113. キャンセル
例のイーシュトライン観光組合緊急会議から
幾日かが過ぎた。
小羽屋では、本格的に連日、宿泊のキャンセル対応
近隣宿からの相談などでユーリは慌ただしく過ごしていた。
ユーリはまだ、全く信じていないにも関わらず
予言の噂が、世間を大きく影響していることが
嫌でも伝わってくる。
予約のキャンセルは加速度的に増えていった。
最初は理由が予言のせいとは誰も言わなかった。
だが、最近では
「家族が止めまして」「新聞で報道されていたので。」
といった理由に変わり
宿泊直前のキャンセルが相次ぐようになった。
小羽屋では、サムエルの提案により
為替システムで安く予約された方については特に
あまりに直前にキャンセルすると
キャンセル料金が発生する。
そういったお客様は、キャンセル料を支払っても
キャンセルをしたいと言うことなのだ。
サムエルのシステムがうまく機能して
多少の取りっぱぐれは、確かに防げた。
しかし、長い目で見ると
健全なわけがない。
客足が鈍るのではなく、“ゼロ”になる日も目立ってきた。
売り上げの数字も残酷だった。
ユーリは自身がつけていた帳簿を改めて眺めていると
想定なら初夏に向けて右肩上がりになるはずのグラフは
凄まじい急降下を見せていた。
・・・ユーリはまた、ヒーロのためのお粥を
三食、食べることにもなっていた。
ユーリは、チェックインカウンターで
ため息吐息をついていた。
何やら、ちょうど一年前の"ゴンゴルドロス"のことを思い出す。
”小羽屋さん、そっちも厳しいですか?”
ルミナス山の村にある蛍灯亭のメリナからの手紙の一文だ。
結界の件でお世話をしてからすっかり文通が続いている。
女主人ということで、何かと仲間意識を持ってくれたらしい。
お話好きな方なので
ユーリも色々と勉強をさせてもらっている。
・・・そっちも厳しいのですね。
アステア荘のモルリは、直接訪ねてきた。
「うちもキャンセルばっかりだ。」
モルリはバーカウンターで、本も読まず。
ユーリに諸々を愚痴りながら、高いお酒を飲みまくっている。
サムエルも途中から参加し
モルリに調子の良い相槌を打っている。
モルリは景気がいいのだか悪いのだか・・・
ユーリはそんな二人を横目に
その日の夕方の便の手紙をさらっていると
送り元の無い手紙を見つけた。
封筒を開けてみる。
やけに空欄が目立つ手紙である。
一行だけ言葉が書いてあった。
”本当に竜が目覚めるのか?村は避難するべきでは?”
・・・誰だよ、こんなん送ってくる暇人は。
目の前のモルリやサムエルに見られたくもないので
ユーリはその手紙に目を通すや否や
早々に破って、魔法で燃やしてしまった。
ユーリは、予言など一ミリも信じていない。
しかし、世間はそうはいかない。
ままならないものだ。
ユーリは、複雑な気持ちを抱えていた。
そして翌朝、小羽屋にまた手紙が届いた。
日刊多人種新聞の記者からの取材依頼であった。