第二項 水なき場所に水死体は浮かばぬ
「なぁ熙なんで探偵物の作品だと、現場へ向かう途中の描写が少ないか考えたことあるか?」
枢は現場に行く道中暇になったので隣にいた煕に問いかけた
「いえ…考えたこともなかったです」
「勿論『尺の都合』だとか『面白みがない』と言う理由があると思うが私が思っているのは『鬆がない』からだ、勿論全部の博品が『鬆がない』わけじゃないが基本的にはないと思っている」
枢は車の窓の外、急速に流れ去る瑞穂市の街並みを横目に退屈そうに言った
「いいかい、読者や観客と言った第四者はあくまで『事件』といったようなドロドロとしたことがメインで読んでいるだろう?」
「いや…枢さん漫画等々沢山読んでいる私が言いますが…あくまで『事件』はメインディッシュ、道中の会話や日常会話はサブかもしれませんが重要なスパイスになります」
「フフ…面白いことを言うね、確かに煕の言うとおり、料理の重要なスパイスになる、だが私が言う『鬆』はね、犯人が一生懸命塗り固めた『存在しない現実』だよ、道中の会話のような無害な空虚ではなく、『中身があると見せかけた架空世界』を指し示しているんだ」
「流石は、枢さん…『瑞穂の心理障害作成者』の異名に相応しい思考ですね」
「その異名はあまり言わないでほしい、私の『鬆』が暴かれているような気分になるからな……さてそろそろ『鳳凰カントリー♣︎』に着くな、執事が丹生込めて組み上げたジェンガを一つずつ抜いていこうか」
車が砂利を音を立てながら止まると、目の前にはどこまでも続く不自然なほどに鮮やかな緑が広がっていた、やはりこのゴルフ場には違和感がある『池』がない、その代わりバンカーが異常に多い
「あぁ、そうそう煕、私の考えだが、こういう『犯人追跡ジェンガ』だと一番頑丈な所じゃなく、一番下一番脆い所から抜くって決めてるんだ、だって一番『崩れ落ちる』音が大きくなるからね」
枢は車をおり、さらりと自身の紺色の髪の毛を靡かせた
「なるほど、まぁ私はどんな事件でも頑丈な場所から抜いて行く派です、一気に真相に近づくのは難しいですから」
煕は微笑みながら言った
奥のホールでゴルフを行っているタキシード姿の男性がいた
「あら、酒々井さん今日もゴルフですか?」
「おぉ、先日僕たちの館に来た探偵さんじゃないですか、ええ体を動かさないと人間は劣化していきますからね」
酒々井はニコニコと笑いながら言った
「ええ、その考えには同感します、停滞は腐敗を招きますからね、死体のように」
枢はヒールからスニーカーに履き替え、青々とした芝生、そしてバンカーまで行った
「ですが酒々井さん、貴方の言う『劣化』は『肉体』のことですか?それとも動かさずにいるといずれ見つかってしまう『証拠』ですか?」
枢の言葉に、酒々井はスイングを止めることなく、美しい放物線を描きボールを飛ばした、その白球はゴールに吸い込まれるように入った
「私が言ったのは『肉体』の方ですよ、全てが全て含みがあると考えない方がいいですよ」
「それは失礼、私は職業病という名の『鬆』に蝕まれているのかもしれませんね」
枢は自身の頭を不自然に、不規則なリズムを取りながら叩いた
「あの…酒々井さん、ごめんなさいずっと思ってたんですけど貴方の名前って『酒々井』じゃないですよね?」
煕が顔を顰めながら言った
「おや?どうしてどう思うんですか?」
「読み方はいいんですよ、読み方は」
「ほう?」
「貴方の名前って『止水』ですよね?」
煕が言った言葉に███はピクリと反応した
「おっと、それはまた随分な詩的な解釈ですね、まぁそれは人それぞれの解釈の違いですかね」
「人の名と言うものは解釈関係なく決められた『定義』ですよ」
「『定義』か……煕、良いところをつくじゃないか」
枢は不規則に頭を叩いていた手を止め、自身の紺色の髪を耳にかけた
「今から私は能力を使わせてもらいます、良いですか?███さん」
「良いですよ、だって僕は犯人じゃないんで」
枢は口角を歪な形に吊り上げ、自身の胸元に手を添えた
『鬆入りを行う推理』
「証拠がなければ、粗探しをすれば良いじゃない」
「…絶対有罪にする悪質検察官の世界線のマリーアントワネットやめてください枢さん」
「…ふふ」
枢は煕のツッコミに思わず笑ってしまった
枢が能力を発動したら███の体がモノクロ調になった
その瞬間、腹部のみ黒くなった
(やはり彼は何か隠しているな…)
「あの探偵さん、僕も能力を使ってるよろしいでしょうか?念の為です」
枢が能力を発動した瞬間███は提案をした
「いえ…それは許可できませんね、もし貴方の能力が私のような『追跡系』じゃなく『攻撃系』だった場合、煕を危険な状態にさせてしまいますらかね」
「すみません、一度だけ貴方の指示を無視します」
『凝固する砂漠』
その瞬間止水の背後にあったバンカーの砂が浮かび上がった
「…危ないですよ、周りには気をつけないと」
その瞬間、煕と枢の周りに盾のように頑丈な砂壁が生まれた、しかしその瞬間砂が湿った『水の砲撃』だ
「正直な所我々従者でも、従者同士の能力は伏せられていたんです、僕の能力『凝固する砂漠』は『砂』を操る能力です、主人は溺死体なんでしょう?ならば私の能力は違うのではないでしょうか?」
酒々井はニコニコと不敵な笑みを浮かばせながら言った
「酒々井さん、貴方の能力は本当に『砂』を操る能力ですか?」
煕は目を細くし睨みつけながら言った
「ええ、そうですよ、僕の能力は本当に『砂』を操る能力です」
「煕、もし彼が水使いなのであれば私達はとっくに殺されていた
…ま犯人の候補から消すためのブラフの可能性も捨てきれないが、一旦は信じるってのもいいんじゃないか?」
枢は彼が隠している『鬆』に違和感を抱いたが一時的に信用しようとした
「ですが…!」
「まぁまぁ、落ち着いてくれよ『感情』で狂わせたら折角の推理が台無しだ」
枢はスニーカーをトントンとリズムを刻みながら、酒々井を睨みつけた
「『彼は嘘をついているか分からない』これが私の見解だよ、だがしすいさん、貴方の『砂を操る』はそれはそれで事実かもしれない、ですが一番怪しいのは貴方です貴方の主人は『真水』で殺されていたつまり濾過されていたんですよ、濾過で必要なものに砂を含んでいる…だから貴方が今の中で一番怪しい人間です」
その言葉に酒々井の表情は硬直した
「勿論他者の可能性は大いにあります…ですから一旦は貴方を『信じます』裏切らないでくださいね?」
「ええ、勿論」
酒々井は再度不敵な笑みを浮かべた
「因みに次はどちらに?」
「屏川 蝶番さんがいたちゃんこ鍋屋『ゆっちゃん』に行きます」
枢はシスイに背を向けながら応答した
応答をしたのちハイヒールに履き替え、車に乗った
「…さて次は『訥謨爾河 眠』さんの所へ行こうか」
「あれ?蝶番さんじゃないんですか?」
「馬鹿正直に言ったら、先に連絡される可能性があるからな」
枢は窓の外を見ながらそういった
「幸福という感覚は人それぞれ全然違う、その『幸福』を強要するのが『犯罪』だ、いつも思うが、人間は全員『悪』だどんな人間でも誰かしらの『悪』になる」
と枢は独り言を呟いた
次回:第三項『現実と仮想現実は紙一重』
メイドである、眠がいたと思われる漫画喫茶『空風BASE・O』に向かう枢一行、酒々井だけが嘘をついているのか?眠が嘘をついているのか?それまた両方が嘘をついているのか、真実は無数に存在する───次回をお楽しみに




