよう」


そう言って膝掛けを持ってきてくれる。

そして隣へ座る。

旦那様の声は落ち着く。

低くて穏やかで、安心する声だ。

そんな声を聞いていると、つい眠ってしまう。


起きた時には、旦那様の肩へ身体を預けてしまっていることが多かった。


最初は申し訳さと恥ずかしさが強かった。

でも毎日も同じことを繰り返すうちに、気づいてしまった。


……旦那様、わざと寝かしつけにきていません?


だって絶妙に眠くなるタイミングで隣へ来るのだ。

なので、ある日お返しを提案してみた。


「旦那様も私の肩や膝を使ってください」

「……何?」

「昼寝って幸せなんですよ」


すると旦那様がものすごく驚いた顔をした。


その後ソファへ並んで座り、同じ膝掛けを分け合った。

そして、旦那様がこつん、と肩へ頭を預けてきた。


「…………」


近い。

近すぎる。

心臓がうるさい。

旦那様ってこんなに破壊力があったのね……。

どきどきして落ち着かない。


……と思っていたのに。

気づけば眠っていた。


そして起きた時には、また私が旦那様の肩へ寄りかかっていた。

旦那様は何故かとても満足そうだった。


◇◇◇


そんな生活が続いた。


一ヶ月。


二ヶ月。


三ヶ月。


旦那様は時々会議で王宮へ行かれる。

だが、それ以外はほとんど屋敷にいる。


そしてある日。

旦那様が帰宅した時、玄関近くで執事の声が聞こえた。


「閣下。いつまで奥様を外出禁止にされるおつもりですか」


思わず足を止める。

旦那様は少し沈黙してから言った。


「……リリアーナが出たいと言っているのか?」

「いえ。奥様は一言も」


執事は静かに答える。


「現在の生活にも、外出についても、不満は口にされておりません」

「なら構わないだろう」


旦那様は即答した。


「このままでいい」


リリアーナはそこで、ふと考える。


……もう三ヶ月も外へ出ていないのね。


でも不思議と困ったことはない。

むしろ毎日があっという間だった。


本を読んで。

旦那様と話して。

お茶を飲んで。

昼寝をして。

気づけば一日が終わっている。


こんな穏やかな生活を、昔から望んでいた。

だから、


「お帰りなさいませ、旦那様」


リリアーナはそのまま笑顔で出迎えた。

旦那様が少し驚いた顔をする。


「……聞こえていたのか」

「はい。すみません」


リリアーナは少し申し訳なさそうに笑った。


「でも私は、本当に不便なく暮らしています。むしろ幸せです」


本心だった。

だから続ける。


「ただ、必要な社交などがございましたら教えてくださいね。もう外への不安もありませんし」


すると旦那様は即座に言った。


「社交は必要ない」


真っ直ぐ見つめてくる。


「このままここで暮らしてくれ」


その声はどこか安心したようだった。


◇◇◇


その後旦那様は着替えを済ませ、いつも通り一緒に夕食を取った。

そしてまた執務室で過ごす。

旦那様は仕事。

私は読書。

いつもの穏やかな時間。


ただ、執事が何か言いたそうな顔をしていたのが少し気になる。


……本当に大丈夫なのかしら。

私は全然困っていない。

でも、旦那様がまた一人で無理をしている可能性はある。

あとでこっそり執事へ聞いてみよう。

本当に、引きこもったままで問題ないのかを。

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