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114. 取材

記者がやってきたのは、その翌日の午後だった。


ザイカの高速馬車から降りてきたその記者は

小柄な人間の女性であった。


「初めまして、ティエラ・ネレイドです。

日刊多人種新聞イーシュトライン支社から参りました!」


実直そうな立ち振る舞いに、ユーリは好感を覚える。


「小羽屋支配人ユーリエ・ローワンです。

本日はよろしくお願い申し上げます。」


ライブラリラウンジでお茶を出した。


「素敵なレセプションですね。今度は個人的に泊まりにきたいです!」

ティエラは興味深げライブラリを見渡しお茶を一口飲んだ。

ユーリは是非、と微笑んだ。


「それでは早速、今回の予言騒動について

宿屋の支配人さん視点から感じていることを

率直に教えていただけますか?」


「予言に伴うキャンセルは、多分10件を超えてます。

そのうち、予言が原因だと言っているのは4組くらいですが。

夏以降の予約もいまいち鈍いです。」


「うーん、思ったより被害は深刻なんですね・・・」

ティエラは同情的な顔をユーリに向けた。


「本当ですよ・・・完全にとばっちりです。

花流星群をルミナス湿地で見られるなら

素晴らしく綺麗でしょうに。

個人的にはむしろ楽しみなんですけどね。」


ユーリはしょんぼりとする。

ティエラも同情的に頷く。


「予言は正直のところあまり興味がなかったので・・・

ここまでの影響を全く予想していませんでした。

ですが、こうもお客様が心配して、このリトルウィングに

来るのが怖いと思ってしまわれるという事でしたら

私もできる限りの調査と裏付け

皆様に安心してお泊り頂けるようなシステムを

ご提供したいです。」


ティエラは神妙な顔でメモを取った。


「それが、今回のルミナス竜と、アステア虎の神話であると?」


ユーリは頷いた。


「はい、それもあります。

先日イーシュトライン観光組合(ギルド)の緊急会合がありまして

予言の文言は、それを指していると言う話をしました。

ですが、具体的にも対策が話し合われて

地域全体の宿屋が

災害時の避難訓練、結界の強固の必要性を再確認しております。

小羽屋も、結界は専門家のマリーン教授に監修いただきました。

なので何かあったとしても、大丈夫だと思うので

皆様には安心して来て欲しいのですが・・・」


「あのマリーン教授ですか?それはすごい!」

ティエラは目を丸くした。


魔除けの大結界を強固なものにするべく

マリーン先生に問い合わせをしたのだ。

この大結界なら噴火物からも守ってくれると言ってくれたが

多少の改良案もくれた。

更にありがたいことに、新聞の取材では自分が監修していると言っていいよ。

とまで言ってくれたのだ。


「そして、この予言の文言の竜と虎の伝説は

こういう、地学的要素もあって成り立った神話で・・・」


ユーリは、リトルウィング誌を持ち出し

エレマムやフェリクスが話してくれた伝承も交えて説明した。

地域のエルフから聞いたと言う程で

ハチから聞いた例の

雷と・・・厳密に言えば、雷雨の影響で大量発生したニオイムカデのせいであるとのことだが

ここは雷としておいた方が神話的で良い。

とにかく、雷と、花流星群が

竜が目を覚ますきっかけになっている

と言う伝承も存在すると伝えた。


ティエラは何度も頷きながら

筆を魔法のように高速で動かしてメモした。


30分くらいの取材を終えて

ティエラは

「貴重なお時間、ありがとうございました!」

と、気持ちの良いお辞儀をして小羽屋を去った。


次の目的地

リトルウィング村役場へと向かっていった。


その後、ルミナス高原牧場、蛍灯亭、ルミナス山荘にも行くらしい。


その三日後、例の記事が完成した。

新聞の一面、では無いものの

そこそこ大きく取り上げてもらった。


__________________


地域と社会欄 第三面


ルミナス地方──“予言”が揺るがす観光地の今


火山噴火の予言がささやかれる中、観光地として名高いルミナス地方に不安の影が広がっている。

「ここ数週間で、予言が理由と思われるキャンセルは10組を超えました」

そう語るのは、ルミナス村の宿屋『蛍灯亭』主人、メリナ・シュタイン氏だ。

現地では宿泊キャンセルが相次ぎ、観光業は深刻な打撃を受けている。

今月上旬にはイーシュトライン観光組合による緊急会議が開かれ、災害時の避難訓練や防護結界の強化が推奨される運びとなった。

「観光に来るお客様が“怖い”と感じてしまうのであれば、その不安には応えなければなりません。今後は災害マニュアルの講習と、推奨結界の設置を加盟事業者に義務付ける方向で進めています。」

そう述べたのは、組合長でありリトルウィング村長でもあるモーリス・ボーモント氏。一部宿屋ではすでに実施されていると言う。

"竜を止むるは白虎のみ"と、先の予言の続きの予言が発表された記憶に新しい。

筆者は取材中、ルミナス地域に伝わる、興味深い伝承を耳にした。

地域では古来より「ルミナス山は竜」「その前にそびえるアステア岳は白虎」とされ、太古に暴れるルミナス竜をアステア白虎が押さえつけた、と言う神話が語り継がれている。雷と、花流星群は竜の目覚ましアラームになり得るとの伝承もあり、予言の正体をこの神話に重ねる動きが出始めているのである。

「ルミナス竜は、アステアの白虎に居座られている限り動けないんです。伝承では、リトルウィング半島は竜の羽で、その付け根に白虎が座っているのです。」

と語るのは、ルミナス山荘の主人エレマム氏。

偶然か必然か、予言との不思議な一致。これが本当であればルミナス山の噴火も、アステアの白虎の力により押し止めることができると言うことである。

「当宿も強固な結界を張り対策をしております。ルミナス湿地で見る流星群はきっと他には無い美しさです、個人的には楽しみにしております。」

と、語るのは小羽屋支配人、ユーリエ・ローワン氏である。


危機のなか、伝承と知恵を紡ぎ、且つ防災意識を高める地域の試みが、今、静かに注目を集めている


(取材・文:ティエラ・ネレイド)


__________________



・・・いや、何でこの部分が採用されてるの??


他の皆様の様に、今回の予言騒動の現状に対策と伝承の話をしたはずなのに!

よりによって一番どうでも良い言動を採用されてしまった。


ユーリは全く釈然としなかった。


「何か君、空気読めない子みたいになってる!」


と、記事を読んだサムエルに爆笑されてしまった。

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