かけもち監督? 8
帰省本能のおかげで自宅までたどり着いた陽介だったが、玄関で倒れるように寝ていたのにもかかわらず、自分が朝目覚めるまで家族が誰も気づかなかったことに、ショックを受けていた。
もちろん日曜日の朝だから、家族がゆっくりと寝ていたと思われる。
しかし、いくらお仲人さんの奥さんと飲んでいたとはいえ、心配しているような電話やメールなど1本も無く、夜中に陽介がいないことを誰も心配しなかったのかと、淋しさを感じていた。
さて、陽介の家庭事情はともかく、再びフサエちゃんのチームに行く日が来た。
陽介は、お仲人さんの奥さんと話したこと(陽介が監督になった時の考え方・練習メニューや方法などを皆に伝え、チームの総意で陽介を監督にすること)を、事前にフサエちゃんに伝えた上で練習場所の公民館体育館に行った。
陽介が到着するなり、チームのメンバーとその子供達が大きな声で、「おはようございます!」と挨拶をしてくれた。
陽介も、「おはようございます!、元気ですネ!」と笑顔で返事をした。
陽介が到着したのは、9:10頃。
今日体育館が使用できる時間は、9:00~12:30。
既にネットは張られていた。
前回陽介が助言したことを実行した様子だ。
陽介はフサエちゃんに、「練習を開始する前に、皆さんとお話ししたいので、15分位時間をもらえますか?」とお願いをした。
フサエちゃんは、陽介から話しがあることを事前に皆に伝えていた様子で、すぐさま「皆~、集合して~!」と声をかけ、陽介の前にメンバーを集めた。
陽介は、「練習を始める前に、皆さんにお話ししておきたいことがあります。それは非常に重要なことでこの話しの承諾なく私は皆さんの練習をお手伝いすることは出来ません。宜しいですか?」と言った。
一同、「はい。」と返答した。
陽介は、「少し話が長くなるかもしれませんので、取り敢えず座りましょう。」と言い、体育館の床に座らせた。
すると、子供達が一斉にママの隣座り、ベッタリとくっついた。
ママさん達は、「これから大切なお話があるから、皆あっちの部屋に行って一緒に遊んでてネ!」と子供達をその場から離そうととした。
陽介は、「ゴメンね!、チョッとだけママ達にお話しがあるから、おしゃべりしないでいられるなら側にいていいよ!。約束出来る人~?」と子供達に聞いた。
子供達は、「元気よく手を上げて、は~い!!!」と答えた。
メンバーのママさんは、恐縮した表情で陽介を見ながら「スミマセン。」と言った。
陽介は笑顔で、「問題ありません。」と言い、話しを始めた。
陽介の話しは、以下の通り。
①先日の練習を見る限り、試合に勝つためのチームを作るのに数年はかかる。
②日々の練習は、サーブを含め基礎練習をするために練習時間の大半を使う。皆さんが思っている以上につまらない練習になるかもしれないが、極めて重要な練習だということを理解してほしい。
③家庭婦人という事情を考えると大変なことだとは思うが、練習を休まないこと。出来る範囲でいいから。
④何よりも、練習や試合をする上において、一生懸命・精一杯プレーをすること。なぜならばそれ以上のことは出来ないのだから。
⑤そして、チーム全員の総意が、私(陽介)を監督にすることに同意をすること。また指導についてくること。決して理不尽な練習をさせるつもりはないので。
⑥今のところは、このくらいだが、以後色々とお願いやお話しをすることがあるということを理解してもらいたい。もちろんバレーボールの練習の範囲での話だが。
であった。
そして陽介は、「今お話ししたことで、一番辛くてつまらないのは、基礎練習です。しかしこの基礎が出来ない以上バレーボールを楽しむことが出来ないのも事実です。試合に勝つことを目指すのであれば、どうしても逃げて通ることが出来ない練習です。皆さん、今日僕がお話ししたことを出来ますか?、また了承してくれますか?」と尋ねた。
すると、大きな声で「は~い!!!」と子供達が返事をした。
陽介を含め、皆大爆笑。
一瞬にして緊張した場面が緩み、皆笑顔になった。
陽介はたった今話したことを、すぐさま返事をすることは難しいと承知をしていた。その上で「では、フサエちゃんに皆さんの返事を僕に伝えて下さい。僕はその返事をもらった上で、あらためて監督を引き受けるか返事をしますので今日は帰りますネ!」と言うつもりだった。
しかし子供達の元気な返事に、「皆ぁ~、ママと一緒にバレーボールやってみるぅ~?」と陽介は聞いてみた。
すると子供達は立ち上がり、「ハイ!、ハーイ!、やる!やる!」と言って大はしゃぎした。
陽介は、「では、皆さんの返事は今日の練習後までにもらうと言う事にして、取り敢えず基礎練習を子供達と一緒にやりましょう!、ただしその前に準備体操を子供達と一緒にやって下さい。ウオーミングアップは今日は要りませんので…。」と言い、フサエちゃんに了解を求めた。
フサエちゃんもイッちゃんも、取り敢えず陽介の申し出を受け入れ、子供達と一緒に練習をすることにした。