表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/32

10.決裂

 「どうした? 聞こえなかったか? お前が言ったことじゃないか。嫁なら、嫌な頼みごとでも聞くと」


 言葉の主は丁泉(ていせん)楽子山(がくしさん)が仕える、地位高き者。

 黄華(おうか)はもう、呆れていた。


「いやです。お断りします」


 他にどう答えようがあろうか。


『無理難題を聞かせるために、嫁に取る』


 そんな求婚、いくつもの婿候補を袖にした黄華とて、さすがに聞いたことがない。


「てっ、丁泉さま……。さすがにこれは、私からも苦言を呈しますよ」


 ふらふらと桓範(かんはん)が立ち上がった。


「なんでだ? 桓範。まだ嫁の席は空いているだろう。それに、使い物にならないとあれば、離縁するなり、斬り捨てるなりすればいい」


「丁泉様っ! お忘れですか。あなたの祖が、なぜ南陽で亡くなられたのかを!」


 丁泉の言葉に、桓範が丁泉に掴みかかっていく。


(へぇ。ただ従うばかり、という訳でもないのか)


 意外だなあ、と思いつつも部屋の隅に避難する。

 黄華に、この主従のけんかに首を突っ込む理由はない。


(求婚と頼みごとの件がうやむやになれば、それでいい)


 もちろん、店が壊されそうなら止めよう。

 鈴猫(りんまお)が怒るのもまた、怖い。


「わかった! わかったから離せっ!」

「いーや、わかっていません。いらぬ女難を呼び寄せようとしているのに加え、なぜ覆面を外したのですか! あなたは丁夫人の忘れ形見にして、曹家再興を為せる唯一の存在。もし何かの拍子に正体がばれたりしたら……」


 なんだろう。いま、なにか不穏な単語を聞いたような。


「おい、待て」

「あっ……」


 丁泉と桓範からの、じとっとした視線。

 素知らぬ素振りで、黄華は丁寧に頭を下げた。


「それでは、ご縁がなかったということで。失礼します」


 何も聞いていないと言い聞かせて、きっかり三歩。

 しかし、四歩目は地面に着かなかった。


「ちょっ、や、やめてください! 何をするんですか!」


 黄華は襟首を掴まれ、丁泉に担がれていた。


「何もっ! 聞いてません! 誰が元皇帝家の生き残りとか、知りませんっ!」


 北陽(ほくよう)の始祖は曹家だ。

 だが、直系の一族はとっくに絶えたと伝わっている。


「……しっかり聞かれてしまったようですが」

「とりあえず、黙らせろ」

「御意」


 口に手拭いがぐるぐると巻かれる。


(これだから、跡目争いってやつは……!)


 歴史を紐解けば、後継者をめぐる陰謀や争いなんて枚挙に暇がない。それに、黄華も当事者としてどろどろを味わってきた。


(それが嫌で逃げてきたのに)


 もごもごと手拭いの下で黄華はうめく。

 一体、私が何をしたと言うのか。どう考えても、いまのは桓範が悪いし、巻き込まれた災害にも程がある。


 とはいえ、けっこう危ない話を聞いてしまった気もしてくる。この後待ち受けるのは、口封じじゃなかろうか。


「んー! んー!」

「あぁ、うるさいうるさい。静かにしてろ!」


 丁泉に担ぎ上げられたまま、馬に乗せられる。

 お次は、桓範が目隠しをしてくる。


「すいませんねえ。とりあえず、お付き合いください」


 目隠しまでされ、この先どうなるのか、さっぱりわからない。唯一の明るい材料は、丁泉と桓範の声色が殺気立ってないことくらいだろうか。


(猫姐さん気づいて! ていうか、鈴明(りんめい)は? こういう時のための、護衛術じゃないの!?)


 けれど、誰にも止められず、ただただ馬は走る。


「……芸は身を助ける、らしいぞ」


 そんな丁泉の言葉だけが、耳に残った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ