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その20

「頑張ってと言われても、正直何を書いたらいいかわからないんだよな……」


俺は、早速壁にぶち当たっていた。

しょうがないので、宮本に相談してみる。


「んー、コラムとかって、小さめの記事だから、本編では扱わない話を入れることが多いの。去年のは見た?」


「いや、見てないけど」


「じゃあ、まずはそこからね。バックナンバーを確かめるのは基本よ」


ま、そりゃあ、そうだ。

ということで、いつになくマトモなアドバイスをくれた宮本と、新聞部の資料室にやってきた。


資料室といっても、部室の隣にあるうなぎの寝床のようなスペースのことで、紙媒体のバックナンバーは大体ここにあるらしい。


「特別号って、ポスターサイズの掲示のみなんだっけ?」


「そう。刷るとなると大変でしょう? 短期間に2回も出すから、部員の手も足りないし」


「それもそうか。でも、ポスターってことはみんなに見られやすいってことだからな……結構プレッシャーだ」


「変なところで真面目なんだから」


「変なところでもないだろ。部活なんだから」


「部活は遊びの延長でやってる人もいるわ」


ポスターを探す宮本が言ったことに、ちょっと引っかかってしまう。


「そうかもしれないけどさ、ここの先輩は、みんな真剣じゃん」


少し語気を強めて、そう言いながら、宮本の隣に立ってバックナンバーをさがす。


宮本は意外そうな顔をして言った。


「強引に私が引き入れたから、思い入れが弱いかと思ってたのに」


「……少しは強引な自覚があるんだな」


「まぁ、あなた以外の人にこんな強引なやり取りは求めないわね」


複雑な気持ちだ。


見た目だけはそこそこいい女の子に特別扱いされるのを、嬉しく思ってしまう自分がいるが、それはダメだと冷静に止める自分もいる。


最近、本当に宮本との距離感が難しい。

難しくしてるのは、俺なのかもしれないけど。


なんて、内心を隠し、とりあえず話を逸らす。


「普通に、先輩達を見てて、いいなと思ったから、思い入れができたんだよ。それに、みんな真剣だろ?」


宮本はふふと笑って若干楽しそうな声音で答えた。


「そうね。私は、この部活好きだもの」


「だろうな。だから俺も好きになったんだと思うよ」


「それは、嬉しいわね。あ、あった。特別号のバックナンバー」


宮本が持っていたのは、去年、一昨年の体育祭特別号だ。

お祭り気分が伝わってくるような紙面だ。


前編である体育祭直前号では、体育祭の部活動リレーに関する取材や、体育祭のメインイベントとなるチアリーディング部へのインタビューなどがメインで掲載されていた。


読んでいるだけで楽しみになってくるのはさすがとしか言いようがない。

ちなみに、去年記事を書いていたのは葉山先輩たちだった。


「去年のコラムの担当は……なんだ、宮本か」


「なんだって何よ。ここ、まかせてもらえて嬉しかったんだから」


「いや、バカにしてるつもりはないよ。普通に、俺がアドバイス貰うのにはちょうどいいんだなと」


「なら、いいけど」


なんか、宮本は完璧人間に見えて、結構敏感なんだよな。

そういう宮本に慣れてきた感じもあるけれど。


そんな宮本の書いた記事は、体育祭で期待している種目は何かというものだった。

たしかに、事前の方が面白い内容の記事だし、アンケートも少し取っていてすごいなぁと素直に思う。

だが、宮本はそうでもないようで。


「でもね、この記事はそこまでうまく書けなかったの」


「そうか? 結構面白い内容だと思うんだけど」


「うん、まぁ、みんなが読みたい内容かなって思って書いてみたんだけど、ちょっと箸にも棒にも的な内容になっちゃったなあって」


なんだって?

めっちゃかっこよくてすごいことを言っているみたいだけど、俺にはさっぱりだ。


その雰囲気が伝わったのか、詳しく解説もしてくれる。


「なんていうか、筆が進んでくれないんだよね。求めてるだろうってモノを書くと、どうしても、本当に求められているものともズレちゃうし」


「そしたら、何を書いたらいいんだよ」


難しくて頭がこんがらがってきた。


しかし、宮本は妖しく笑うだけで俺の問いには答えてくれなかった。

代わりにこう言う。


「私と同じ失敗をしてみたらわかるわよ」


俺には失敗とも思えない宮本の記事なのだからもう何もわからない。


結局、1週間以内に体育祭について自分が読みたいだろうと考えるネタを考えることにした。


「へぇ、面白いことになってるんだね」


「本人は何も面白くないんだよなー」


タッキーに相談したら、こんな返しがきた。

親友(勝手に認定)が困ってるなら助けろよ!

って、文句のひとつでも言いたくなるけど、微塵も関係ないので言えるはずもなく。


ただ、俺はため息を吐くだけになった。


「そんな顔するなよ、考えて面白そうな記事を書けばいいんだろ?」


「簡単じゃないんだよ。体育祭もよく知らないしさ」


「うーん、それなら、それこそ体育祭のイメージ調査とか?」


「確かになあ、いい案も出ないしなあ」


そういう話をしながら歩く帰り道、珍しく一緒に帰らなかった宮本が、三雲さんとカフェにいるのを横目で見た。


「そういえば、最近三雲さんと宮本さんはよく一緒にいるよね」


俺と同じく2人に気づいたらしいタッキーが話を振ってきた。


俺は、そうだなと相槌をうって、聞いてみる。


「何か知ってるか? テスト前に何かを相談するみたいな話があったから、少し気になってるんだけど」


俺がそう言うと、タッキーはふぅんと一言。

そして続ける。


「俺にはそれが何かはわからないな。だって、タカリョーよりも宮本さんと仲のいい人知らないしな」


「なっ!?」


思わず動揺してしまう。


周りから見ると、俺と宮本が仲良く思われてたなんて想像もしてなかった。

だが、言われてみればそうだ。


クラスは一緒、部活も委員会も一緒。

一緒に行動している機会が多すぎる。


それに、宮本はなぜか俺に恋愛したい欲求を向けてくる。

そういう状況はたしかに客観的にみて、仲良しに見えなくもない。


「自覚なかった?」


「いや、うん。自覚というか、客観視したことはなかった」


「客観視してどう?」


「確かに仲良しに見えるかもしれん」


「まぁ、そうだね」


何が面白いのか、タッキーは含み笑いをしている。

俺はそこにあまり追及できず、丁度俺たちは電車のホームに着いてしまった。


そして別れ際、タッキーが言う。


「まぁ、もし気になるなら、本人に聞くのが一番だと思うよ」


そんな、普通すぎるアドバイスを残して、タッキーは帰っていった。


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