大人数のパパクラブ 2
陽介がSIEGの監督になりまだ数回の練習しかしていない。しかもそも練習は基礎的な練習のみで、遊びの要素が多いミニゲームはしたことがあっても、レシーブ練習やチーム練習、とりわけサーブカットの練習はほぼしていない。
しかし、陽介が正式にSIEGの監督になる前に「ここに、バレーボールのボールがあります。SIEGのメンバーも、私も、そして皆さんのバレーボール仲間も、少なからずこのボールの基に縁があって出会ったに違いありません。そして皆さんはSIEGというチームでバレーボールをやっています。どうかチームでこのボールを追って、レシーブをしてトスを上げ、アタックを打ち、またはブロックをしてバレーボールという競技を楽しんで下さい。しかしバレーボールは1人では出来ません。回りくどくなってしまいましたが、僕が言いたいのはこのボールをチームで追って下さい。チームでレシーブして下さい。チームで攻撃して下さい。決して向かって来たボールに対し、私のボールじゃないから私には関係ない、知らないなどと言わずにそして考えずに、チームのボール或いはSIEGを応援してくれる全ての人のボールだと思って、コートにボールを落とさないようにプレーをして下さい。物理的には『そんなの無理!、無理!』というプレーは当然ながらいっぱいあります。しかし皆さんにはそういう思いでボールをつないで欲しいのです。一緒に頑張りましょう!」と、言った記憶がある。
だが最初のプレーは、陽介がSIEGに伝えた思いとは全くかけ離れたものだった。
陽介は、最初のプレーに開いた口がふさがらなかったしメンバーに対し何か言おうとも思ったが、取り敢えずこの先のプレーがどうなるのか?、何も言わず見守ることにした。
パパクラブAのサーブが続く。
コートに向かって来る相手のサーブを、最初のプレーで寡黙になったSIEGは、コート内にいる9人が一歩も動かずまたも見送りコートに落おとした。
皆、陽介の顔色を伺っているうかがっている。
陽介は、顔色を変えないように努力しながら腕を組んで、何も言わず見守っていた。
その様子はSIEGのメンバーが、「監督は怒っていて、私達はどうしたらいいんだろう?、監督はどうしたら私達に満足してくれるのだろう?」というように陽介には見えた。
それは、今陽介が同時に指導しているもう一つのチームとは違う感情のように思えた。
陽介は、「これは困ったぞ。少なくてももう一つの弱小ママさんバレーチームは、個々のメンバーの我が強く劣勢であっても何とかしようと動いた。勿論、監督やチームメイトの認められたいという思いはあったに違いないが、SIEGのように劣勢を解決するために『何もしない』という選択はしない。きっと何をすれば良いのか?、または何が分からないのか分からない。という状況なのだろう。そしてもう一つの弱小ママさんバレーチームと違い、平均年齢も若くどちらかと言えば子供のように純粋に困っているんだろう?」と思った。
4・5点同じように相手のサーブに対し、自ら動くことなくコートにボールを落としたSIEG。
さすがに陽介も何か言わなければいけないと思い、組んでいた腕をほどき一歩コートに歩み寄った。
そしてコート内のメンバーに声をかけようとしたその時、体育館の小部屋の入り口で見ていたSIEGのメンバーの子供の1人が、「どうしてママ達は動かないでジッとしてるの?、どうしてパパクラブはあんなに喜んでるの?」と、コートの中にいる自分の母親に尋ねるように言った。
陽介は、「誰もがそう思う。こんなに小さな子供でさえそう思うんのだから…。」と、大きくうなずいた。
すると、その子供の問いにフサエちゃんが、「そうだよ!、何で皆動かないんだよ?、皆でボールを触ろうよ!、○○ちゃんが言った通りだよ!、子供が見たって私達は動いてないんだよ!、皆でボールを避けてるんだよ!、皆とにかくボールに触れるように動こう!」と、コートの中程で円陣を組みながら言った。
陽介は、フサエちゃんの言葉に、大きくうなずき自らがSIEGのメンバーに言うことをやめた。
その直後のパパクラブAのサーブ。
SIEGは、ハーフセンターのじょんちゃんがそのサーブをオーバーでレシーブを試みた。
結果は、じょんちゃんのオーバーレシーブが弾かれ、ボールはコート後方に大きく飛んで行った。
ここで陽介は、再びコートに歩み寄り、「じょんちゃん、良くオーバーでサーブレシーブをしようと頑張ったネ!、それで良いんだよ!!、失敗してもいいからまたサーブカットをチャレンジしてネ!、それにしてもじょんちゃんが弾いたボールを誰も追わないのは如何な物だろう?、だってじょんちゃんが必死にレシーブを試みたんだよ!?、なのに皆そのプレーを見殺しにするの?、SIEGのコートにあるボールはまたSIEGがプレーしたボールは、皆のボールじゃないの?、もし皆がそのことを理解してくれるなら、じょんちゃんのプレーしたボールを皆で追わなきゃチームじゃないよ!、さぁ頑張って皆でボールを追おう!皆でプレーをしよう!、先ずはサーブカットしたボールをコートの中に入れるように努力しよう!」と言った。




