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聖獣の庭、あるいは忘却曲線  作者: 蒼乃モネ
第三章 星降る獣の里、記憶の断片を
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第8話 共生の夢

 昨夜の鬱屈した集会の様子とはうって変わり、ロゼは「聖獣使い」として里の民に熱烈に歓迎され、困惑していた。

 次から次へと召喚獣の飼いならし方を訊ねられ、女性や子供からも人気者だった。

 獣使いたちにとって、聖獣を扱う者は特別だった。むろん聖獣であるアルフレッドも、人の姿から獣の姿へ変化することを所望され、それに従った。

 里でただ一人の聖獣使いであった里の長クジャールも、民の中に混じり興味深そうに時折、質問を投げかけていた。


「なんかさ、変な感じ」

 ハークは、里を散策するケイトとラピスラズリの後をついて回り、話し続けた。

「これまでの道中では、獣使いってだけで怪しまれることが多かったんだ。だから隠してた。アルフレッドも人間の姿に変化して、バレないように神経を使っていたし」

 目立たぬように行動したいケイトは、ハークのことをうっとおしそうにしていた。

 しかし、まだ若いとはいえ官僚なだけあり、生真面目な性格らしく応じてくれた。

「それは同感だな。俺たちだって色々な地を巡ったからわかる。ここはなかでも異例だが」

「人間なんてそんなものよ。凝り固まった価値観でしか、ものを見ることができないの。そのうえ、手のひら返しだってよくあること。このあいだの街で思い知ったでしょう」

 ラピスラズリは、太陽都市レオセルダのことを言っているようだった。マーティアを「危険な魔女」に仕立て上げた街の住民を指しているのだろう。

 カーニバルにて魔獣が暴走した話題を口にすることは、その後街でのタブーとなった。

 商い関係者の中では、全員一致で、これまで通り観光都市として盛り立てていく方向でまとまったらしい。

 恒例のカーニバルの姿も、より販促寄りへと変容していくだろうとケイトが言っていた。

 その一連の流れを思い出し、やりきれないよとハークはため息をついた。

「世界中の人間が、どこも同じに獣と共存できればいいのに」

 ハークの本心だった。むろん、最愛の妻を獣の襲撃で失ったフィルの前では到底口にできることではない。

 自分は、身を守るために護身術として獣と戦っているが、できるならば争いたくなかった。

 凶暴な野生の獣と完全に共生するのは不可能だと、ロゼとフィルが口をそろえて言っていたが、密かにハークはそんな未来を夢見るのだった。


「あんたの思考は、あいかわらず甘い」

 ケイトは、振り返って諭すようにハークに言い聞かせた。

 静かな怒りというわけではなかった。例えるならば、憐憫だった。

「あんたは、まだ世界を知らない。見ていない。だから、そう言える。今このときに何が起こっているのか、知らないんだ」

「また、世間知らずだって言うのか。そりゃあこれまで国中回ってきたようなケイトたちに比べたら、何も言えないけど」

 ハークは、口を尖らせた。

「確かに、俺は森の孤児院を出てから日も浅いし、田舎者だって自覚はあるけどさ」

「…いや、今はそれでいい。これから、嫌ってほど経験するだろう。すべての物事の流れが通じるあの王都に向かうんだ。覚悟しておけ」

「わかってるよ。あとさ、何度も聞いてるが、ロゼたちは向こうでも無事でいられるんだろうな」

「それは俺とフィルが保証する」

 ケイトは、不安げなハークの肩を軽く叩いた。ケイトの瞳は、まっすぐハークに向けられていた。

 ラピスラズリも隣で微笑んでいた。

「大丈夫よぅ、獣使いの安全を確保するための登録に行くんだから。これまでのほうが危険だった。捕まってなかったのが不思議なくらい」

 ハークはわかってるつもり、と身をひいた。もうすでに旅の途中で、何度か交わしているやりとりだった。

「俺はお前らのこと信じたい。でも、ロゼとアルフレッドは俺の大事な仲間だから危険な目には絶対合わせたくないんだ。まだ疑ってて悪いと思ってるよ」

「当然のことだ。疑われるのは慣れてる。俺たちはただ、あんたたちにとって有益な道を見誤るな、としか」

 ケイトとラピスラズリは、それ以降は何も言わなかった。

 しかしハークにとって、このときはじめて、この二人に少しの親しみが感じられた。

 今後も彼らの目的の遂行が、自分たちの行動の一切を支配するだろうというのは、わかっているつもりなのだが。

 いまだ霧のように渦巻く疑念は完全に晴れずとも、二人のどこか寂しげな表情になぜか安堵したのは事実だった。

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