第18話 退治
久々更新です。
申し訳ない(´・ω・`)
ユーグを仲間に加え、一夜が過ぎた。
うっすらと明るくなった早朝、俺が目を覚ますと、ルディオスとユーグが何やら難しい顔で話していた。
「シオン、おはよう」
「おはよ、カリナ。どうしたの?」
俺が訊くと、カリナが説明してくれる。
なんでも、ユーグは[西域]では商人で、この[内海域]への旅が危険だということで、魔法具を幾つか持ってきているらしい。その中の1つに、魔物の発する陰の魔力を測る道具があり、ユーグはそれを使いながら、旅をしていたそうだ。
昨日、この野営地に着く前、ルートから外れ道に迷っていた時も、それで魔物を避けていたという。
野獣などのモンスターならなんとかなるが、“魔物”は、モンスターよりも厄介なものが多い。
だいたいはテレトリーがあるので、そこに入らなければ、襲ってこない。
「ここはすでに魔物のテレトリー内なのよね」
「でも、結界があるよね?」
「うん。だから、この中は安全。でも、どうやら厄介な魔物みたいで、出るときが危険かな?」
ユーグが言うには、[カラチ平原]に入ってから今まで魔法具が反応した中で一番強い反応らしい。
「昨日、着いた時は物凄く強い反応を示したネ!デモ、夜になったら反応は凄く弱くなったヨ。デ、朝見たラ、また、反応強くなってるヨ」
「…………厄介だな」
「え?えーと………?」
『“魔物”が休息状態だと、発する魔力は弱まる。強い魔物の中には、昼間に活動するものも稀に存在するぞ?』
ルディオスが呟く傍ら、俺は、意味が分からずに首を傾げた。すると、猫の姿のまま、俺の腕に抱かれていたクロガネが説明してくれる。
なるほど、魔物は普通は夜行性だが、稀に強い魔物は、昼夜逆転するものもいるのか。
「強くなくても、昼間に活動する種類の魔物はいるかな。でも、そんなに強い魔物じゃない。強い魔物ほど、夜行性になる」
「あ、あれ?」
クロガネの言うこととカリナの言うことが違う。
俺は、少し混乱した。
「昼間に活動する魔物は、弱いのか?」
「一概には言えない。一般的に魔物は夜行性だが、弱い魔物で昼間活動する魔物もいる。強くなればなるほど夜行性になる。だが、本当に強い魔物の中には、夜昼関係なく活動できるものがいるらしい。クロガネがいうのは、その類だ。だが、大昔ならともかく、今の時代にそれほど強い魔物がいたら、国レベルの大問題だ」
ルディオスが、俺の疑問を説明してくれた。
つまり、どちらも合ってはいるが、クロガネの話は大昔のことというわけだ。
『むぅ。仕方ないだろう。我は、ずっと封印されていたのだ。昔のことしか知らぬ』
クロガネがむくれた。
ちなみに、クロガネの思意が聞こえないユーグは、少し不思議そうに俺たちを見た。
一応、カリナが説明しているので、話として成り立っているように見えるが、俺がなにやら戸惑ったのが不思議だったらしい。
「ここにいる魔物は、どうやら昼行性のようだ。だが、だからと言って、夜に野営地を出るのは自殺行為だ」
「でも、これから出ようにも、確実に狙われるかな?」
「うーん、“魔物”に弱点があればネ!」
ルディオス、カリナ、ユーグの3人がそれぞれ、考え込む。
その様子に、俺は首を傾げた。
“魔物”の弱点なんて、簡単なんだが……。いや、簡単ではないかもしれないが、“光属性”か“聖なる力”もしくは、魔物の“核”を物理的に破壊することだ。
種類によっては、身体中に移動させたり、物理攻撃を無効化する膜に覆われていたり、魔物も核を守る為に様々な策を講じているが、逆を言えば、最大の弱点なのだ。
『ふむ。今の時代、魔物の弱点や知識すら忘れられておるようだ』
「ってことは、俺が知ってるのは“謎知識”か!」
あまりに自然に出てきたから、気づかなかった!
いや、待てよ?ゲームとかに出てくる魔物やモンスターだって、魔石を持つとかあったな。
あれと同じってことか。
だから、出てきても違和感なかったんだな。
だいだい、“核”って、なんだよ?意味が分かる自分が、正直怖いよ!
というか、月の名前じゃん?!!
最近、無かったからなー…………。
うっかりしてたよ、チクショー!!
「そういえば、一昨日会ったパーティは昼間に出て無事立ったんだよね?」
「おそらく、“ここ”とは違う別の野営地だったんだろう。情報では、“この辺り”という漠然とした話で、場所の特定はされていないからな」
「あー………、そっか……」
俺は、がっくりと肩を落とした。
だいぶ陽が上がってきているので、対策に悩んでいる3人から離れて、とりあえず、朝食の準備をすることにする。
『良いのか?』
「なにが?」
とことこと、俺に着いてきたクロガネの言葉に、俺は首を傾げた。
『魔物の弱点だ。“光属性“や“聖なる力”が無くても、炎や聖水を使えば効果はあるし、核を狙えば確実に倒せるだろう。ルディオスたちに教えなくて、良いのか?』
「…………うーん、とりあえずご飯だな。腹が減ってはなんとかっていうし、だいたい、炎はともかく聖水って普通、持ってるかな?」
『そなた、我が“聖獣”だと忘れておるな?我の主税は風と雷だが、聖属性ゆえに魔物には有効だぞ?』
「そうなのか?」
『それに、そなたは自覚無くとも高位の“聖なる存在”だ。魔物に狙われやすい反面、奴らにとって弱点でもある“聖なる力”を持つ。まぁ、そなたは少々特殊だが、水にそなたの血を一滴垂らすだけで、強力な聖水になるぞ?』
「なに、その人外宣言………!」
朝食を作りながら、俺は、思わず叫んだ。
いや、確か前に“聖なる存在”の血肉は、魔物の“力”になるとか言ってた気がする。確か強い魔物限定立ったか?弱い魔物には毒だって言っていた気がするから、つまり、強い魔物は更なる進化の為に“聖なる存在”を食べるわけか。チャレンジャーだな!
いや、確か“聖なる存在”を食べる奴には、その血肉が甘露だとか言ってたから、毒っていうわけでもない?
ん~、駄目だ。分からん。
「ここの魔物にとって、俺は“毒”なのか?」
『ふむ。大抵の魔物には、そなたの血肉は“毒”だぞ。なにせ、そのものが聖属性だ』
「だけど、前に“聖なる存在”を食べるやつがいるって…………」
『あれは、ただの“脅し”だ。確かに、我の知る昔には、“聖なる存在”を喰らい力を増す、まさに化け物レベルの魔物がいたが、今の時代にそんな魔物が存在したら、それこそ国の1つや2つ、簡単に滅びる大事になろう。
だが、弱い魔物でも、聖属性に耐性を持つ魔物がいなかったわけではない。
そなたは、自覚がない上に少々無防備すぎるのだ。もう少し、警戒心を持つべきだ』
だいたい………と、何故か説教を始めるクロガネ。
黒猫の姿で、ちょこんと座って説教されても全然怖くはない。むしろ、可愛い。
俺は、クロガネをスルーして、パンを温めて、スープを作り、簡単な炒めものを作り、最後にユユの実をデザートに添える。
「朝食、出来たよー!!」
『………って、我の話を聞かんかーーっっ!!?』
ルディオスたちに声を掛けると、それまで長々と独り言ーーという名の説教をしていたクロガネが、キシャァァァーーッッ!!!と、背を逆立てた。
どうやら怒ったらしい。
「はいはい、分かったから、クロガネには“ルクムの実”をあげるよ」
『む?………いいのか?っじゃ、なくてだな!』
「“ルクムの実”はもう残り少ないから、大切に食べてくれよ」
『分かっておる!猫の姿だと、十二分に堪能できる。もぐもぐ…………』
長い尾をふりふり、上機嫌でルクムの実にかぶりつくクロガネ。
朝食を運ぶ手伝いに来たカリナが、その様子を見て、「ふっ………、単純すぎ」と、鼻で笑った。
うん。俺もそう思うよ………。
俺は、思わず、苦笑を零した。