99. ダンジョン高速攻略-第一層 "永遠庭園"
ダンジョン ゴサシオ宮殿遺跡の攻略が始まった。
扉の向こうは、むわっとした空気。
見たこともない南国の植物。
やはりレイルロード宮殿を思い出す。
しかし、それよりもっと広い空間が広がっていた。
それに何やら不穏な鳥や動物の鳴き声もする。
一面を覆うように何かの結界が張り巡らされている。
その天井はものすごく高く見えた。
そして何キロ先だろうかそこそこの距離に
石造りの塔が見えた。
これがさっきも見えていたのか。
しかし今はとても遠くに見える。
何かの魔法がかけられているのだろう。
とにかくあれの最上階に
今回の目的である回復の泉と
デニス爺さんとやらがいるのだ。
このコザシオ迷宮攻略パーティは
ユーリ
魔法使い Lv.18
装備: 布の服、合成皮のショートブーツ、モノクル、黒檀製杖
技: 氷結魔法, 解凍魔法, 吸引魔法etc
得意技: 魔法陣作成
※現在魔法の制限有、魔法発生装置-身動き制限有
サムエル
舞踏家斥候 Lv.140
装備: エルフ製綿の服, レプラコーン本革のブーツ, ドワーフ製短剣x2
技: 舞踏短剣術, 観察眼, 交渉術, その他不明
得意技: 不明
・・・などとユーリはざっくりと考えていた。
今の自分は、ものすごくザコキャラではないか。
ユーリは我ながら笑えてきた。
そもそも、サムエルにの戦闘技術のことは
全くと言っていいほど知らない。
このお生まれも、お育ちも良いいこのエルフが
物理的な戦闘能力があるのかも
疑っているくらいなのだ。
サムエルは先ほど支配人のアントニオからもらっていた
マップを取り出して眺めていた。
しかし、すぐにユーリに渡してきた。
「地図嫌い。」
・・・このエルフ本当に斥候なのか?
ユーリは訝しく思いつつも
マップを眺める。
あの塔に辿り着くまでには
基本的に一本道なのだが
あの支配人が言っていた。
扉を開けるとかなんとか・・・
ただノブを捻れば、物理的に開いてくれるのか。
きっと、そんな訳はない。
地図があるだけありがたい。
と思うことにした。
地図によると、今スタートの時点は
第一層 "永遠庭園"と呼ばれるところである。
迷路のようになったノットガーデン
温帯の植物が生息する温室
藤が咲き乱れるトンネル
一年中咲き誇るテッポウユリの畑
を通っていくとのことだ。
ユーリはサムエルに一つ提案をしてみた。
「あの、サムエル、私すごく魔法の使用量が限られております。」
「知ってる。」
「なので、隠密魔法をかけていいですか?」
「隠密魔法?」
「そうすれば、私たち基本的に魔物に見つかりません。」
ユーリには自身もあった。何しろ約一年程前に実践済みでもあった。
「なんかそれ、凄くつまんなさそうだけど
仕方ないか・・・」
サムエルは承知した。
魔法をかけ終えると
サムエルはさっさと歩き始めてしまった。
「あの、サムエル?作戦とかは必要無いのですか?」
ユーリは慌ててついていく。
最初のノットガーデンは
迷路になっていて
生垣にピンク色の派手な花が咲いている。
おそらく夾竹桃だ。
突き破って進むのはダメだ。
何しろ夾竹桃には猛毒がある。
「こんなの大体でわかるでしょ。」
ユーリは訝しげに思っていたが
必死に走っていると、しばらくも経たないうちに
急に視界が開けて、温室が現れたのだった。
思ったよりあっさりと迷路は抜けてしまった。
ユーリは驚いた顔でサムエルを見る。
サムエルは涼しげに、ドヤ顔をしていた。
「ま、僕の得意技ね。」
・・・差し詰め
スキル"勘"と言ったところだろう。
温室に入ると、さらにむわっとした空気が漂っていた。
異常に大きく成長した睡蓮が浮かんでいる池がある。
どうにも、この池を渡らねば
向こう側に見える扉には辿り着かない。
サムエルはそれを見て
近くにあった小石を勢いよく池に投げ入れた。
すると、突然静かだった池の水面が沸騰したかの如く
バシャンバシャンと暴れ始めた。
大きな魚がいる。
一体、池の外に飛び出たやつを見つめた。
人の体ほどもある。
「これ、ピラルク?ガー?・・・ですかね。」
とにかく人喰い系の魚である。
サムエルが首を捻って考えた。
ウロウロ周りを見て回ると
何かの碑文を見つけたようだ。
ユーリもそれを見る。
「斑の肌を持つ者のみが道を紡ぐ」
という文字が丁寧に多種族共通語で書いてあった。
何のことを言っているのか
さっぱりであった。
サムエルが、どこからか大きな石を持ってきた。
それをポイっとまた池に投げた。
それはコントロールよく
大きな睡蓮の葉っぱの上に乗った。
そして、その石は沈まずに
睡蓮の葉の上に留まり続けている。
「ああ、やっぱり、睡蓮の葉っぱが斑柄になってるやつ。
不沈の魔法がかけられてる。
それを渡っていけって事だ。」
またユーリは改めてサムエルをみる。
・・・なんとも頼もしい。
初めてそう思ったかもしれない。
こうして、この池も難なく渡ることができたのであった。
温室を出ると今度は視界が一面の紫色になった。
これが藤のトンネルなのだろう。
しかし、普通の藤では無かった。
よく見ると、藤の蔓がニョロニョロと
ヘビのように蠢いているのが見える。
実際にそれらにはヘビの顔がついている。
舌をチロチロさせて
鎌首を、こちらに向けていた。
ユーリも知らない魔物であるが
藤蛇とでも呼んでおこう。
そして、こいつらはどう考えても襲ってくるだろう。
サムエルもそれに気がついたらしい。
「ユーリ護符持ってきたでしょ?それ使おう。」
ユーリが使った隠密の魔法は主に魔力、視界探知に対し効くもので
空気の流れ、温度には効か無いものであった。
つまり、植物と蛇には効かない可能性が高い。
護符でそれを補強したいとのことなのだろう。
サムエルは受け取った護符をさっさと自身の体に貼ると
ツカツカと歩いて行った。
王都で買った一級品の護符であったため
この藤蛇にも問題なく効いていた。
ユーリもその後を追った。
・・・トンネルの途中で
護符の自動販売機を見つけた事については
今はツッコミを入れないでおこう。
それも難なくクリアすると
今度は視界が一気に暗くなるのを感じた。
辺りが夜になっている。
時間が経ったわけではない。
これも何かの魔法だ。
星空の下に広大な白い百合の花畑。
風にその花がゆらゆら揺れているのが見える。
百合独特の強烈な匂いが
辺りを覆っていた。