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聖獣の庭、あるいは忘却曲線  作者: 蒼乃モネ
第三章 星降る獣の里、記憶の断片を
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第2話 集会につき

 屋敷の大広間にはぼんやりと明かりが灯されていた。

 村の有力者と思われる男たちが、左右顔を合わせる形で奥から手前までずらりと居並び、ひんやりと硬い板間に思い思いに座しているのだった。


 最奥の上座に構えるは、屋敷の主にしてこの集落の長。

 燭台の明かりが多数用意されているといえども、まだ暗い。

 ロゼたちの目が暗さに慣れるまで、彼らの表情をはっきりと見て取ることはできなかった。


 その代わりに、ロゼたちの入室に気付いた屋敷の主の声が四方に反響した。芯のある太い声だった。

「皆の者、その御方がくだんの聖獣使いだ」

 広間中にどよめきが走る。

「なんと、まだあどけない少女ではないか」

「あの娘が族長と同じ力をもつだと」

「考えられん」

 屋敷の入り口で出迎えた下働き風の青年が族長のそば近くへと先導する。

 突き刺さるような多数の視線を振り払うように進むと、そこには見知った黒髪の少年が既に席についていた。居心地悪そうに縮こまったハークだった。

「ロゼ、身体は大丈夫なのか」

 ハークは病み上がりのロゼを気遣い、火の気が近い自分の席を譲った。


 ふと向かい側に目をやると、フィルとケイトも並んで座していた。

 聖獣博士である初老のフィルは、気まずそうに好き放題伸ばした白いひげと髪をがしがしとかく。

 隣に座すケイトは、その不潔な動作を不快そうにしていた。

「嬢ちゃん、気を悪くしないでくれ。皆にとって女性の聖獣使いが、もの珍しいのだ」

「別に気にしてないわ」

 ロゼは、平静を装い静かに席に着いた。人型を保っているとはいえ、獣であるアルフレッドとラピスラズリは決まったことのように一歩引いた壁際へ。

 大勢の注目を浴びるということは、ロゼにとってこれまでにない状況であり、吐き気がするほどおぞましいことだった。

 妙なところで察しの良いハークも「見世物じゃないっての」と、嫌悪感を露わにしていた。

 族長らしき人物は一同が揃ったところで、咳ばらいを一つ。

 すぐさま沸いていた場がおさまった。


「お客人が揃ったところで改めて。私はクジャール。今は族長としてこの里を治めている。聖獣博士殿からすでに話は聞いた。ロゼ殿、私も貴女と同じ聖獣使いだ」

「どうも」

 ロゼは軽く会釈をしながらも、徐々に薄暗い空間に目が慣れてゆくのがわかった。

 族長クジャールは、体格の良い野生的な男だった。

 村の者たちと同じに毛皮製の衣服をまとい、重厚な革のベルトを締めている。

 鍛え抜かれた肉体には、いたるところに歴戦の傷が刻まれていた。

 ロゼは、たしかにこの男から聖獣使いの気配を直に感じ取っていた。

 ―それどころか、この広間に集うすべての人間が獣使いであるということに、とうに気づいていた。

 この空間にいる獣使いの力を持たざる人間は、わずかに下働き風の男と、聖獣博士のフィル、そして駆け出しの剣士ハークのみだった。


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