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112. 白虎

アステアの虎と、ルミナスの竜

どちらが勝ったのかを巡り

それぞれの宿屋の主人たちの間で諍いが起きてしまった。


それは最早どっちでも良いと思うが。

問題はそこではなく、どうこの状況を打開するかだ。


「たく、でかい猫に、火を吹くトカゲか。

くだらないな。」


アーバンウィングインの主人は不機嫌に呟いた。


でかい猫に、火を吹くトカゲ・・・

身も蓋も無い言動であるが


ユーリはちょっと笑ってしまった。


でかい猫、でかい猫、でかい猫。


でかい、強い、賢い、そして白い・・・


パキン!


その音に皆驚きこちらを見た。


ユーリが動揺してチョークを落とすくらいには

今、思いついたことは、我ながら凄い発見だった。


しかし、まだ確認が取れていない。

皆に情報共有するにはまだ早い。

ユーリは一旦息を吸い込んで、吐いた。


そして努めて冷静に発言する。


「失礼しました。あの、結果は私、すみません

どちらが勝ったか分からない

とかで良いと思うのです。

その内、影響の大きさから予言の全容が大々的に報道されるはずです。

そうしたら、この神話を取材してもらいましょう。

今回は、ルミナス陣営の皆様には

すみません、少し我慢してもらって

天敵のアステア虎に見張られてるから

ルミナス竜は身動きが取れない、的な話を拡散しましょう。

ルミナス山荘のエレマムさん

さっきの話をして欲しいです。」


エレマムは、一瞬キョトンとしたが

もちろんだ!と言ってくれた。


「私が日刊多人種新聞の記者を招致します。」

サムエルが手を挙げた。


「あと、組合長、イーシュトライン侯爵閣下に

改めて地質学の調査を依頼できませんか?

天文学方面からも。」

ユーリは続ける。


「依頼しよう!」

モーリス村長は言う。


フェリクスが手を挙げた

「防災意識を高める良い機会として

当宿でも今月一度避難訓練をやろうと考えている。

結界の強固にも務める予定です。」


「防災訓練、良いですね。

もし、結界について、ご所望ありましたら喜んでお手伝いします。

魔法陣は私の専門分野です。」

ユーリも言う。


「是非お聞きしたい!」

「うちも!」

「うちもお願いしたい!」


ユーリは、その場がまとまった気配を感じた。


「あの、アーバンウィングインさん、ありがとうございます!」

ユーリは渾身の笑顔を向けて頭を下げた。


アーバンウィングインの主人は

何のことか分かっていない様子だ。

当たり前であるが・・・


心底驚いた顔をしていた。


・・・・


そして今回のイーシュトライン観光組合(ギルド)緊急会議は解散となった。

また集まるのは、地質学、天文学調査、取材の段取りが決まってからである。


サムエルとユーリは小羽屋へ戻っていく。


「君って、非社交的な子だけど

ああいう進行は結構うまいじゃないか。」

サムエルはにっこりして、ユーリの肩をバシッと叩いた。


非社交的・・・余計な一言である。


「にしてもさ、途中で何か思いついたんだろ?

アーバンウィングインの主人にお礼まで言っちゃって。

ゴブリンの件忘れたの?」


・・・そう言えばまだ

かつてユーリが引き受けた

アーバンウィングインに出たゴブリン退治と

お客様対応について、お礼も言われていない。

だがしかし今は、そんなことはどうでも良かった。


「はい、アステアの白虎について

詳細を知っていそうな者が、ごく身近にいると

彼の発言で気がついたのです!」


ユーリは小羽屋にずんずん進む。


サムエルもハッと、気がついた。


ユーリは一旦、厨房に寄り、必要なものを取ってくる。

特製猫用おやつ、猫まっしぐらであった。


餌皿を持ちながらユーリは呼ぶ。


「ハチー!どこー!」


ザザザっと、茂みの中からハチが出てきた。


「サボってねえよ。」


と言いながら、早速お皿をべろべろ舐め始めた。


ニコニコと、ユーリはそれを眺めつつ

頭を撫でる。


ハチは喉をゴロゴロ鳴らす。


「ねえハチ、この前、猫の国の王様って

強くて、デカくて、賢くて、白いって

言ってたじゃない?」


ユーリは、ハチに

自身がオランジェリーパーティに招待された報告をした時

猫の国の王様ってどんな猫なの?と聞いたことがあった。


"デカくて強い、賢い。あと白いな。"


とハチは答えた。


「そうだ、何だ?」

ハチは餌を食べ終えるとユーリを見る。


「最近王様忙しい?」


ハチの月の様な黄色の瞳が

ユーリをじっと見つめている。


「ああ、ルミナス竜の件だろ。

奴はどうしても100年に一度くらい我慢ができなくなるってよ。

流れ星を目安にしているとも言ってたな。

今年はニオイムカデが多くてイライラいしてるらしい。

あんまり暴れるようなら一発お見舞い喰らわせるって

夜な夜な睨み聞かせに行ってるみたいだぜ。」


サムエルも目を見開いている。


ユーリは心臓がバクバク言うのを感じた。

予想は正しかった!


「ねえねえ、猫の王国ってどこにあるの?

どんなシステムなの?

何で、このアステア岳は猫の王様って言われてるの?」


今はユーリの好奇心が抑えられない。

ハチは少々考えて発言した。


「猫の王国は、こことは同じで、違う次元にある。

この辺の・・・お前らの言葉で言えば自治区を

任されてるのは俺だ。」


ハチは続ける。


「何でって・・・そらお前

その昔、猫王がルミナス竜を退治をして

腹の上に乗っかった。

飛べねえように羽を押さえてやってんのさ。

そのまま二度と竜が暴れられねえように

竜諸共、石になったんだよ。」


ユーリとサムエルは顔を見合わせた。

本当に神話みたいだ。


「・・・でも、猫の王様って

ご存命なんだよね?」


「ああ、ルミナス竜退治は

王様の、まだ何回目かの転生中の話だ。

最終的に王になり、今に至る。」


「ルミナス竜は?」

サムエルが突っ込む。


「竜のことは知らねえ。

時々暴れるみてえだから生きてるんだろうな。」


何てことないようにハチは耳の後ろをカカカッとかいた。


「王様がいるうちは、あの竜も大暴れはもしないだろうよ。

しかも王様は不死身だぜ!」

ハチはどや顔をした。


・・・側から聞けば夢物語だが

ハチの今までの話は、嘘の様で

本当である事が多い事を

ユーリは知っていた。


「お前のカーチャンにもそう言ってやったぜ。」


ユーリは突然のハチの言葉に、暫しポカンとした。

「・・・どういう事?」


「お前のカーチャンが、えらく酔っ払っててな。

庭のベンチに座ってたから声をかけたんだ。

ルミナス竜の予言でユーリに迷惑かけたって

かなり落ち込んでたぞ。

それで、教えてやったんだよ。」


ユーリはまた頭がクラクラする思いがした。


「え、それじゃ、あれは・・・」


予言ではない・・・?

単純に、ハチから猫の王様のことを聞いて

本人はそれを酔っ払っていて

覚えていないと言うことではないか。

しかもそれは、既に予言として国に報告しているはずだ。


ユーリは頭の血の気が

さっと、引いた気がした。


「まあ、予言ってそんなもんなんだと思う。

ユーリのお母さんの手法って

酒精の力を借りて、大気のあらゆる精霊にアクセスして

周辺の情報を得るって言う理屈なんじゃないかな。」


サムエルは納得した顔をしている。

ユーリは全くもって、釈然としていない。



・・・ユーリはここで、ハチと猫の王様に新聞の取材依頼をしてみた。


もちろん、断られた上に

久しぶりに顔面にハチの猫パンチをくらった。


サムエルにも何言ってんだよ!と怒られた。


ユーリには諸々の理由が分からなかった。





挿絵(By みてみん)

アステア白虎がルミナス竜の腹の上で箱座りしてるの図

Chat GPTさんと考えました。

可愛い・・・

この神話のモチーフは

栃木男体山の蛇と、群馬赤城山ムカデの神話です。


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