その21
「へぇ、それでわざわざ私に聞きに?」
やけに勝ち誇った様子の宮本がうざったいが、なんとなく気になってしまうのだからしょうがない。
「うるさいな。気になることは早めに解消した方が精神的にいいだろが」
「なるほど。でも、残念ながら私から話せることはそんなにないよ」
「三雲さんの情報だから?」
「そう。プライバシーは大事なの」
そう言われたらその通りだが、これではなんだか、ただ負けにきただけみたいだ。
ここはなんとか食い下がりたい。
そういう謎の考えが働いて、俺はこう提案していた。
「なら、俺にできることがあったら教えてくれ。協力するから」
後から考えると、この時口走った言葉は失敗以外の何物でもなかった。
だが、俺はそれに気付けなかった。
なぜなら、宮本は表情ひとつ変えずにこう返したのだ。
「そう。じゃあ、気が向いたら助けてもらうわ」
このセリフを聞いた時、本当に負けた気がして悔しかったが、言い返す言葉がなかった。
そんなやり取りをしていた部活後。
流れで宮本と帰ろうとしたら、大野さんに会った。
「一緒に帰ってもいい?」
「もちろん」
そう答えるのは、宮本だ。
俺はなんとなく、YESを言いづらかった。
そう、俺は流れで一緒にいるだけだから。
「真里ちゃんが最終下校まで残るのは珍しいわね」
「うん、テスト明けから部活始めたからねー」
「マジか」
大野さんの驚きの発言に、俺はリアクションをとってしまう。
いや、別にしちゃいけないわけじゃないんだけどさ。
「マジだよ。私なりに、色々挑戦しようと思ってさ」
「真里ちゃん、無理してない?」
ここで心配が出てくるのは、本当に友達って感じがする。
俺なんて、やったじゃんとしか思えなかったわ。
「全然! ほら、入った部活、イラストサークルっていうゆるいやつだし。先輩も同期もみんな優しいし。ちょっとテンション合わなくて、あわあわしちゃう時もあるけど、結構楽しいの」
「よかったね」
「うん、2人のおかげ」
「いや、俺は本当に何にもしてないよ。宮本が考えた案に乗っかっただけだし、頑張ってくれたのは大野さんだし」
そう、俺は何もしてない。
何もできないんじゃないか。
最近はそう思えてならない。
5月は過ぎたっていうのに。
「それでも、私は、タカリョーにきっかけをもらったからさ」
どこか恥ずかしそうに笑う大野さんは、なんだかすごく眩しく見えた。
そんな折、後ろから声が聞こえた。
「おーい、優香ちゃーん! 真里ちゃーん!」
「雪ちゃん?」
俺たちが振り向くと、小走りで追いかけてくる三雲さんの姿があった。
いつのまにか、大野さんとの距離も縮まっているらしい。
部活後だというのに、元気いっぱいという表情の三雲さんは、手に持ったスクールバッグを俺にぶつけてきた。
「ぬぁ」
咄嗟によけるも、変な声が出る。
それでも、反動で戻ってきたカバンを俺に押し付けながら、三雲さんは言った。
「タカリョーも、お疲れ!」
「お、お疲れ」
こういうキラキラした美少女との会話はやっぱりわからない。
すげえ可愛いということしかわからない。
どうしたってドギマギしてしまうから、代わりに質問を投げる。
「今日はご機嫌じゃないか、何かいいことあった?」
「あははぁ、わかる? でも、教えない!」
「もう、雪ちゃん……小学生から変わらないよね、そういうとこ」
「どういうとこ?」
「自分の気持ちを素直に、言動に表すってとこじゃないかな。私は、正直、ずっと憧れてる……!」
大野さんの力のこもった言い方に、三雲さんは頬をかきながら、「そうかな」なんて答えている。
女の子の言葉で女の子が照れている。
素晴らしい。
俺は絶対、この状態では邪魔者だ。
その予想は正しかったようで、その後は、女の子3人が全力で会話していて、俺の入る余地はあまりなかった。
姦しいなんて言葉を考えた人は天才だな。
ただ、この状態で、タッキーの言葉を思い出した。
宮本と一番仲がいいのは、俺に見える。
たしかにそうかもしれない。
なんなら、大野さんや三雲さんとも仲良く見えるんだろう。
でも、中身はどうだろうか。
たまたま同じ駅まで行くから、宮本の周りに人が集まるから俺もいるだけで、俺は何にもしてない。
外から見える景色と、内側から見える景色は全く違うものなんだろうとしみじみ思う。
そうやって高校生らしい空虚な世界に浸っていたら、声をかけられていたらしい。
宮本にこづかれる。
「聞いてた?」
俺はこの手の対応を間違えない。
「ごめんなさい。聞いてませんでした」
素直に謝るのが一番である。
「体育祭、クラスTシャツサンプルは誰のを出すかって話よ」
「あー、新聞部の特別号に載るんだっけ。2番目の方に載るのにもう決めるのか?」
「もめたら嫌じゃん! タカリョーはわかってないなあ」
「……いや、もめるか? 高校生で」
「もめるよ! 私、映りたくないもん!」
「映りたい人もいるよね」
「なるほど」
たしかに考えないとなあと、空返事をしつつ、俺は今考える気力はなかった。
任された記事の内容もまだ纏まってない。
やることが多くなって思考を放棄したのだ。
今日は金曜日。
土日でやるからいいかって気持ちも強い。
そのままそこでの会話はふわふわと流れた。
3人と別れてからは、びっくりするくらい静かな帰り道を過ごす。
帰宅後、ベットに放ったスマホを見ると、SNSの通知が来ている。
一番上のものは、宮本からだ。
『明日、土曜日。予定ある?』
簡潔がすぎる。
宮本にしては珍しいなと思いつつ、こちらも『ない』と一言返信する。
すると、ものの数分で返信が来た。
『10時に、森山学園前駅集合ね。異論は認めない』
とんでもない暴君だ。
絶対行かないと心に決めて、『やめておく』と返信した。
すると、恐ろしい返信が来る。
『じゃあ、9時半にあなたの家に迎えに行くわ。大丈夫、場所は知ってるから』
なんて奴だ。
脅迫か?
いや、実際に知っているのかもわからない。
ブラフかもしれない。
なんて、知略戦を繰り広げた結果、俺は見事に負けて、駅の待ち合わせに行くことになった。
高校生になって、親に女の子の友達が確定バレするのは、さすがに嫌だったのだ。
家族にだけは、学校での現状を知られたくない。
そんな強い思いは、俺が中2で初失恋をしたときに形成され、今でも常に持ち合わせている。
うちの母は、なんというか、頭が若いからな、うん……。




