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97. 外出

モメラスに話を聞いてもらってから

ユーリも随分気分が軽くなったのを覚えた。


特に、サムエルの悪口を言いまくってしまったので

少々の罪悪感と後悔はあるものの


総合的には話して良かったと思っていた。



そして、一週間ほど経ったある日のことであった。

小羽屋に大きめの荷物が届いた。


送り元はマリーン先生であった。


梱包を外すと

中には大量の古本と

何やらリュックの様な者が入っていた。


一緒に入っている手紙を読んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ユーリエ・ローワン君


例の魔法陣は上手く機能していますかな?

体の方は良くなったかな?


前者はうまくいっており、後者はうまくいっていないのでは無いかと

懸念しております。


私は医者では無いから体を治すことは出来ないが

装置の工夫を凝らすことはできます。

あれから、密かにこの装置を作っておりました。


このリュックは魔力生成装置です。

今の小羽屋の機能を凝縮したものと言って良いでしょう。


あらゆる自然物から精霊を召喚し魔力を作り出す

特にこれは太陽光から熱を作り

火の精霊(サラマンダー)

動くことで発生する風から風の精霊(シルフ)

それぞれ召喚することで魔力を溜め込みます。


この容量分の魔力を貯めることも可能だ。

天気のいい日に散歩していれば

満タンになるまで30分。

一度魔力を完全に切らせて、魔力の発生源を断って

実験してみましたが

普通に過ごすだけなら私は丸2日

魔力切れを感じませんでした。

氷結魔法なら3回分と言った所です。

長時間使用すると発火するので

30分使ったら、10分は休ませてください。

まだ試作途中だか運用してみてほしい。


実は先日君の友人だと言うモメラスと言う方から

君の現状と、改善して欲しいという要望

太陽光と風から精霊を召喚する提案をしたためた手紙を受け取りました。

内緒にしてくれとのことだったが

これは是非君に伝えるべきであると判断しました。

モメラス君に宜しくお伝えください。


p.s.

ご依頼の古本も送ります。

特に緑の表紙の本は大規模な嵐を呼ぶ事ができる魔法陣に関する

貴重な魔導書なので

ケースにでも入れて陳列しておいてください。


カミーユ・マリーン

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


情報量が多くて困る。


まずは、古本。

何冊か古い本が入っていた。

問題の魔導書はこれか。

深緑色の革の表紙の本。

魔法の紐で厳重に封印がしてある。

表紙にはエンボス加工に剥げかかった金箔の文字が見える。

古代語で"海を混ぜ 地払う者に 祝福を"

等と、意味深なことが書かれている。


・・・また面倒なことになってしまった。


そしてものすごくデジャブな展開。

マリーン先生とあのエルフは

似ているところがあると

ユーリは時々思うのであった。


そして、モメラス、こんなことまでしてくれていたなんて。

ユーリはまたモメラスに対して深い感謝の気持ちが芽生える。


それにしても、モメラスは

マリーン先生に褒められている。

・・・分かりにくいが、マリーン先生はこの

太陽光と風を使うモメラスの案に

ひどく、感心しているのが分かる。


やはりモメラスはさすがである。

ユーリは友人が恩師に褒められて

大変誇らしい気持ちになるのを感じた。


そしてその物。

大きめの黒い布製のリュックの様な見た目。

ユーリはその装置を早速背負ってみた。


変に背中に吸い付く感触がする。

それ以外体に変化はない。


そのまま恐る恐る

小羽屋の玄関の外へと出てみた。


以前は、外に出ると

温泉との魔力連結が解けて

貧血が起きた様に力が入らなくなってしまった。


ところが今はどうだろう。

今までと同じように外を歩く事ができた。


ユーリは久しぶりにリトルウィングの街を歩いてみた。


陽光が思ったよりも眩しく

風は冷たくも凛としている

雪払いがされた石畳を歩いていると

そのゴツゴツした感触が、足の裏から脳裏を心地良く刺激した。


久しぶりの外は普段の何倍も気持ちよく感じる。


どうやらこの装置がうまく作用してくれているらしい。


先生、わざわざ魔力切れを起こさせて

・・・魔力の発生源を断つって何だろう?

とにかく自分の体で実験をしてくれたのだ。


モメラスに、マリーン先生、そしてザイカ、ブロム

ヒーロに、ハチも・・・


皆自分のためにここまでしてくれる。

本当に感謝せねばならない。


自分も頑張って小羽屋を経営しなければ。

皆のためにも・・・


そして、皆のために何かできる事があれば

その時は全力で力になろうと

決心したのであった。


その晩はサムエルが来たので

リュックのことを伝えてみた。


「一応は外に出られる様になった訳だ。

本当に良かった。」


サムエルはリュックを興味深げに調べていた。


そして、突然

「これ見て。」


と、サムエルは一枚の紙を差し出してきた。

何かのチラシであった。


「”魔物の咆哮が、冒険の始まりを告げる

——目指すは力の根源、ネクタリオンの泉。いざ、命がけの旅へ。"

・・・何ですこれ?テーマパークのチラシ?」


ユーリは訳がわかなかった。


「まあそう。ここさ、僕の親戚が経営してるんだけど・・・」


サムエルの話をまとめるとこうである。


ここより少々南西に下った場所に

古代王ゴサシオ1世と呼ばれる当時の人間の王様が作った

贅沢な宮殿の遺跡があるのだが


それが何十年か前に(ダーク)エルフに乗っ取られ

根城にされ、迷宮化したことがあった。

それを、サムエルの親戚であるエルフが攻略したらしい。


庭園の中の塔の上層部から湧き上がる泉には

非常に強力に、怪我を治癒し、魔力を増長させる力があるとのことだ。


「聞いた話だと、東大陸では一番に強い回復の泉なんだとさ。

回復だけじゃなくて、魔力はレベルアップまでするって聞いた。」


とにかく、以来、そのエルフは

ダンジョンに併設した宿屋を

経営しているとのことだ。


サムエルによれば

そのエルフはビーストテイマーで

クラウドの師匠であるらしい。

魔物を定期的に入れ替えて

ダンジョンに定着させ、侵入者を阻み

泉の利権を守りつつ

希望者には入場を許可していると言うことだ。

もちろん有料で。


そして、魔物を倒しながら

回復の泉を目指すという

このアトラクションは

思いの外人気を博しているとのことであった。


ユーリは目が覚める思いであった。

なんという大胆な経営・・・!


「兎に角、すごいんだよあそこは。

最初に、ここに入ったら死んでも文句言うなって

誓約書書かされて

実際何人か死者も出てる。

常人は攻略に2泊3日くらいかかるみたいだ。

成功者は少ない。

でも、ユーリの魔力と視力を根本回復させるには

あの泉じゃないとダメな気がするんだ。

あのじーさんもあの経営長いから

ユーリも勉強になるはずだよ。」


ユーリも是非行ってみたい気持ちはあるのだが

問題も多々。


「ここ、閉めないといけません。」


「ま、転移して行くし

僕らなら日帰りで十分だろ。

あの中の宿すごい高いんだよ・・・

一応その前後2日間くらいは

ザイカに来てもらってよ。」


「あの、私今、あんまり魔法使えないです。」


そうだった、とサムエルは頭をかく。


「・・・一応この繁忙期が落ち着いたら

声かけてみるつもりだったんだよ。

そもそも君、外に出られないから

方法も模索してた。」


何やらゴニョゴニョと言い訳の様なことを言っていた。

なぜ言い訳が必要なのか。


「いざとなったら、僕が頼み込んで

泉までスルーさせてもらうからさ。

たまには遠出してみようよ。」


サムエルはそう言うと

ちょっとユーリの顔色を窺うような

子供のような笑顔を見せた。


・・・ユーリの感謝する人リストの中に

サムエルの名が、また、戻ってきた。

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