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「バルザス魔王国より、停戦合意に基づく第一回定期会合の受諾回答が届きました」
ケンジが報告すると、領主バルトは深く頷いた。
「そうか。あの停戦時に交わした条項が、いよいよ動き出すわけだな」
「ええ。今回の会合は、今後の和平を占う第一歩になります」
魔族側にとってケンジは、和睦の立役者であり、「油断ならない智者」だ。ある程度魔族側は警戒してくると考えられる。また、定期会合という公的な場で魔素駆動の人形技術について聞くわけにもいかない。移動中にノアと相談だな。
「今回は馬車で行きます。前回は飛竜での移動だったのでバルザスの状況が分かっていません。なので、実地調査をしながら向かいます。……時間はかかりますが」
移動中に情報収集をしながら、今後の方針について考える時間を作る。飛竜を魔族が手配してもらい借りを作るのを避けたいのもある。まあ、本音は飛竜に乗るのは御免というのもあるが……。かつてリィザと共に乗った飛竜の恐怖を思い出して身震いするケンジ。
一方、領主館の裏庭では、リィザが馬車の備品を積み込んでいた。その顔は、未知の地への期待に満ちている。
「ケンジ! 出発の準備はできてるわよ」
「手際がいいな」
「早く出発したくて。ノアには感謝してるけど……その、いつまでも『三人一緒』っていうのは、ちょっとね。……私たち、付き合ってるんだし」
リィザは最後の方を小声でモゴモゴと言いながら、真っ赤な顔で荷物を押し込んだ。
(マスター、リィザ様。私の演算によれば、馬車での移動時間は片道で約十日間です。付き合いってから初めての旅行。楽しみですね)
顔を見合わせるケンジとリィザ。早くノアを隔離したい気持ちが一致した。
「それは置いといて。ゴーレムの技術は調べる方法を考えてみてくれ」
(承知いたしました。まずは目的のゴーレム技術がバルザスでどのように扱われているかを把握する必要があります。グランヴェール王国の王都の書庫で知りえた情報なので、秘匿されている技術かもしれません。馬車での移動中にバルザスの技術レベルを調べましょう。)
ノアの言う通りだ。ゴーレムが日常的に利用されていれば特に問題ないが、秘匿さえていた場合、下手に探りを入れるのは危険だ。
「頼りにはなるんだけど……」
(私が一日も早くその器を手に入れ、マスターとリィザ様から物理的にデタッチされるために頑張りましょう)
「余計なことも言うようになったんだよなぁ」
1時間後、準備を整えた馬車が、カレンベルクの城門を静かに出発した。
目指すは国境の先、魔族の領域。




