18:たとえば、あなたがいるだけで
「コーラ!DD!無事だったか!」
部屋に入ってきたコーラとDDを、セインは二人まとめて抱きしめた。
「来てくれてありがと、セイン」
「心配かけてごめんね」
少し大袈裟かとも思いながら、DDは体をセインにすりよせた。コーラも盛大にぐりぐりと頭をセインに押し付けている。あとから入ってきたジン・ルファスとカノメ・カジカの目もある。やりすぎくらいがちょうどいいか。
「どこにいたんだ」
大きな声で問うセインの意図を汲んで、DDは逡巡しているポーズをとる。
「うん…」
「どうした?」
心配そうに眉をひそめたセインがDDの顔をのぞきこむ。
「大丈夫だ。何か理由があってここから離れたんだろう?事情があってとった行動をとがめることはない」
聞きなれたセインの声に、思いがけず目の裏が赤く染まりかけて、DDは慌ててうつむいた。
本当は、不安だったのだ。
最善を選んだつもりでも、予期せぬ結果を招く可能性はあった。
その責任も全部自分が負うつもりではいた。覚悟はしていた。それなのに、頼れる相手が現れた途端、糸が切れてしまいそうになる。
国を離れた時に決めたじゃないか。ここで子どもに戻るわけにはいかない。
一度強く瞼を閉じる。そして答えようとしたとき、
「もう、私が限界だったの」
隣のコーラがセインにすがりついた。
「ここにいたくないって、どこかに連れてってって、DDにお願いしたの」
瞳を潤ませて訴える。
「そうか」
セインはコーラの髪を左手で撫でて、その頭頂部に小さなキスを落とす。それから、DDの腰に回している右手に軽く力を込めてDDの注意を引いて目を合わせると、口の端をぎゅっと広げた。DDの大好きな、目じりの皺が現れる。
目が笑っていた。いたずらっぽい光を宿して。
それだけで、気持ちがぐうううんと上向くのを感じる。我ながら単純だと思いながら、DDもえへへと笑った。体に回された太い腕が、何よりも自分を安心させてくれる。
大切なのは今とこれから。たらればには意味がない。自分たちの行動が、今この現在をつくっているのだから。
「結果オーライか?」
少し離れたところにいるジン・ルファスとカノメ・カジカには聞こえないような声でセインがささやき、DDはこくりと頷いた。
「この国に伝手ができた。信頼できる人も見つけた」
少し背伸びして、セインの耳元でささやく。それから踵を元に戻して、きっぱりと言った。
「どこにいたかは、人の迷惑になるから言えない。でも、気分転換にはなったし、それに」
部屋の入り口で立ち止まったままのジン・ルファスとカノメ・カジカに向かって言う。
「あの人たちが環境の改善を担保してくれたからね」
セインの前で念を押す。別に疑っているわけではないけれど、言ったことは守ってもらわないと。
「そうか」
目尻を下げて笑みを浮かべたセインが優しくて格好良くて、DDはもう一度えへへと笑う。そんなDDをコーラが笑った。
「その顔。デレデレしすぎじゃない?」
「いいんだよ、DDはこれで。可愛いだろ?」
そう言ってセインはDDに回した腕に力をこめると、またコーラの頭のてっぺんに唇を寄せた。
「大丈夫、コーラも同じくらい可愛いから」
「そんなこと言って。騙されないんだからね」
わざとらしく身をくねらすコーラがおかしくて、DDは素で笑った。いつもの気の置けないやり取りがDDの顔を輝かせる。
「ルファスさん、カジカさん」
ひとしきりいちゃいちゃしたあと、セインは立ち尽くすジンとカジカに声をかけた。背筋を伸ばして胸を張ったセインからは、今までと違った引き締まった空気が流れ出て、対峙する二人の表情がにわかに緊張する。
「大事な子たちが無事に帰ってきました。それが一番大切なことです。DDたちがどこにいたかは詮索しないでやってください。いいですか?」
口調は丁寧だが、有無を言わせる有余はなかった。
「わかりました」
ジンも堅い声で答える。
「今回のことは、これで終了ということで」
コーラとDDを抱え込んで、ジンは宣言した。
「はい」
「あなた方は改善してくださると言った。それを信じて私は明日戻ります。国へは特に報告はしません。二人は無事で、ことさらに取り立てるべき問題はなかったと」
「…ありがとうございます」
「コーラとDDをくれぐれもよろしくお願いします。もちろんアールのことも」
「間違いなく、お引き受けします」
ジンの答えを聞いて、セインはまた、二人をぎゅっと抱きしめた。




