その52
とりあえず、全員で祭りの会場に向かうことになった。
待ち合わせ場所から、大通りを挟んだ向こう側。
そこそこ大きな公園の入り口から、祭りの雰囲気が漂っている。
公園の敷地内に入ると、両側に屋台がずらっと並んでいた。
同時に多方面からいい匂いが漂ってくる。
どうしてこう、祭りの屋台ってのは美味そうに見えるんだろうな。
コンビニとかで売ってるフランクフルトも普通に美味しい。
でも、普段は手が出ない。
別にめっちゃ好きなわけじゃないから。
ただ、屋台で買うと格段に美味いような気がして買ってしまう。
普段食べないから、比較できないのもあるのだけど。
なんて、どうしようもないことを考えながら、みんなで屋台を回る。
「ねぇ、今度はわたあめとかいかない? お祭りっぽいし」
「お祭りっぽいといえば、射的とかも昔やったなあ」
「へぇ、タッキーも射的するんだ。意外かも」
「なんで意外なのさ」
「あれじゃない? 子どもっぽいことしなさそうだから」
「子どもっぽいって、子どもの頃の話したのに」
「子どもっぽいのが想像できないくらい、今完璧人間に見えるってことだよ。褒められてんだぞ?」
そう言ってからかうと、タッキーに小突かれ、会話してるみんなは軽く笑ってくれた。
タッキーをいじれる場面はなかなかないから、俺は逃さないようにしてるのだ。
「そういえば、中央のやぐらのあたりで、盆踊り大会がやるみたいね」
「盆踊りって言っても、まだ全然お盆じゃないけどね」
「また誠は細かいこと言うんだから。別にいいのよ、楽しければ」
このふたりのこういった会話も、もう見慣れたものである。
「盆踊り、8時からだっけ?」
「うん、確かそうだったと思うよ」
「優香ちゃんもさすがにその時には来ていると思うから、そこでみんなで写真とか撮れたらいいね」
「そうだね。今この人ごみじゃ、写真もなにもないもんね」
「せっかく浴衣なのにもったいないよね」
こんな流れで、俺たちは8時まで、適当に行きたいところを回ることになった。
当然のことながら、三雲さん、木山くんのカップル組と加賀美さん、吉岡くんの幼馴染組は女性陣が引っ張っていく形で、別行動となった。
まあ、想定通りってやつだ。
残ったのは、俺とタッキーと大野さんなわけだが、いたって普通にお祭りを楽しんでいた。
「俺、北海道にいたときはこういうお祭りあんまりいかなくてさ。だから、久しぶりの祭りの空気が何か楽しいんだよな」
「そうなんだ。私はあかりちゃんのおかげで大体のイベントは連れてってもらえてるからな。特に久しぶりな感じはしないけど……」
「確かに、加賀美さんはグイグイ連れまわしていくタイプっぽいからね。……あっ、祭りと言えばなものが、そこに見えるじゃん」
タッキーが指さす方を見ると、射的の屋台があった。
「タッキー、さっきの引きずってるのか?」
「引きずってるも何も、あれがお祭りらしいってのは、共通認識としてあると思ってたけどね」
「ふたりとも、割と子どもっぽい言い合いするよね」
くすくすと笑う大野さんに、俺は苦笑する。
「言い訳っぽくなるけど、これは言い合いって言うよりもじゃれあいだ」
「そうそう、タカリョーの相手をするのも大変なんだよ」
「タッキーお前……」
「あはは。仲良しで羨ましい限り」
大野さんはひとしきり笑うと、射的とは別の方向を指さして言った。
「ねえ、私もお祭りっぽいもの見つけたんだけどどうかな」
そう言って差ししめす方向にあったのは、金魚すくいだった。
「あー、確かにお祭りっぽいな」
「金魚すくいって、まあやらないもんね」
「ペットショップで売っているのは大抵熱帯魚だしね」
「高校生にもなるとなあ、こう、取ったところで、家で育てるのかってところを先に考えちゃうからな。なかなか手が出ないよな」
「そうなんだよね。うちにそんな場所ないしなあとか考えるんだよ」
「そうだよね。でも、私は今日やってみようと思います。うちに水槽、あるから!」
ちょっと得意げに言う大野さんは、いつもよりなんだか幼く見えたが、その分かわいらしくもあった。
「いこ!」
なんとなく服の裾を引かれながら、俺たちは屋台の方までやってきた。
一回300円らしい。
こういう所の店にしては、良心的なんじゃないだろうか。
「ポイは5つか。まあ、高校生になった俺たちならできるだろ」
「タカリョーはまた、そういう調子のいいこと言う」
「俺は、それもタカリョーのいいところだと思うよ」
「なんで俺がかわいそうな子みたいな扱いになってるんだよ」
悪態をつきながらも、俺は300円を払った。
「え、私が払って私がやる流れじゃなかった?」
「あ、そうか。確かにそうだった。でも、もう払っちゃったし」
「タカリョーはほんと、変なところで抜けてるなあ。タカリョーのおごりなら、一回やらせてよ」
「いいぞ。お前の腕前、見せてもらおうじゃないか」
「ええぇ、ホントにいいの?」
大野さんが心配しているが、本当にいいのだ。
タッキーは適当なことを言っているが、大野さんが負担に思わないための気遣いだろう。
マジで出来る男だ、こいつは。
「本当に。ちょっとはかっこつけさせてくれよ、な?」
そう言ってポイを差し出すと、大野さんはありがとうとつぶやいて受け取ってくれた。
「よし、やるか!」
金魚すくいなんていつぶりだろうかと思いながら、ポイを手に金魚に挑む。
「確か、隅の方に寄せて、後ろから一気にみたいな感じでやるといいって聞いたことがある気がする」
「俺もなんかうろ覚えの知識しかないけど、高校生の力をもってすれば!!」
俺が勢いよく振ったポイは軽々と金魚に避けられた。
「あはは、結構難しいね」
「でも、なつかしくて楽しいな」
大野さんもタッキーも、満喫しているようで何よりだ。
「あ、破けちゃった」
「俺もだ」
「俺はとっくに破けてるよ」
「何それ。自慢にならないじゃん」
「いいんだよ。ほら、二人とも二個目、やるだろ?」
「でも、タカリョーはいいの?」
「ポイを一発でだめにするくらいには向いてないからいいんだよ」
俺はそういって、ふたりにポイを渡した。
タッキーはあきれたような顔をしていたが、すぐに金魚すくいに集中し始めた。
大野さんもそれをみて、金魚のほうに目を向ける。
そして、数瞬の後。
「とれた!!」
無邪気に声を上げたのは大野さんだった。
金魚の入った器をこちらに向けて、楽しそうに笑う姿はなんだかまぶしく見えた。
「久しぶりにペットが増えたなあ」
「なかなかないよな、金魚はともかく、ペットってそう簡単に増えるものじゃないし」
「そうだね。だから、大切に育ててあげることにするよ」
「そうしてあげてくれ」
「じゃあ、お祭りの終わりまでに、タカリョーが名前を考えておいてね」
「ええ? 俺が?」
「うん。思い出づくりみたいなもので」
「そういうの苦手なんだけどなあ」
「だから逆に思い出になるんじゃない?」
大野さんはそういってくすくすと笑った。
タッキーがそんな様子をみて、こちらに提案してくる。
「俺のも終わっちゃったし、そろそろ時間だから、やぐらの方に移動する?」
「そうだね。ちょうどいい感じだし。優香ちゃんから連絡来てるかな? 電話は来てないと思うんだけど」
そう言って大野さんはスマホを確認した。
そして、一瞬愕然とした表情を浮かべて、俺たちにこう言った。
「ごめん。急用ができたから、やぐらには二人で行って!」
「ちょ、ちょっと!」
止める間もなく、大野さんは走り出した。
スマホで誰かに電話をかけながら。
俺とタッキーは、一瞬、その場に釘付けになったように顔を見合わせた。




