エピローグ
カレンベルクに帰還して数日。これまでの激務が嘘のように、ケンジとリィザは領主館の広い庭園で穏やかな時間を過ごしていた。
咲き誇る花々に囲まれ、ベンチで並んで座る。これまでは「相棒」だったが、今は公認のパートナーだ。しかし、どこか空気が落ち着かない。
「ねえ、ケンジ。……ちょっと言いにくいんだけど」
リィザが膝の上で指をいじりながら、小声で切り出した。
「どうした? 魔法剣の練習でも、何か気になることか?」
「……そうじゃなくて。その……ノアのことなんだけど。ずっと一緒なのが、なんていうか、その……気になっちゃって」
ケンジは一瞬キョトンとしたが、すぐに深い溜息をついて頷いた。
「……実は、俺もそれは思っていた。いや、ノアには助けられてるし感謝してるんだ。でも、二人の会話が全部ログに残ってると思うと、なんていうか……」
(マスター、リィザ様。それは心外です。私はお二人の幸福を最大化するために全力を尽くしており、決して悪意を持って観察しているわけでは……いえ、ノア、悲しいです。胸の奥の演算回路がチクチクします)
「そういうところが気になるのよ!」
「そういうところが気になるんだよ!」
二人のツッコミが綺麗に重なった。
(お二人がお付き合いするうえで、プライバシーに配慮した『恋愛支援モード』も搭載可能ですが……)
「いや、支援されるのが嫌なんだって。常に誰かに見守られてるなんて普通ないからな」
ケンジが頭を抱えると、ノアはしばらく「処理中」の沈黙を保ったあと、今までの現代知識と異世界の魔法理論を総動員した案を提示した。
(……ご要望を理解しました。お二人の物理的・精神的なプライバシーを確保しつつ、私のサポート能力を維持するための解決策を提案します。……自律型魔導人形への意識転送です)
「ゴーレムに……ノアを移すのか?」
(はい。あくまで私はマスターのスキルですので、本体はマスターの中に残りますが、遠隔端末としてゴーレムを動かすのです。その間、マスターの中のノアをオフモードに設定すれば、私は物理的に『外にいる個体』となります)
ケンジは少し眉をひそめた。
「リスクはないのか? もしそのゴーレムが壊れたら、ノア、お前が消えてしまうんじゃないか?」
(ご心配ありがとうございます、マスター。ですが、あくまで端末ですので壊れてもデータはマスターに同期されます。前世の言葉で言えば『フィジカルAI』……物理的な肉体を持つAIというものです)
「物理的な肉体……。つまり、俺の頭の中にいるんじゃなくて、横に立っている一人の仲間としてノアが存在するってことか」
「離れてもらえば『誰かに見られてる』感じはなくなるのね」
リィザも身を乗り出して賛成する。
(お二人でイチャイチャされる際も、私が席を外して別の部屋へ行くことが物理的に可能になります)
「……言い方はアレだが、それが一番現実的だな」
二人は顔を見合わせた。
「よし、リィザ。冒険やレベリングの前にまずはノアを入れるための最高のゴーレム探しだ。最優先でやろう」
「そうね! ノアのために頑張りましょう!」
(……理由に使われている気がしますが、マスターとリィザ様の幸福に繋がるのであれば甘んじて受け入れます)
カレンベルクに戻ったら「レベル上げ」や「ベルトランへ行く」と話していたケンジとリィザだったが、「二人きりの時間」のための新たな冒険が幕を開ける。
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