その51
別に、不快だとか、そんなこと思わない。
そりゃ、初日だったらイラッとしたかもしれんが、タッキーがいいやつなのは知ってる。
今更、この関係を壊そうとは思えない。
ただ、なんでこのタイミングで伝えるんだろうという疑問が生まれた。
タッキーの性格的に、こういうことを伝えてくるってことは、何かあるんだと思う。
そうじゃないと、リスクのある会話はしない。
タッキーはそういうやつだ。
「ごめんな、気分、悪いだろ?」
タッキーにそう言われたから、素直に疑問をぶつけることにした。
「全然? 俺は別にきっかけとかなんでもいいと思ってるからさ。それより、なんで今その話をしたのかの方が気になるよ」
打ち明けるということは、勇気のいることだ。
だけど、それをするってことは、勇気を出してでも何かやりたいことがあるはずなんだ。
“いい人”としては、それを助けたい。
別に“いい人”でなくても、自分が親友と思ってるやつからの相談を、真摯に受け止めないわけにいかないだろう。
「さすがはタカリョー。よくわかってるね」
「それなりに一緒に過ごして来たからな」
「そうだね。だから、俺もちゃんと向き合わないとなと思ったんだよ」
タッキーが、真剣な顔でこちらを向いて、口を開く。
「実は……」
「おーい! タカリョー! タッキー!」
タッキーの声を遮るように、三雲さんの声が響いた。
どうやら、もう待ち合わせ場所にいたらしい。
木山くんと一緒にいるところをみると、2人で少し早めに来たらしいことがわかる。
タッキーは、そちらに手を振ってから、俺の方を見て苦笑いで言った。
「悪い。この話はまた今度させてくれ。文化祭準備会があるだろ、そこで」
「お、おう」
「おーい!」
早口でパパッとそれだけ伝えたタッキーは、別人のように切り替わった。
明るい表情で、三雲さんたちの方に手を振りながら近づいていく。
いつものタッキーな感じだった。
待ち合わせ場所には、まだ三雲さんと木山くんしかいなかった。
2人とも浴衣に甚平で気合が入っている。
まだ祭りの本番まで時間はある。
ただ、大通りの向こうには、すでに祭りの気配が漂っている。
合流した4人で話しながら待っていると、すぐに大野さんが来た。
「ごめん、遅れちゃったかな?」
そう言って合流してきた大野さん。
水色を基調にした浴衣が似合っている。
急いだのか上気した頬も合わさって、なんだかいつもと違って見えた。
「いや、全然大丈夫だよ」
「浴衣! いいね! 似合ってる!」
三雲さんが元気に褒め出すと、大野さんはそうかなぁと笑った。
そこで、ふと思い出した。
4月の初めの大野さんは、こんな柔らかい話し方をしてなかったよなと。
三雲さんのハイテンション会話にも普通についていっているし。
なんだろうな、よかったなって思ってるんだろうな、俺は。
不思議な気持ちが去来したが、加賀美さんの大声でそれも霧散した。
「おーい!」
吉岡くんを引きずるようにこちらに向かってくる。
赤の浴衣を着ている加賀美さんは、浴衣でもいつも通りの強さらしい。
吉岡くんが、甚平になってもいまいちカッコよく仕上がってる感じがしないのは、加賀美さんのせいかもしれない。
というか……。
「なぁ、タッキー。俺たちだけじゃないか? 私服なの」
「タカリョーも気づいた? きっと女の子たちはみんな浴衣だよね」
揃って互いの和装を褒め合う空間。
その隅っこで、俺とタッキーは互いを慰めた。
そこで活気付いたのはよかった。
だが、待ち合わせ時間を5分過ぎても、宮本が現れない。
「優香ちゃん、どうしたんだろう?」
三雲さんがそんな呟きをもらす。
俺も、たしかに遅れるなんて宮本らしくないと思ってたところだ。
「メッセージ入れてみるね」
大野さんが何故か少し焦った様子でスマホを取り出す。
すると、返信の代わりに電話が来たようだ。
「もしもし? 優香ちゃん?」
急ぎ気味に電話に出た大野さんは、宮本の声を聞いて少し安心したらしい。
柔らかい声で相槌を打っている。
「そっか、よかった。うん。家の用事はしょうがないよ。うん。先に?」
大野さんが少し困ったように、こちらを振り返った。
「なんか、優香ちゃんが、先に回ってていいよって言ってるんだけど……」
あぁ、宮本なら言いそうなことだ。
俺たちは特に気にするでもなく、宮本がそれでいいのならと返事をした。
しかし、大野さんは少し渋っている様子。
「そっか、でも、合流出来なかったらかわいそうじゃない? 私だけでも残った方がいいんじゃないかな?」
「何言ってるのよ。そしたらあなたがかわいそうでしょ」
「そうだよ。優香ちゃんは、待たせる方が気にしちゃうと思うし」
大野さんの提案は、加賀美さんと三雲さんに退けられる。
優しい大野さんらしい提案だったけど、俺は、どこか違和感を感じていた。
ただ、それが上手く固まらない。
「まぁ、俺たちも子どもじゃないんだし、スマホもあるから連絡できるんじゃないかな?」
「そうだね。どうせ、単独行動にはならないだろうし誰かが連絡に気づけると思うよ」
タッキーや木山くんがアイデアを出してくれる。
異論も出ないので、なんとなくそういう流れに落ち着いた。
大野さんが、またそのことを電話口で説明する。
「そう。だから、近くまで来たら電話して。……うん。いや、私が一番スマホ気にしてる自信あるから私に電話するのがいいと思う」
「ふふ。一番スマホ気にしてるって、真里ちゃんらしすぎる」
加賀美さんが呟く。
タッキーがそれを拾って質問した。
「そうなの? 俺、よく喋るけどそういうイメージないかも」
「学校だけだとそうかもね。特に今年は。去年までは、いっつもスマホと一緒の子だったから」
「へぇ、私は今年から同じクラスだから、それは意外かも」
三雲さんも入ってきて、いつのまにか、夏までのクラスの出来事の話題になっていた。
俺は、適当に相槌を打ちつつ、違和感の正体を探して、大野さんを気にしていた。
「うん。やるよ。絶対だからね。約束したからね」
そう言って念を押しながら電話を切る姿を見て、モヤモヤはさらに大きくなった。




