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「リィザ、次の店はあそこだ。……ノア、準備はいいか」
(マスター。嗅覚および視覚による成分分析を開始。再現率98%を保証します)
二人は連日、王都の目抜き通りで食べ歩きに興じていた。リィザが「これ、美味しいわね!」と串焼きやパイに舌鼓を打つ横で、ケンジは一口食べるごとに、その調味料の配合や火入れの時間をノアに記録させていく。
「……なるほど。このソースのコクは、果実を発酵させたものか」
王都のグルメを再現しようと目論むケンジ。
午後は王宮図書館の奥深くで「魔導書の解読」をしていた。
ケンジは古い羊皮紙に刻まれた複雑な術式をノアに記憶させていく。
(再構成を完了しました。マスター、これにより特定の地点への『転移』が可能になりました。ただし、一度訪れた場所、かつ魔力の標を設置した地点に限ります)
他にも実戦と実務に役立つ魔法を次々と習得していった。
休息も一週間が過ぎた頃、二人は王都外縁の丘で沈みゆく夕日を眺めていた。
「ねえ、ケンジ。カレンベルクに戻ったら、どうするの?」
リィザが、少しだけ真剣な面持ちで問いかけた。
「……そうだな。ひょんなことからカレンベルクの使者をしているが、冒険者稼業を再開しようかと思ってるんだ。リィザはどうしたい」
「……私は、どっちでもいいわよ。あなたがカレンベルクに残るなら、私も残るし、冒険者に戻るなら、私は最強の冒険者を目指すわ。とりあえずベルトランに顔を出さないとね」
リィザは笑いながら、最後のお菓子を口に放り込んだ。
「……そろそろ、荷物をまとめてカレンベルクに戻るか。道すがらどうするか相談しよう」
二人が宿へ戻ろうとしたその時、王宮の紋章をつけた早馬が、砂煙を上げて二人の前で止まった。
「ケンジ殿! リィザ殿! お待ちを!」
伝令兵が、肩で息をしながら叫ぶ。
「……陛下より、緊急の呼び出しです! 至急、参内を!」
ケンジとリィザは顔を見合わせた。
「……カレンベルクに戻るのは遅れそうだな」




