39.結果の表れと、不穏な出来事 ①
「まぁ、王宮魔法師に受かったの? 素晴らしいわ」
私は嬉しくなって教え子の一人に笑いかける。
私が魔法を教えていた子の一人が、王宮魔法師の試験を受けにいっていた。正直落ちたとしても、受験したという経験があればそれだけでこの先の糧にはなる。
もちろん、私は教え子が試験に受かるよう一生懸命教えはした。けれども私は今の王宮魔法師について知らない。
そもそも引きこもっていた間に、私の知識はずっと停滞していた。だからこそ、今の王宮魔法師を目指す子に教えられるだけの知識が自分にあるのかどうかも分からなかった。
最近ではちゃんと新たな知識も身に着けようとはしているけれど……でもそれだけで足りるとは分からなかったから。
だからこうして教え子の一人が王宮魔法師に受かってくれて私は嬉しかった。
「マルちゃんのおかげだよ! これから私、王都に行くことになるけれど、気を付けることとかある……? 平民だと、目立つかなぁ」
「そうね。平民の出身で王宮勤めになれる人って早々居ないもの。だから周りからもしかしたら嫌な目には遭うかもしれない。でもね、安心して」
私は安心させるようににっこりと笑った。
「安心?」
「ええ。お兄様経由でちゃんとあなたの後ろ盾を私や実家でするから。そしたら下手に口出しをしてくる人なんていなくなるもの。それに知り合いたちにも連絡しておくから何も心配しなくていいわ。あなたはあなたらしく、王宮魔法師として職務だけに熱中してくれればいいの」
私は教え子たちがのびのびと生活が出来るように、出来ることはなんでもする。
……私、平民になろうと決意していたのに相変わらず実家とのつながりは持ったままだ。そのことも不思議なことよね。家を出た頃は想像もしていなかった。
そもそも生きていくことに必死で、私はこうしてやりたいことを見つけられるとも思っていなかった。
――でもこれからの事を思えば、家族に厚意に感謝して、甘えることにしよう。
意地をはってどうのこうのするよりもその方が教え子のためにもなる。
「マルちゃんって凄い家の出なんだよね。マルちゃんの家が後ろ盾だったら、私大丈夫なの?」
「おそらくね。……ただ逆に目をつけられることもあるかもしれないけれど」
「そうなの?」
「ええ。ある意味、狙われるかもしれない。ただそれでも、後ろ盾なしで働くよりははるかに良いとは思うわ」
私はそう言って忠告をする。
公爵家が後ろ盾になれば平民とはいえ、周りは蔑ろには基本は出来ないはず。ただしいまだに王宮では私のことを惜しんでいる声もあるらしいので、そのあたりがどう影響するか分からない。
過去の栄光に縋る人って多いけれど、勘弁してもらいたい。王宮の事情をお兄様達はそこまで私には語らないけれども、たまに聞こえてくる噂の中でオタリー様の王妃としての職務に不足があると言われているのだから。
「そうなんだ。でも私、マルちゃんから魔法を教わったっていうのを隠す気はないから、結局それでどうのこうの言う人はいるのかもしれないけれど、別にいいかなって」
軽い調子でそう言われる。
私から魔法を教わったことで嫌な思いをすることもあると分かった上でそう言ってくれているのだ。
それならば私が後ろ向きなことばかりを言うわけにもいかない。
私は社交界の場に戻る気もないし、以前のように貴族らしく生きるつもりもない。それでも私のやり方で出来ることはきっとあるはず。
「そう。なら、私はあなたの教師として誇れるような結果を出せるように頑張るわ」
例えばこれから先、王宮魔法師以外にも私の影響で活躍する人たちも増えるかもしれない。その時に昔の私を知る人たちは私に関わろうとはしないかもしれない。それに私の知り合いとも、面倒を嫌がって関わらないかも。
そういうことで知り合いの子達が嫌な思いをすることは避けたい。
昔のような生き方をするつもりはないけれども、今の私を昔の知り合いたちに示すのは必要なのかもしれない。昔、一度私は挫折したけれども今はこうやって生きているのだと。
「マルちゃんがそう言ってくれるの、心強い! マルちゃん、凄いもんね」
少なくともこの子は、私のことを信用してくれている。私ならば、きっと何かあった時にどうにかできるはずだとそう思ってくれているのだとは思う。
この子だけじゃなくて、他の私が教えている子たちもそう。
――その期待が重い。一度失敗した私がそんなことを出来るのだろうかとそんなことも思う。
けれど私は、それでも期待には応えたいと思っているから出来る限りのことをする。
教え子達が就職先で困らないように私は動く。それに生活がしやすいように、遠く離れた地からも、手助けはする。
それが私が出来る、最善のこと。
私はそんなことを考えて、頑張ろうと決意をするのだった。




