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聖獣の庭、あるいは忘却曲線  作者: 蒼乃モネ
第三章 星降る獣の里、記憶の断片を
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第5話 魔獣と毒

 ―許さない許さない許さない。あいつら全員皆殺しにしてやったものを…

 屋敷の外、人目につかぬ集落のはずれへ、引きずるように連れてこられたラピスラズリの呪詛は、尾を引くように続いていた。

 赤い瞳に不穏な暗い炎を宿し、里の民への殺意をみなぎらせている。

 アルフレッドは、いたって冷ややかな目でそれを眺めていた。


「殺されていたのは貴女の方ですよ。その疲労のたまった身体で、あの数の獣使いを相手にできましたか」

「お前に何がわかる!綺麗ごとづくめの聖獣のお前に!」

 その言葉に多少なりともむっとしたアルフレッドだったが、あくまで表情を崩さなかった。

「ケイト殿。黙ってみてないで、この暴れ馬を何とかしてくれませんか」

 名を呼ばれて、ようやく心ここにあらずだったケイトがラピスラズリのもとに寄った。

「ラピスいい加減にしろ。俺のことで怒ってくれるのはありがたいが、厄介事を呼び込んでどうする」

 主人になだめられても、この魔獣の怒りは収まりそうになかった。

「ケイトも私も!好きこのんでこんなにボロボロになってるわけじゃないのに!自由勝手に生きるあいつらにわかるものか!」

「もういい、それ以上余計なこと言うな」

 ケイトの言葉にようやくラピスラズリは大人しくなった。否、糸が切れたように力なくその場に崩れ落ちた。

 同時に、人の姿を保っていられなくなり、魔獣の姿へと変化した。

 ―ぴんとたった耳、全身をおおうグレージュの短毛、蝙蝠あるいは悪魔のような翼と尾。猛禽の爪。アルフレッドの目から見ても、やはり歪な獣だった。

 ケイトがやむなくラピスラズリへの魔力の供給を断ち切ったのだった。

 この魔獣は、身体をめぐる魔力の濃度の変化にショックを受けて気を失っただけらしい。


 アルフレッドは、そんなこともできたのかと目を丸くした。

「もっと早くそうしてくれれば、僕の生傷が少なく済んだはずですが」

「あまりやりたくなかった。ましてさっきの場では。ラピスの本来の姿を見たらあいつらは悦んで、さらに騒ぎ立てただろうから」

「ああ、想像に難くありませんね」

 アルフレッドは、自らも聖獣の姿に変化し、死体のようにだらりと横たわったラピスラズリをケイトの手を借りて背に乗せた。

 そういえば、とアルフレッドは口を開いた。

「王都の意向は、毒を以て毒を制すということでしょうか」

 巨大な蒼い狼の如き姿で難解な言葉を話すアルフレッドの存在は、ことさらケイトの目に奇妙に映った。

「いよいよ、なぜ王都が違法とする魔獣使いを雇い入れて、獣使いを押さえつけるのか気になりますねぇ。それにあなた方、まるで何か弱みでも握られているようで」

「その件について何も言うことはない。あと、お前の得体の知れなさは、正直気味悪い」

「それはお互い様でしょう。私はあなたがた御一行をもとより信用しておりませんので」

 アルフレッドは、言葉の最後にハーク殿と違ってね、と加えるのを忘れなかった。

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