↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
受付嬢ミア(分割版)  作者: さいらす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/3

3、代わりなら、いくらでも

「そういえば」


 ヴェルナが、書類入れから一枚の紙を取り出した。


「昨日、倉庫の書類を調べさせていただきました。……こんなものが出てきましたが」


 机に置かれた紙を、ミアは覗き込んだ。


 見覚えのある字が、そこに並んでいた。ほかの誰の字でもない、ミアの字だ。


『冒険者ドルガ。判定、ランク2。判定者セラ、記録者ミア』


「そ、それがどうした!」


 ドルガが立ち上がった。


「一年前は2だったんだよ! それから俺は死にもの狂いで魔獣を狩って、4に上がったんだ! 文句あんのか!」


「なるほど。では、伺いますが――」


 ヴェルナの表情は変わらない。


「ランクが上がるには、判定を受け直す必要があります。そして判定を行えば、必ず記録が残ります。……ミアさん」


「は、はいっ」


「この支部の書類は、驚くほどよく整理されています。帳簿はどれも綺麗な字で記入され、倉庫の書類は年ごと、月ごとに束ねられていた。ここまで行き届いた支部を、わたくしはほかに知りません」


(押しつけられてただけなんですけどね……一生懸命やりましたけどっ!)


「ですから、断言できます」


 灰色の目が、はじめてバルタスに向いた。


「この支部のどこにも、ドルガさんがランク4と判定された記録は存在しません。これだけ整理された倉庫で、紛失したという言い訳は通りませんよ。……支部長」


「……っ!?」


 ヴェルナが、カウンターの奥へ視線を向けた。


「ドルガさんがランク4であると、みなさんはどなたから聞きましたか?」


 先輩の受付嬢たちが、顔を見合わせた。


「し、支部長から……そう聞いていました……」


「じょ、冗談ではない! 私はなにも――」


「規約第二百十四条。上級監査官は、監査に必要な検査を命じることができます」


 ヴェルナは立ち上がった。


「ドルガさん。この場で、ランク判定を受けなさい。拒否すれば規約違反とみなし、あなたの冒険者登録を抹消します」


「ふ、ふざけんな……!」


 ドルガは周りを見まわした。だが、ギルド内の冒険者たちの視線は、氷のように冷たい。逃げ場はどこにもなかった。


 セラが判定用の魔道具を運んでくる。ドルガの太い手が、のろのろとその上に乗った。


 白い光が、ゆっくりとかたちを結んでいく――。


「……判定、ランク2です」


 その場が、静まり返った。


「け、怪我だ! 怪我が治りきってねぇんだ! だから数値が落ちてんだよ!」


「そ、そうだぞ! ドルガは万全ではないのだ!」


 わめくふたりの前で、ミアは静かに帳簿を開いた。


「ドルガさんの治療費は、この一年で二十三回、ギルドから全額支払われています。……全部、治っているはずですよね?」


「なっ……」


「それとも二十三回分の治療は、行われていなかったんでしょうか?」


 ドルガの口が、開いたまま動かなくなった。


「神殿に照会すれば、実際に治療を受けたかどうかはすぐにわかります。受けてもいない治療の費用を請求するのは規約違反です」


 ヴェルナが淡々と続け、それから、バルタスへ向き直った。


「バルタス支部長。あなたがリーンの本部にいたころにも、ギルドの資金を着服している疑いがありました。しかし証拠がそろわず、職員への度重なる横暴な行為だけが認められて、この街へ異動になった。……覚えていますね。あの処分を上申したのは、わたくしです」


「まさか! お……おまえは、あのときの……受付嬢!?」


「ええ。代わりなら、いくらでもいるはずの受付嬢です。……ですが、わたくしはもうあのときとは違います――」


 ヴェルナは、一通の書状を机に置いた。ミアが夜中に書いた、あの監査請求だった。


「過去の余罪も含め、徹底的に調べさせていただきます。千六百年前にエウリーさまが冒険者のために作られたギルドの規約を悪用するなど、恥を知りなさい!」


 ヴェルナが跳ね扉に向かって声を上げると、武装した街の衛兵たちが入ってきた。はじめから、表に待たせてあったらしい。


「虚偽のランク認定、ならびに治療費詐取の疑いです。ふたりを連行してください」


 ドルガが暴れようとした。その瞬間、周りにいた冒険者たちがいっせいに武器に手をかけた。


 誰ひとり、ランク2の男など恐れてはいなかった。


 引き立てられていくドルガが、バルタスに向かって吠えた。


「お、おいバルタスっ! てめぇが持ちかけたんだろうが、『分け前をよこせばランク4ってことにしてやる』って! 俺ひとりに罪をかぶせる気かよ!」


「ま、待ってくれ! 私はそんなこと言ってない!」


 衛兵に腕をつかまれたバルタスが、必死に振り返る。


「ミア! いや、ミアくん、ミアさんっ! き、君からもなんとか言ってくれ! なあ!」


 ミアは、営業スマイルを浮かべた。


「まあまあ、支部長――」


 そして、言った。


「あなたが我慢すれば、それで丸く収まる話でしょう?」


◇


「ミアちゃん、倉庫の片付けでもなんでも言ってね」


「そうそう。わたしたちに任せて」


 先輩の受付嬢たちは、あれから急に愛想がいい。


(現金なんだから、もうっ)


 本部へ戻る朝、ヴェルナはカウンターに立ち寄って、ミアに声をかけた。


「ミアさん。勇気を出して監査請求を送ってくれて、本当にありがとう。バルタスはリーンでの横領についても自白したわ。……それから」


「は、はい」


「あなたには本部も期待しているわ。これからも冒険者のために頑張ってね」


 にっこり微笑むと、上級監査官は小さく手を振って去っていった。


(ヴェルナさん。できる女って感じで、かっこいい。わたしも頑張れば、あんなふうになれるかな?)


◇


 数日後、神殿での治療を終えたリトがギルドに顔を出した。脚の傷は、跡も残らず綺麗に治り、もう杖なしでも歩けるそうだ。


 治療費はギルドが全額負担した。受注資格のない者に依頼を渡していた以上、責任はギルドにある――それがヴェルナの裁定だった。ドルガから取り戻した金は、代わりに討伐をさせられていた少年たちに分けられるという。


「ミア姉ちゃん!」


 カウンターの前で、リトが頭を下げた。


「こないだは、ごめん! 俺、勇気がなくて。……ドルガが怖かったんだ……」


「そんなこと、もういいよ。それより、リト。ランク判定を受けてみない? セラさーん!」


「えっ!? なんで?」


「いいから、いいから」


 運ばれてきた魔道具に、リトの手が恐る恐る触れた。白い光が、ふわりとあふれる。


「――判定、ランク3です」


「え」


 リトが固まった。


「お、俺が、ランク3……?」


「あなた、ドルガの代わりに仲間と何体も中型を狩ってたんでしょ? ……それと、これ」


 ミアは掲示板から一枚の依頼書を剥がし、カウンターに置いた。


『旧ガヤルド王国領にて、猪型の中型魔獣二体の討伐。受注はランク3以上。報酬は金貨二十枚』


 前回の討伐は失敗扱いとなり、ふたたび貼り出されていた、あの依頼だ。


「今度は、あなたの名前で受けられるよ」


「お、俺……や……やるっ! やります!」


 リトの目のふちが、じわりと赤くなった。依頼書を胸に抱え、何度もうなずく。


「親父の借金、俺が返すんだ!」


「その意気だよ。……あ、でも無理はダメだからねっ!? 今度担ぎ込まれてきたら、怒るからね!」


「あはは、なんだよそれ!」


 夕暮れの光が、跳ね扉の隙間からカウンターまで伸びている。


 ミアは新しい帳簿を開き、今日の分の記録を書きはじめた。一文字ずつ、丁寧に。誰に褒められなくても、読みやすく綺麗な字で。


(ヴェルナさんみたいに、仕事に生きる女ってのも悪くないかも。でも……)


(玉の輿だって、まだあきらめてないけどねっ!)


「こんにちは、センチュリオの冒険者ギルド、ラグーツ支部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 赤毛の受付嬢は、今日もカウンターに立ち、荒くれ者たちを相手に“営業スマイル”を振りまいている。


「受付嬢ミア」は「記憶喪失勇者」のスピンオフ作品です。


後書きの下にリンクがありますので、興味を持っていただけたら「記憶喪失勇者」も読んでいただけると嬉しいです!


ChatGPTで「ミア」のイメージ画像を作ってみました。


挿絵(By みてみん)




※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。

・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿

・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本編も連載中です! 四百年前――魔王を倒したまま姿を消し、伝説となった勇者がいた。人々は彼を"帰らずの勇者"と呼んだ。
『記憶喪失勇者』はこちら
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。