109. 集客減
ユーリは翌早朝、朝食の準備をしていた。
昨日起こった出来事を反芻してみた。
自分自身は予言とか占いとかはあまり信じ無い方だ。
しかし、昨日知った事実
実母は予言の専門家であった、実績もある。
でもあの文言
竜が目覚めるってだけでは、噴火とも限らないし
事実、噴火に至る火山活動は認められなかった。
とのことだし。
やはりそんなに気にするものでは無い。
という結論に至っていた。
あんな酔っ払いの予言ごときに大袈裟な・・・
それよりも実母の、宿を閉めろ発言の方に
ユーリは心底、相当腹が立っていたのであった。
ヒーロ一家のお粥の準備を終え
お客様のための朝食をビュッフェ台に並べていると
朝食開始の30分前にカリナが現れた。
「まだ準備中なんだけど・・・」
つっけんどんにうユーリは告げる。
「おはよユーリ・・・ふわああ・・・
忘れないうちにユーリに言わなきゃって。
例の予言の続きを得たと思うわ。」
カリナは、まだ髪に櫛も通していない様だった。
徐にユーリに紙を渡してきた。
「え?予言て、どこでもできるの?」
ユーリは驚いた。
「昨日、買ったワイン、一本飲み干しちゃったのよ。」
カリナはまた欠伸を噛み殺しながら言う。
「お酒ならなんでも良いんかい・・・」
ユーリは呆れながら紙を開いてみた。
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光の竜止むるは白虎のみ
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・・・意味がわからない。
「白虎って何?」
「白い虎のことじゃないの?」
「それは見れば分かるんだけど。
・・・何を表してるわけ?」
「わからないわ。
これもうちの大臣に通してみないと。
あちらに手紙を送らなきゃ。」
ふわああと、カリナはまた大きな欠伸をした。
自分でした予言でしょうが・・・
と、ユーリはまた呆れた。
「一応聞きたいんだけど、予言の的中率ってどのくらいなの?」
カリナはトロンとした目をユーリに向ける。
「専門家の分析だと私は10パーセント、ってところらしいわ。
でも、昨日言った通り、悪い予言は
そうならない様に回避してることが多いからよ。
それこそ国ぐるみで。」
カリナは、ふわああとまたあくびをする。
「これだけ伝えたかったのよ。
朝ごはん、ちょっと遅めに来るわね。」
とだけ言うと、また自身の部屋に戻って行ってしまった。
実母ながら、なんて不思議な人なんだ・・・
両親は、朝食を終えると
ルミナス湖を散策とのことですぐに出かけてしまった。
その日の夕食は、また両親とフィヨナおばあちゃんと一緒に食べた。
基本的には予言の話には触れずに
日常的な会話が繰り広げられていた。
その日はカリナの眠気がピークを迎えていたらしく
早々に部屋に引っ込んでしまった。
ユーリはその日の夜控え室で書き物をしていると
いつもの様に転移の鏡が光った。
「ねえ、ユーリ
あの予言の影響、すでに出てたよ。」
「・・・はい?」
「先月、アラミンドル王国の隣の人間自治区
オーガスタス公爵領で公爵お抱えの魔法使いが
・・・君のお母上とは知らなかったけど
東大陸最高峰ルミナス山についての予言をしたってことで。
セントラルタワーのその筋にはもう広まってたんだよ。」
サムエルは苦い顔をした。
「というか、君のお母さん、ちょっと有名人だったよ。
オーガスタス公爵お抱えの魔法使いは予言と占いに優れてるって。
当てた実績も結構あるらしいね。
君の両親は西大陸に出稼ぎに行ってるとは聞いてたけど
なんで教えてくれなかったのさ?」
サムエルが剥れた。
「本当に知らなかったんです・・・」
本当のことだ。
それらの事実はユーリとて昨日知ったのだ。
「だから大陸縦断鉄道の件も先延ばしにされたんだ。
全く、なんて予言してくれたんだよ!」
サムエルは、イラついていた。
「うちの母が申し訳ありません・・・」
ユーリはしょんぼりとした。
しかし、そうだ、新たな予言があるのだった。
「あの、また母が、今朝こういう予言をしました。」
ユーリはサムエルに今朝母から受け取った紙を見せる。
サムエルはそれを難しい顔でじっくりと読んでいる。
「白虎?白虎って何?」
「白い虎・・・?」
「そんな事は分かるよ。」
デジャブなやりとりであった。
「ここまで情報が拡散されてるなら
軍にも通達が言ってるはずだ。
軍人のお客さんもしばらくは来なくなるよ!
しかも、こういう噂って広がるからな!
予言が当たるにせよ、当たらないにせよ
お客さんに嫌煙されることは必須じゃないか!」
ユーリは急いで先の予約表を確認する。
確かに、この時期は絶対に繁忙期であるにも関わらず
空室がやたらと、目立っていた。
「流星群のことは知ってたから
それで集客しようとか思ってたのに!
何なら地獄行きの象徴みたいになっちゃったじゃないか!」
サムエルが頭を抱えた。
しかし、少々時間を置くと
自分の中で急に気を取り直した様子だった。
「ま、予言の本文は起こらない様に対策することだ。
ルミナス山並みの山が噴火したら東大陸だけじゃない
西大陸にだって影響があると思う。
僕の方でも関係筋をあたって対策させる!!」
サムエルは早々に帰る準備を始めた。
「その上で、集客も戻す!
ユーリも色々調べてみてよ!!」
あっという間に、鏡の向こうに行ってしまった。
調べると言っても、何をどう・・・
サムエルもあんな事を言っていたが
案外予言とか占いとかを気にする気質なのかもしれない。
にしても皆、あんな酔っ払いの予言ごときに大袈裟な・・・
と、ユーリもあくびを噛み殺しきれなくなり
その日は就寝することにした。
しかし、サムエルの予言の方は
当たってしまうのであった。
翌日小羽屋に手紙が複数届いた。
それは、事前にした予約のキャンセルの申し出の手紙であった。
キャンセルの理由は様々で、予言のことには一言も触れていないが
彼らのご宿泊時期は、この初夏であった。
このキャンセルを受けて
この良い時期にしては理不尽なほどに閑散とした予約表を
ユーリは呆然と眺めていた。
皆、あんな酔っ払いの予言ごときに大袈裟な・・・
とは思うものの、こうして実害が出てしまっては
ユーリとしても何か対策をしなければならない。
非常に気が進まないが
実母の予言を前提に、色々と調べてみる決意をした。
ユーリは、その日両親を早々に観光へと追い出して
小羽屋ライブラリーラウンジへと向かった。