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幸福な悪夢  作者: あぽぉ
1/3

前編

気づくと俺は、真っ白な部屋に立っていた。

目の前には大きな白いグランドピアノが鎮座している。

ぼーっとそのピアノを見つめていると、いつの間にかピアノの前にこれまた真っ白なドレスを着た女性が座っていた。

女性は一息おいて、ゆっくり右手を鍵盤の上に乗せた。

そして、ゆっくりと弾き始める。

単調なリズムで、音階も単純なものの繰り返し。

まるで初めてピアノを触った子供のような演奏だ。

俺はただその単調な音の繰り返しを聞いていた。


どのくらいたった頃だろうか。

だんだん頭がふわふわして、意識が朦朧としてきて、全身に鳥肌が立ち、なんとも言えない気分になってきた。

なんと言うか、すごく気持ちがいい。

性的興奮に似ているような、全く違うような、不思議な快感が全身を支配する。

俺はついに立っていられなくなり、その場にへたり込んだ。

そんな俺には見向きもせず、取り憑かれたようにピアノを弾き続ける女性。

俺は完全に横になり、ピアノの音と快感に身を委ねた。


◇◇◇


ピピ、ピピ、ピピ

俺はスマホのアラームにより、現実に引き戻された。

まだ頭はぼーっとしている。

まるで賢者タイムのような。

ふと下半身が冷たいことに気づく。

やっちまったようだ。

しかしそれを確かめる気力もない。


結局、アラームが鳴ってから30分後に、やっと体を起こすことができた。

急いで仕事に行かなければ。

とりあえずシャワーを浴び、スーツに着替え、家を飛び出した。


電車の中で、あの夢について考えてみる。

どうしてあんな気分になったんだろう。

今までエッチな夢は見たことはある。

しかし、あれほどの快感を感じたことはない。

そもそもあの夢のどこに興奮する要素があったのか。

女性の顔は見えなかったし、艶かしい素足が見えたわけでもない。

やはりあのピアノの音が原因か。

俺には絶対音感はないから、あの音がどの音階かはわからないが、今思い出すと、なんとも不気味な音階だった。

白い鍵盤は触らず、黒い鍵盤だけを弾いている感じ。

とにかく不協和音だった。

なぜあんな音に気持ちよくなったのか。

まぁ夢なんて常識じゃあ考えられないことが起きても不思議じゃない。

にしても異常な夢だった。

その日、一日中、夢の余韻が抜けなかった。


仕事を終え、アパートへ帰り、玄関の扉を開けた瞬間、アンモニア臭が鼻を刺した。

そこで、今朝のベッドの悲惨な光景を思い出し顔をしかめる。

シーツには、黄色いシミができていた。

30歳にもなってお漏らしするとは、情けない。

ため息をつきながらシーツを剥ぎ取り、洗濯に入れ、新しいシーツを引き直す。


コンビニで買ってきた弁当を食べながら、なんとなくスマホでピアノ演奏の動画を適当に再生してみた。

まぁ何も感じないよな。

ピアノに興奮すると言う性癖ではなかったことに安堵し、弁当を平らげた。


今夜もあの夢みれるかな。

なんて期待しつつ、俺は床についた。



そして、希望は叶った。

また、あの白い部屋、白いピアノ、白いドレスの女性。

例の不協和音が流れ出す。

俺はまた数分で、快感に溺れた。

脳がしびれ、理性を失っていく。 

やっぱり最高の夢だった。

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