22
森へ入って一時間。俺たちはすでに数度の接敵を経験していた。
「シッ!」
リィザが鋭く踏み込む。身体強化を解いた状態での地味な筋トレと「身体強化」が、彼女の剣を別次元のものに変えていた。 リィザの剣が閃くたび、襲いかかる『牙狼』が文字通り一刀両断されていく。
「なっ……おい、リィザ! お前、そんなに動きが速かったか!?」
先行するリィザの背中を見て、バルガスが驚愕の声を上げる。 以前の彼女は「重装騎士」らしい力任せの戦い方だったはずだ。だが今の動きは、しなやかで、それでいて一撃の重みが以前の数倍はある。
(リィザはさすがだな。さて、俺はどうするか)
俺はまだ戦っていない。ノアのサーチで敵の位置を特定し、リィザに最短ルートを伝えているだけだ。 バルガスは、俺のことをリィザの補助役ぐらいに思っていることだろう。
「少し早いですが、ここで休憩にしましょう」
俺がそう提案すると、バルガスは辺りを警戒しながら言った。 「休憩だと? こんな魔物の多い森で、無防備に飯を食う余裕なんて――」
「『盛り上がれ(アース・ウォール)』」
俺が地面に手を触れると、土魔法が発動し、あっという間に周囲を高さ2メートルほどの堅牢な土壁が囲った。
「 土魔法、しかもかなりの早さだ」
バルガスが呆気に取られている間に、俺は買ってきた食料を取り出す。 「冷えたままだと効率が悪いですからね。『加熱』」
微細な火魔法でパンと干し肉、チーズを適度に温める。香ばしい匂いが土壁内に広がった。
「討伐中に安全な場所で温かい食事。ケンジと一緒だと快適だな」 リィザが満足そうにパンを頬張る。
「……あんちゃん、お前。魔法を生活の道具として使いこなしてやがるのか。噂の事務魔法使いは伊達じゃないな」
バルガスは素直に感心した様子だった。
午後の行軍が始まると、今度は俺が前に出た。
「ノア、照準補正を」 『了解。右前方、風の刃展開準備』
俺が指先を振るうと、目に見えない風の刃が走り、襲いかかろうとした大蛇の頭を正確に撥ね飛ばした。さらに、逃げようとする別の魔物へ向けて、指先から氷の刃を連射する。
「『火・土・風・氷』……! 四系統も使いこなすのか!? さっきの土魔法といいかなりの精度。とてもレベル5とは思えねぇ……!『教育係』の出番はないかもな……」
バルガスが驚いた様子でつぶやいた。
しばらくすると、辺りが急に静まり返った。 鳥の鳴き声すら消え、不気味な静寂が森を支配する。
『マスター、警告。前方200メートル地点に強力な熱源を確認。周辺の魔物が消失したのは、捕食者である「主」の接近によるものと推測されます』
「フォレストベアだ。ようやくお出ましか」
奥から木々がきしむ音がする。白色の毛皮に覆われた巨躯がこちらに突進してきた。
「グオォォォォォォン!!」
森を震わせる咆哮。バルガスが大剣を抜く。 俺とリィザも身構えた。




