25話 受け継がれる意志
前回のあらすじ
ついに、『腸の発掘家』を捕まえることに成功したコウ。しかし、彼女は「また会いましょう。」と言ったかと思うと、突然口から血を吐き死んでしまった。
しかし、その瞬間コウの視界は歪み、世界はまた、巻き戻ってしまうのだった。
ここは、静かなる牢獄。罪を犯せし囚人が集う場所。
そこに1人のナースが、点滴の道具を持って歩く。
「おい!また来たぜ!」
「へへ。俺達の体も見てくれよ。女医さん!!」
数々の囚人の戯言を無視して、そのナース、イルオは、キキの元へとたどり着く。
彼女は鍵を使って、その檻を開け、中に入ると、キキに対して点滴を行う。
その最中、金属同士を何度も合わせたような、ガシャガシャとした音がイルオに近付いてきた。
「たしか、ここだな。む?お前はここで何をしているんだ?」
音の正体は鎧に身を纏ったギャラクの歩く音だった。
彼は、キキに点滴を行うイルオを見てそう質問した。
イルオは、彼の方を向かないまま、質問に答える。
「点滴による栄養補給を、行っております。彼女は今ひどく落ち込んでいて、食事も喉を通らない状態なので、必要な栄養を点滴で補っているのです。」
イルオのその態度に、ギャラクと一緒に来ていたメガイラが、腹を立てる。
「なんじゃ、貴様!ギャラク様に対してその態度!気に入らんな!」
今にもイルオに殴りかかりそうな、メガイラをギャラクは、「少し待て。」と止める。
そして、ギャラクはさらに、イルオに質問する。
「その少女は落ち込んでいると言ったな。原因はやはり、あの人形か?」
ギャラクの言葉に、イルオは「当たり前ですが、その通りです。」と答える。
彼女のその反応に、メガイラは、イルオに対する殺気を強める。
しかし、イルオを襲おうとする様子が無いところを見て、ギャラクは彼女をほったらかして、左腕に装着している鎧を軽くたたく。
そして、そこから、ボロボロの人形。メリーを取り出して、キキに渡す。
キキとイルオは、その人形を見て驚く。
メリーは修復はされているものの、縫い目は荒く、所々綿が飛び出し、左目と両腕に至っては、欠損したままだった。
「貴方これ、どういうつもりで持ってきたんですか!!」
イルオは、そう言って、ギャラクの胸ぐらを掴む。
「貴様ぁ!! ギャラク様に対してなんて無礼なことを!!」
メガイラが、そう言ってイルオに殴りかかろうとする。
が、再びギャラクの言葉によって、それは阻止される。
そして、ギャラクはさらに、イルオに説明する。
「どういうつもりも何も、研究が終わり、用済みになったから、持ち主である、この囚人に人形を返しただけだ。そいつが少し暴れたから、欠損が多くなってしまったが、俺なりに修復したつもりだ。」
キキはその壊れたメリーを見て、呆然とした後───
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
発狂しながら、メリーを、ギャラクに向けて投げつけた。
メリーは、ギャラクの顔面に当たり、「痛!」と声を上げるギャラク。
キキは立ち会がり、声にならない悲鳴をあげ続けた。
「待って。キキちゃん!今の状態で急に立ち上がったら、危ない!!」
そんな、イルオの静止も聞かず、キキは悲鳴をあげ続ける。
メガイラは、そんな彼女に対して、先程ギャラクに危害を加えたことに腹を立てた。
「貴様ぁ!罪人の分際で、ギャラク様になんてことを!この牢獄丸ごと、『嫉妬の炎』で焼き払ってもいいんだぞ!」
それでもギャラクは、「やめろ。メガイラ。」と止めたのち、キキに質問する。
「なんだ。何が気に入らない。」
その言葉に、イルオとキキが、彼を睨む。
「なんで分からないんですか!貴方にとっては、世界の為の小さな犠牲なんでしょうが、彼女にとってはとても大切で、ゆ…。唯一の友達なんですよ!それをこんな姿にして、挙句の果てには、修復したつもり?ふざけるのも大概にしなさいよ!」
その叫びと共に、ギャラクは、『何か嫌な物』を感じた。まるで、この世の者ではない何かによって、すぐにでも殺されるような。そんな、非科学的な感覚を覚えた。
「ちっ!メガイラ、一度研究所に戻るぞ。」
ギャラクは、今にもイルオ達に襲い掛かりそうなメガイラを止め、彼女を連れて牢屋を出た。
「貴様ら、覚えておれよ。いつか、『嫉妬の炎』が貴様らを焼き尽くすだろう。」
メガイラは最後に、イルオ達にそう言って出ていった。
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「(俺は何を怯えているんだ。『この世の者ではない何か』?そんなもの非科学的すぎる。俺らしくねぇ。きっと、あれは魔法か何かの類に違いない。)」
ギャラクは、牢屋から出た後も、あの中で感じた『嫌な物』について考えていた。
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「つっ!」
コウは、自分の頭に痛みが走って、頭を押さえた。
「「アネモネのライブ。午前の部、最後の歌が始まります!! ぜひ、祭り会場中央エリアまで、お集まりください!!」」
そんなアナウンスを、聞きながら、今起きた出来事を考えるコウ。
「(今さっき、何が起きたんだ?俺は、あと少しで『腸の発掘家』を捕らえるところだった。そしたら、突然あいつが、血を吐き出して…。気づいたら、また時間が巻き戻っていた。
俺は死んだのか?だとしたら、何故…。)」
コウが考え込んでいると、突然多くの悲鳴が聞こえた。
コウがその声に驚いて、意識を周りに戻す。
悲鳴の理由は、『暴食たる蟲』が、男を食らっているからだった。
「(いつのまにこんな時間に!)」
死臭すらなくなったその瞬間、コウは周りを警戒する。
「(もうすぐ、奴が。『腸の発掘家』が来るはずだ。)」
しかし、彼がどれだけ探し回っても、『腸の発掘家』は現れず、アネモネのライブは午後の部まで終わったのだった。
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祭りが終わり、機関の者達は会場の片づけを手伝っていた。(バグジアスとオニギジアは祭りが終わったらすぐに帰った。)
テントの鉄骨を運びながら、ココルは笑顔で、コウに言った。
「しかし、今回のライブは良かったな。君と出会った日の事も思い出せたしな。なかなか気分がいい。」
コウも、鉄骨を運びながら、「そういえば、その事なのですが、」と返す。
「やっぱり、違う人だった気がするんですよね。確か、ピンク色の髪で、青い服を着ていたような…。」
コウのその言葉に、ココルは首をかしげる。
「ん?そうだったかなぁ?正直、当時はアイドルなんて、民衆が集まる行事に関係する物程度しか、認識してなかったしなぁ。ココの勘違いかな?」
そんな2人の会話を、見ていた者が、2人いた。
1人は、彼らの横を通り過ぎたアネモネ。
もう1人は、建物の陰に隠れ、体を左半分しか表していない、ピンク髪の女の子。
「 。」
彼女は、ノイズ交じりの独り言を放った。
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「祭りも終わりになった所だろうか。そんな、夜に、こんな森に呼び出すなんて、何の用ですか?」
暗い夜の森の中、メガイラとティシポネル、アレクトロの3人に呼ばれたイルオは、彼女らに向かってそう聞いた。
その言葉に、メガイラは、「決まっておろうが。」と返した。
さらに、それに続けるように、ティシポネルが話す。
「そこのメガイラから聞いたぜ!お前、ギャラク様の胸ぐらを掴んだらしいな。」
続けて、アレクトロ。
「貴方のような、階級すら持たない人がギャラク様に立てつくなんておこがましいと思わなかったのかしら?」
イルオはそんな3人を、気にしていないような目をする。
「別に思いません。それで、貴方達は私に何が言いたいのですか?」
イルオのその言葉に、腰に付けた剣を抜き、バックパックのビームソードをも起動するティシポネル。
「ふざけるなよ、お前!痛い目見ないと、自分の身分ってのが分かんねぇみたいだな!!」
ティシポネルのあからさまな殺意を受けつつも、イルオはビビるどころか、溜息をつく。
しかし、彼女はすぐに、ハッとして、舌打ちをした。
「ちっ!こればっかりは使いたくなかったんだがな…。」
「あ⁉ おめぇ、なにぶつぶつ言ってん…」
ティシポネルが、イルオに近付こうとして、足を止める。
突如、彼女の背中をつたう悪寒。
それは、アレクトロ、メガイラの2人も同じだった。
3人がその得体のしれない、感覚に怯えていると、突然、ティシポネルのいる地面から、腐敗した手が現れ、彼女の右足を掴んだ。
「ぎゃぁぁぁぁあああああああ!!!!」
3人は悲鳴をあげ、その場から逃げ出した。ティシポネルは、持っていた剣で、自身の足を、掴む手を切り落としてから逃げたので、少し遅れてしまっていた。
「はぁ。全く、この術は封印していたのに。貴方のせいだぞ。」
3人の姿が無くなったのを確認した後、イルオはそう言って、森の茂みを睨んだ。
すると、その茂みから、黒い制服に、白いシルクハットを被った男が現れる。
「おいおい!オレのせいだって?オレが何したってんだよ。」
男は、言動こそいつもとは違っていたが、ヒルその者であった。その代わりように、イルオは全く動じることは無かった。
「貴方、『魂を食らう獣』を、生み出そうとしていただろ。ここでも、あの悲劇を生み出すつもりか?」
ヒルの事を睨む、イルオに対して、彼は笑いながら答える。
「おいおい!確かに、あのときのオレはそうだったけどな。『今』は現状に満足してるんだぜ。だから、あの技は封印していたぜ、オレはよ。」
ヒルが、今も睨みつけているイルオを無視して、続ける。
「それに、あんときにも言ったが、オレだけじゃあ、『魂を食らう獣』のガキしか生み出せねぇからな?
あ?お前の方じゃなかったか?」
「じゃあ、なんで、さっき使おうとした。」
イルオの問いに、怪しく微笑むヒル。
「ケヒヒ。お前が、ピンチだったからに決まってんだろうがよ。少なくとも今は仲間じゃねぇか、そりゃあ、救いに入ろうとはするだろ?
けど、オレはどうしても今の立場から落ちるわけにはいかないのよ。
じゃあ、姿を現さないで、お前を助けられる方法をするしかない。しかし、『鎖蛇』じゃあ、オレだってバレちまう。
だから、あの方法しかなかったんだよ。」
彼の答えに、イルオは舌打ちをする。
「ふざけるなよ。あれのせいで、いったい何人もの犠牲が出る事か」
「彼女達がビビって逃げ去ってから、消すつもりだったよ!そう、かっかすんな。お前と同じ。この技使って後悔してるし、反省したさ。」
イルオの言葉を遮るようにヒルはそう言った。
イルオが喋らないところを見て、ヒルは、「そういえば、」と話題を変える。
「今日、祭りの会場で、『腸の発掘家』を見かけたと、コウ=シュージンが言ってたらしいな。」
その言葉に、「本当か?」と返すイルオの問いに、首を振るヒル。
「だが、あいつがどれだけさがしても、見つかんなかったんだとよ。」
そして、閉じていたヒルの目が若干開き、イルオを見る。
「お前、どう思う?」
イルオは、少し悩んだあと、ヒルを見て答える。
「彼の事だ。きっと、見たんだろう。しかし、それは今じゃあなかった。そう言うことだろ。」
イルオの答えに、ヒルは、「だろうな。」と返す。
そして、彼は、「なぁ。」と続けた。
「『腸の発掘家』は、あいつだと思うか?」
その問いに、イルオは目をつむって答えた。
「ええ。きっと。だからこそ、厄介なことになっているんじゃないかしら。」
次回予告
祭りが無事に終わり、その結果の報告を主な目的として会議を開く八元帥。バグジアスは、ギャラクの隠しごとを見抜くのであった。
次回 26話 未熟なるギャラク




