任命式
説明するより見せるが早い。
私とお兄様も顔を見合せ頷き、誰にするか冊子を巡る。
「お父様、一番幼い子を選んでも宜しいですか?」
「騎士としても育てられますし私が指導しますから」
選んだ人を雇うことになるのでお父様に確認をする。
その表情はまだ引きつった険しいものだが同意を得れたので私達はまだ6歳だというゼロという少年を呼んだ。
「私達は双子だからこっちとこっち、両方のワゴンから選べる?全部飲むのは多いだろうから私達が飲むわ」
「なっ…ディディ!!!」
私の言葉にお父様は怖い顔を見せる。
「大丈夫ですわ、ね?」
笑顔でゼロにこう声をかけたがお父様が怖かったのだろう。
「半分で良いなら自分が飲む」
とゼロは言った。
お兄様の無毒はオレンジジュースだった。
当然それを飲んで終わる。
問題は私だ。無毒のやつ、ワインにしちゃったわ。
ゼロはワインを手に取り少し困った顔をしている。
「ディディ…ワインを無毒にしたのなら子供選ぶとか言うなよ…」
お兄様が呆れた顔をしてゼロの飲もうとしていたワインを一気に飲み干した。
「セルディ!おま…」
躊躇いなく飲み干したのでお父様は止めることも出来ず慌てるが私達は平然としている。
そりゃそうだ。トロル族の能力を知っているのだから。
「ゼロ、これから宜しくな。うちで頑張ってお仕事してくれるか?」
「はい。お酒を飲んでくれてありがとうございます!」
ニコッと笑うゼロ…キュウゥ…可愛…痩せてるし太らせたい…子供らしいふくふくほっぺにしてムニムニしたい…!
冊子を見るとゼロはある商家で下働きとして奴隷同然の扱いを受けていたらしい。
母親は既に亡くなっていて、父親は不明だが恐らく商家の先代主人だと書いてある。
よし、甘やかそう。でろっでろに甘やかそう。
息子のケロッとした様子にホッと息をつくお父様。
「ゼロ…どうして毒のないやつが分かったんだ?」
なんて聞いている。
「え?どんなのか見たら分かるからだよ?」
どうやらゼロはトロル族だけが特別なのを分かっていないらしい。
そんな私達のやり取りを見てか一人、また一人と選ばれていった。
残った二人はしばらく城勤めとなるらしい。
「さて、今試してもらった通りトロル族は植物の毒なら見抜く事が出来る。植物由来なら薬も作れる。もちろんお茶を淹れるのも上手いぞ」
やっとシグルス様がトロル族の特性とその有用性を皆に説明し始めた。
「注意してもらいたいのは動物性や鉱物由来の毒は分からないことだ。しかし手に入りやすくお茶会などで盛られる毒に植物由来の物は多い。亜人だと蔑まず雇って信頼関係を築いていて損のない種族だと思わないか?」
皆が改めて自分の選んだトロル族を見やり、老婆を選んだ者が残っていた青年を追加で雇いたいと申し入れた。
その途端トロルの老婆は泣いて喜び青年は老婆に駆け寄る。
よく冊子を見ると老婆と青年は親子。
ふーん、フェロガス、いいトコあるじゃない。
老婆に見えた女性はまだ50を過ぎたところ。
苦労の多い人だったんだろうな。
そうして最後に残ったのはもう一人の老婆だった。
「シグルス様、うちは双子なのでもう一人雇いましょう。えと…ヤリュリー、ゼロにトロル族の事を教えられるか?」
そう言ったのはお父様だった。
「はい、ありがとうございます。あたしは昔トロル族の里に暮らしておりましたので種族の事はよく存じております」
深々と頭を下げたヤリュリーという老婆は16歳の時に拐われ売られた先の娼館で働かされていたものの病を得て追い出されたと書かれていた。
自身で薬草を煎じ病は治せたがその日暮らしの日々だったところシグルス様に拾われたらしい。
老婆に見えていたがまだ38歳。
こちらも苦労し見た目が年齢以上に老けてしまっていたらしい。大きな目で顔立ちは可愛らしいだけに痛々しかった。
「女性二人の年齢を見て、子供たちの年に合わない大人びた言動を見て、皆驚いただろう?亜人差別がある故に彼らは苦労の多い苦しい日々を送っている。私達の世代はそれを少しでも緩和できる時代にしたい」
皆が手元の冊子を見て頷いた。
私も亜人差別が無くなったほうが世の中もっと発展すると思う。
「そこで、だ。彼を我が国で亜人初の貴族当主にしたい。トロル族の有用性を私に教え、我が愛するリュシルファの毒殺を幾度と救ったジグスに任命する」
シグルス様の声が一際大きく響き渡った。
「これより子爵位に任命する。今後はジグス・リマジと名乗るように。また、我が妃となるリュシルファの側仕え執事として他の使用人を束ねこれからもよく支えよ」
ワァっと拍手が鳴り響いた。
決して多くは無い人数しかいないが次世代を率いる者達にトロル族の有用性が認められたからこその拍手であった。
「ありがとうございます。これからも国に忠誠を誓いリュシルファ様に誠心誠意仕えさせていただきます…!」




