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8 火花


 俺とソウとで魔物を掃討すると直ぐに目的地の前までたどり着けた。

 観音開きの扉が物々しい音を立てて開き、このダンジョンの主が姿を見せる。

 鋼鉄の甲殻を持つ恐竜。蜥蜴からワンランク進化を遂げた魔物、ハガネマトイ。

 見上げるほどの巨躯からなるただの歩行は震脚に等しく、俺たちの足下を揺する。


「こいつは硬そうだ」

「斬り応えがありそうだな。直ぐにバラバラに――」

「あんたたちはそこで見てて。今度は私の番なんだから」


 セイカが一歩前に出る。


「平気か?」

「大丈夫」


 吹雪く花弁を纏い、セイカはハガネマトイの眼前へ。

 鋼鉄の尾で地面を叩き、大音量の咆哮が大気を振るわせる。

 鉄の装甲は厚く、小さな花弁では隙間を狙っても斃すには時が掛かる相手。

 圧倒的不利な相手を前にセイカは一歩も引かず、花弁に火を付けた。


「さっき閃いたの」


 以前の花弁に火を付けただけの機能不全な魔法じゃない。

 それは剣撃のように苛烈で、閃光のように鮮烈な火花。


火廻ひまわり


 激しく燃え上がる火花が円の軌道を描いて回転する新たな魔法の属性付与。

 それを吹き飛ばさんとハガネマトイの鉄尾が振るわれる。

 尾の直径だけでも優に人二人分はある太さのそれを、セイカは容易く断ち切って見せる。

 宙を舞った鉄尾の断面はドロドロに溶けていた。


「セイカの奴、俺たちの斬り合いを見て?」

「みたいだな……」


 俺たちが打ち合うたびに火花が散っていた。

 剣華をモデルとして花弁を刃にしたように、打ち合いで生じた火花をモデルに花弁を火花にした。

 花と言えば花だ。どう解釈するかはセイカ次第。

 実際にこうして機能不全を起こすことなく魔法として成立している。


「大したもんだ」


 火花が廻り、熱を帯びたわだちが鋼鉄の甲殻に刻まれていく。

 赤熱した鉄が次々に焼き切られ、ハガネマトイはその名に相応しくない姿へと変わり果てた。

 そして火の輪がついに首を断ち、ついに鉄兜の頭部が落ちる。

 つい先ほどまで苦手だった相性の魔物なのに、たった一人で斃してみせた。


「ふぅ……どうよ、凄いでしょ? 私」

「あぁ、流石だよ」

「まぁこのくらい俺でもできるけどな」

「あんた、あいっかわらず負けず嫌いなのね。まぁ、いいわ。火廻の完成はあんたのお陰でもあるわけだし。ほんのちょっとだけね」


 新しい魔法の完成に喜ぶセイカの側で倒れ伏した亡骸が動く。

 頭は落としたはずと、思考が働く前に得物に手を掛けたが、その必要はなかった。

 ダンジョンの主を斃したことにより発生する報酬。

 それが亡骸の中から発生しただけだった。


「切り落とされた甲殻が」


 冷めて鈍色に輝くハガネマトイの欠片が集結し、一本の得物を形作る。

 それは破片を無理矢理に繋ぎ合わせたような無骨なデザインをした重量武器。

 鋼の大鎚。


「おっも!」


 報酬は斃したセイカに送られ、手にした瞬間に地面に落ちた。

 岩肌の地面が割れて大鎚がめり込んでいる辺り、相当な重量と見える。


「なんだ、その目は」

「あんたが運んで、ソウ」

「なんで俺が」

「私じゃ持てないし。このまま外に弾き出されたら橋がこれで落ちちゃうでしょ。それともシンに任せる?」

「くっそ、憶えてろ」


 セイカと立ち位置を入れ替え、ソウが気合いを入れて大鎚を持ち上げる。


「大丈夫か? ソウ。腰とか」

「俺はまだ十八だぞ、爺じゃねぇんだから大丈夫だ……にしても、重い」


 足下が砂浜なら自重で沈んでしまいそうなほど重そうだ。


「お、崩れ出した」


 ダンジョンが揺れ始め、崩壊音が響き渡る。

 ダンジョンの自壊が始まって直ぐ、俺たちは外に弾き出された。

 気がつけば崩れた橋の末端に断っていて、崩壊の様子を眺めている。

 ダンジョンに巻き上げられた建材は橋に回帰し、元の姿へと巻き戻った。


「解体完了。じゃ、そのまま換金所までお願いね、それ」

「あー、はいはい。そんなことだろうと思ったよ」

「辛いなら代わるぞ、ソウ」

「大丈夫だって言ってるだろ、こんなの良いトレーニングだよ」

「あら、そうなの? いいことして気分いいー」

「調子に乗るなよ、セイカ!」

「わー、怒ったー!」


 さっと俺の後ろに隠れたセイカと、大鎚を担いだまま追うソウ。

 二人の年相応な姿が見られるのは嬉しいけど、そろそろ人目が痛い。


「ほら、やんちゃしてないで行こう。通行人の邪魔だ」

「そうね。その大鎚落とさないでね」

「安心しろ。落とす時はその頭の上にしてやるから」


 俺を挟んでいがみ合う二人と一緒にその場を後にした。

 明日からは、いや今日からはソウも一緒にブレイカーをする。

 一人も二人も変わらない。

 俺が纏めて面倒を見るから、安心して見ててくれ。

 ハルさん、グレンさん。


§


「この度は取材に応じていただき感謝します。シン・クロエさん」


 いつもの喫茶店、向かい側の席にラズベルトが腰掛ける。


「そしてセイカ・シーナさん、ソウ・ソルタさん」


 俺は、俺たちは取材に応じることにした。

 今回のそもそもの問題点は、俺がはっきりと事実を言わなかったことにある。

 噂を噂のままに、悪評を悪評のままにして、放置したことが原因だ。

 きちんと対処していれば、違うと否定していれば、ソウは凶行に走らずに済んだだろう。

 セイカも憎しみや格好を抱かずに済んだ。

 だから、取材に応じることにした。

 言うべきことを言うために。


「驚きましたよ。まさかお二人の取材までできるとは」

「私たちが居たほうが記事に信憑性がでるでしょ?」

「それにそっちの解釈でありもしないことを書き辛くなんだろ?」

「おやおや、手厳しいですね」

「当然でしょ。ゴシップ記事になんて書いてあったか憶えてるんだから」

「そうですね。私も許せません」


 予想外の言葉に顔を見合わせた。


「安心してください。私はあの男のように裏付けのないデタラメを書いたりはしませんよ」

「あの男?」

「まぁ、私のライバルと言ったところでしょうかね。あの男は私に勝つためならなんだってするんです」

「自分はそんな奴じゃないってか」

「その証明は記事ですることにします。さぁ、取材を始めますよ。あのデタラメ書きに一泡吹かせてやりましょう」


 過去の自分の記事をひっくり返すような信憑性のある証言。

 それが同じゴシップに載るとなれば、そのライバルは良い気分にはならない。

 こちらは悪評を払拭できる、ラズベルトはライバルを後ろから刺せる。

 互いに利のある取材ということか。


「あぁ」


 俺たちは取材に応じ、聞かれたことに答えた。

 できれば口にしたくないこともある。

 けれど、それでも俺たちはすべてを明かすように答え続けた。


「これであんたの悪評も払拭できたんじゃない?」

「あの記者がちゃんと記事を書けばな」

「そうなったら別の記者のところへ行けばいい。喜んで記事を書く」

「だろうな。じゃ、俺はここで」

「あたしも。それじゃあね、シン。また明日」

「あぁ、また明日」


 一日が終わり、そしてまた新しい明日が始まる。

 それは今日とはすこし違う明日だ。

 悪評を潰し、これで憂いはなくなった。

 明日からは二人の面倒を見ることになる。

 まだまだ引退させてはくれなさそうだ。

ありがとうございました。

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