111. イーシュトライン観光組合緊急会議
翌朝、カリナとルイスは
小羽屋を予定通り出発した。
カリナは、ユーリに告げる。
「噴火活動は全然活発じゃ無いって地質学者も言ってるんだから
噴火したとしても大規模なものじゃ無いわよ。
でも、何かあったら、すぐに逃げるのよ!」
にこやかに手を振って小羽屋を後にした。
・・・なんて無責任な発言なんだ。
昨晩の思いがパーになった。
サムエルにもその夜
アステアの虎、ルミナスの竜伝説のこと
そして、イーシュトライン観光組合緊急会議が
2日後に開かれることを伝えた。
「へー、確かに伝説としてはかなり面白いね。
これで町おこしとかするべきだけども・・・」
サムエルは今日はワインを持参していた。
つまみは、ユーリが昨日作った
ルミナストラウトのフライの残りを提供した。
「だとしても、命の危険を晒してまでみんな来ないから!
だったら、別の場所行くって。」
「冒険者の方とか、来ませんかね。」
「冒険者に来て欲しいの?」
ユーリはここ最近の
観光ムーブのお客様に慣れてしまっていたので
冒険者をまた相手にする自信は
もう、なかった。
「まあ、観光組合の会議でどんな話が出るか分からないけど・・・
その時間なら、僕もこっちに来られるよ。
丁度いいから、一緒に行こう。」
ユーリは今回はサムエルは来ないだろうと
なんとなくそう思っていたのだが
意外で、ありがたい申し出であった。
「では、お言葉に甘えて、ありがとうございます。」
ユーリは軽く頭を下げる。
・・・
二日後、リトルウィング村役場会議所で
イーシュトライン観光組合緊急会議が始まった。
集まったのは、リトル・ウィング村、ルミナス村
その他イーシュトラインにある宿屋の主人たち
総勢15名ほど集まった。
人間だけではなく、中にはドワーフ、トロルもいた。
「それでは、昨今市井で話題になっている
ルミナス山についての予言に伴い
観光業界が大打撃を受けている件について
意見交換を始めます。」
イーシュトライン観光組合長のモーリス村長が宣言した。
「それでは、小羽屋のユーリエ・ローワンさん。はじめにどうぞ。」
モーリス村長がにっこり笑ってユーリをさした。
・・・まさか、ここで自分に振られるとは。
しかし、騒ぎ立てたのは自分だ。
致し方ない。。
ユーリは覚悟を決めて起立した。
「小羽屋のユーリエ・ローワンと申します。
村・・・組合長がおっしゃった通り
当宿もルミナス山についての予言の影響と思われる
キャンセルが相次いでおります。
何か、対策と情報を共有できないかと思いまして
この会議を提案しました・・・」
「こんな、予言を信じるなんてバカバカしすぎないか?
現に、ルミナス山の火山活動は活発ではない。
対策も情報も何もないだろう。」
そう中年男性が発言した。
前に置いてあるプレートを見ると
"アーバンウィングイン アレン・ウェルナー"
となっていた。
こいつが、アーバンウィングインの主人なのか。
「予言の信憑性や、火山活動に関して言えば
そこは、ご最もなのですが
お客様からこの地が嫌煙されてしまっている事は
紛れも無い事実です。
これが、この初夏を過ぎれば回復するのかどうかも不明です。
当宿も、最近は10件近くキャンセルを受けてしまいました。」
ユーリは、この中年男に向けて説明する。
「うちも、真夏の予約までキャンセルされた。
小羽屋さんの言う通り
予言そのもは最早我々にはどうすることも出来ないが
二次被害的なこの"風評被害"的なものに関する対策を考えたい。」
フェリクスである。
「うちもそうです・・・
実は、夏以降の予約にも影響してます。」
ユーリも付け加えた。
「それを言うなら、うちの方が酷いよ!
先月から、客足が途絶えた。
当然向こうの予約も無い。
昨年は例外的だったが
この時期は例年観光客が多いはずなのに
まさかそんな予言が流行っていたとはね。」
そう発言したドワーフのプレートには
"黄色いハリネズミ 宿屋のエリン"
と書いていある。ルミナス山の宿屋だ。
「うちも似た様な状況ですね。
ただ、何か、はあるかもしれませんよ。
アクラと言うルミナス山の頂上近くにある
峰は、最近騒がしい。」
"ルミナス山荘 エレマム "
トロル、であろうか。男性であった。
モメラスとまた違う。
全体的に背が小さく
かなりヒョロっとした体型をしている。
皆がギョッとしてエレマムの方をみた。
「ああ、でもアクラは
しょっちゅう小規模な噴火をしていますよ。
アステアの虎に引っ掻かれた竜の目だ。
赤い温泉が沸いている。」
エレマムは慌てて付け加えた。
ユーリはその話がしたいのである。
エレマムの方を向いた
「ルミナス山荘さんのおっしゃる
その神話を表に出すことにより
私はこの一連の、ルミナス高原牧場さんの言葉を借りるなら
"風評被害"を克服する鍵なのでは無いかと思うのです。」
「ふん、そんな子供じみたことで
人が帰ってくるかね。」
アーバンウィングインの主人が突っかかる。
「何か、他にご提案があるのでしたらお伺いしたいですね。」
フェリクスが睨みつけた。
「噂が引くのを待つのみだ!うちは、こんなくだらない案には乗らない!」
ふんと、そっぽをむいた。
・・・じゃ、なんでここにいるの?
とユーリは喉まで出かかった。
「非建設的ですね。」
非常に冷たく言い放ったのはサムエルであっった。
「しかし・・・本当に噴火が起きては?
どう責任を取れば良いのです?」
急に慌て始めた。
「地震や火山の噴火等の
地質的な自然現象を予測することは難しい。
今までもそれに関する数々の予言があったが
当たっているところを私も見たことがありません。
しかし、予言を回避しようとしてこそ
厄災を逸らすことが出来ていると
エルフ本国では言われております。」
サムエルがごく冷静に発言した。
ようやくアーバンウィングインの主人が黙ったので
ユーリは続けた。
「今回の予言騒動の発端はこうです。」
ユーリは村役場の黒板にあらかじめ仕込んでおいた魔法を発動させた。
チョークは、スラスラと一人でに文字を書く。
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光の竜は五度閃光に打たれた後
花の精霊が星降る夜に歌う時
再び目覚める。
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「先月、予言に実績のある
西大陸オーガスタス公爵領公爵家付魔法使が
とある予言をしました、その文言がこれです。」
「確かに、噴火・・・とも取れるが」
「週刊誌でこの文を見たぞ」
「花の精霊が星降る夜に歌う時って、花流星群のことか・・・」
「この言い方だと噴火では無いのではないか?」
その場がざわざわとする。
またチョークは、スラスラと一人でに文字を書く。
_________
光の竜止むるは白虎のみ
_________
「そして、とある筋から、新たな予言がされたとの情報を得ました。
それがこちらです。」
「とある筋って何だ?確かな情報なのか?」
アーバンウィングインの主人だ。
「はい、確かです。近日報道もされます。」
・・・予言者本人から聞きました。
とは言いたく無い。
その場の皆は、サムエル筋だろうと思ったに違いない。
それで良い。
「その虎が、アステアってことね。
でも、神話では虎は竜に負けてるわよね。
だから、アステア岳は噴火しないのではないの?」
プレートには"蛍灯亭 メリナ・シュタイン"
こちらもルミナスの宿屋、年配の女主人であった。
これが例の諸説か・・・
「何!?虎は竜の腹の上に座っているのだろう!?
大きな港を焼いたから
眠っていた虎が怒って最終決戦になった!
虎は良い虎だから噴火もしないだけだ!」
プレートには"アステア荘 宿屋のモルリ"
ドワーフの男性であった。
「良い虎なのでしょうか?ルミナス山だけでは無い
周辺には、アクラもそうだし、近くの村クラティガもだ!
"アステア虎の爪痕"という意味からきている地名が多い。
その昔は虎だって暴れていたのですよ!」
エレマムであった。
「それを言えばリーブラックポートだって
運が悪ければルミナス竜の火が届くって意味で
名付けられたんだ!」
と、フェリクス。
・・・初耳であった。
この神話を巡ってルミナス陣営、アステア陣営で
予期せぬ地域争いが始まってしまた。