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穏やかな毎日

先日は本当に驚いた。

お昼寝から目を覚ましたら、隣に旦那様がいたのだ。

しかもまだ日が高いうち。


旦那様って、こんな早い時間に帰宅されることもあるのね。

あの時は寝ぼけていたこともあって、しばらく状況が理解できなかった。

けれど、隣で静かに本を読んでいる姿があまりにも自然で、なんだか安心してしまった。


それ以来、リリアーナは執事へそれとなく旦那様の予定を聞くようになっていた。


「来週は会議がございますので、お帰りは遅くなられるかと」

「そうなのですね」


少しだけ残念。

でも本来旦那様は忙しい方だ。

むしろ今まで沢山一緒にいてくれたことの方が凄いのだろう。


さて、今日は午前中に領地経営の勉強をした。

以前学んでいた基礎知識については、講師から既に“十分です”と合格をもらっている。

今はさらに踏み込んだ内容。

税、流通、土地管理。

収穫量に人員配置。

最初は難しいと思ったけれど、学んでみると意外と面白い。


「旦那様のお役に立てるようになりたいもの」


そう思うと自然と頑張れた。


午後からは刺繍をする。

孤児院へ持っていくハンカチだ。

窓際へ座り、公爵家の立派な庭を眺めながら、ひと針ひと針刺していく。


刺繍は好きだ。

本を読むのとはまた違う楽しさがある。

文字をひとつずつ追って、誰かの考えや物語へ触れる読書。

そして、自分の頭の中にある模様を糸で形にしていく刺繍。

どちらも楽しい。

けれど、


「……やっぱり一番は本かしら」


ぽつりと呟く。

公爵家の図書室は本当に凄い。

ありとあらゆる分野の本が揃っている。

歴史も文学も薬学も、農業も建築も神学まで、また絵本や詩集、果ては外国語の本まである。

旦那様には、


「欲しい本があれば追加する」


と言われているが。

──ここに無い本なんてあるのかしら?

と思うほど充実していた。

それに公爵家の人たちは皆優しい。

使用人も侍女も講師も執事も。

困っていることはないか、必要なものはないか、いつも気にかけてくれる。

こんなに親切にしてもらっているのだから。


「みんなにもハンカチを贈りたいわ」


ふと思いつく。

日頃の感謝を込めて。

旦那様にも執事にも。侍女たちにも。

ワンポイント刺繍ならそこまで時間もかからない。

デザインを考えるのも好きだ。

旦那様には銀糸を使おう。

執事には落ち着いた緑。

侍女たちは、それぞれ似合いそうな花や動物を。


リリアーナはあまり迷う方ではない。

針を進める手も早かった。

気づけば机の上には、完成した刺繍ハンカチが増えていく。


「喜んでくださるかしら」


少しだけ不安。

でも喜んでもらえたら嬉しい。

そうして刺繍を進め。

旦那様が帰宅されたら手を止める。

一緒に夕食を取って。

今日あったことを話して。

旦那様の話を聞いて。

他愛のない会話をして。

また翌日も同じように過ごす。


穏やかで、静かで、優しくて。


「……本当に幸せ」


気づけば、そんな言葉が自然に零れるようになっていた。

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