新人はできないものなんです
果たして、有坂恵は希望の営業ではなく人事部教育グループに配属された。
発表は五十音順だったから早い方だった。人事部だけでも珍しいのに教育グループは異例中の異例で、周りの同期がどよめいた。
ちょっと珍しいぐらいが好みの有坂恵は、満足していた。本当は世の中の不便を改善するために営業になりたかったのだが。
有坂のデスクは、新入社員研修で人気のあった上司と先輩たちに挟まれた。
呼ばれて会議室に行き、女性の上司を紹介された。
美人とは言えないがお洒落で人のよさそうな、アラフォーの女性だった。
有坂が初めての部下らしい。
有坂は好感を持った。
そして恵は宣言通り同期と結婚し、名字が変わったものだから、研修で世話になった十歳上の先輩は恵を愛称で呼ぶことにした。
人間関係は良好だった、昼休みにNHKの英会話を上司と練習してみたり、和気藹々としたグループが恵は本当に好きだった。経理伝票の処理、一般社員から提出されたデータのチェック、それらの仕事を恵は愛した。
しかし有能なSEだった上司は知らなかったのだ。恵が致命的にIT能力がないことを。
なんと、恵は最初に、教育グループが使う経理システムの0からの構築を依頼されたのだ。しかも一人で。
研修でやったからできるよね、と言われるも、当然恵は行き詰った。
これはこうすればいいんだよ、と質問に答えてもらったからにはこの書類はできるはず。
完成品しか提出できないと思い込んでいためぐみは、にっちもさっちもいかなくなって、勤務中にネットサーフィンをしたり、トイレに何時間もこもるようになった。
会社も休みがちになり、どんな仕事ならできるの、という問いにも、恵は答えられなかった。
忘れていたのだ。
「世の中を便利にしたい。ストレスフリーな社会にしたい」
という思いで就職活動していた初心を。




