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異皇国大戦  作者: 鹿尾菜
9/13

ワシントン軍縮会議2

会議の推移は概ね合衆国、皇国、連合王国の対立で進むこととなり既に四日が経過していた。


皇国側の主張としては海軍戦力比率は対合衆国比で7割を望んでいたが、合衆国が強く反対をしていた。

新堀にとって7割はただのブラフではあるがそれでも保有枠が確保できているということはそれだけでも条約開けの建造の早期化をある程度容認することにつながる。

意外なことに連合王国も対合衆国比7割を否定はしなかった。

連合王国としては合衆国の海軍戦力の分散を強いることにつながるからだろうと新堀は白熱する会議の中で頭を冷やしつつ思考する。

しかし合衆国は連合王国の、そして会議に参加している共和連合、王国の戦時国債を大量に保有している。

そのほとんどが世界大戦の時に発行されたものであるがゆえにそう強く合衆国相手に出られないでいた。


「合衆国側が最初からふっかけてきた比率6割、こちらは7割を提示し譲歩を引き出そうとしていたが頑なに譲らないとは……しかしそれ以下にするつもりもなさそうだ。もしかしたらこちらの譲歩限界が割れていたか?」



「情報漏洩ですか?」

隣に座る成田に小声の皇国語で話しかければ、少しばかり驚いた表情の成田が聞き返した。

「無線傍受は欧州戦線でも頻繁に行われていた。本国との通信では無線を使うのだから珍しくもないだろう」

そうでなければ先程からあまりにも合衆国に有利すぎる。その言葉は出なかったがそれでも合衆国は皇国だけでなくそのほかの国に対しても情報で優位に立っていた。


「なら少しばかり暴れようじゃないか成田君理論武装は任せた」


5分後、皇国と合衆国の会議が平行線を辿る中新たな条件が皇国から突き出された。

比率6割とする代わりに保有量である排水量の基準を皇国側に合わせること。さらにはアリューシャン列島、フィリピン、グアムなどを中心とする太平洋の島や植民地の要塞化、基地強化の今後20年の凍結。見返りとして戦艦比叡、榛名の解体と小笠原諸島、奄美大島、千島列島台湾、沖縄本島以南の基地化中止並びに要塞化禁止を行うとした。



本来であれば排水量の基準は合衆国と連合王国が50万t、その6割であるから30万tが戦艦枠として皇国が保有可能な排水量だった。しかし現在保有する戦艦は比叡、榛名、扶桑、山城、伊勢、日向、長門で合計排水量は通達数値での合計で21万3千t。9万t近く空きが出てしまい新造艦の建造を中止することがほぼ確定となっている現状では戦力比率は見た目以上に悪いのだ。

さらに新造艦の建造は今後10年間建造されない。


最も、会議の一番最初に軍縮の理念を高々に唱えておりそれを各国メディアに乗せてしまっているだけに合衆国は慌てた。これほどの軍縮案を出されてしまうことは合衆国としては想定していなかった。連合王国のはともかくとして皇国が軍縮に乗ったとしてもあまり大きくは出ないと考えていた。現在の軍事力比率を見れば一目瞭然だった。新造艦の建造を停止するのは保有戦力を上げないため、そのため拡張はあれど縮小には向かわないと考えていた。しかし相手は半分ほど独断で合衆国の軍事力を大きく削減させる戦法をとった。


戦艦榛名と比叡を廃艦にする場合排水量は15万5千t。

これを基準に6割となれば合衆国の保有比率は25万tと当初の半分に落ちてしまう。

流石にこれには各国も反対するだろうと考え共同で皇国を抑えようとするも各国の反応は鈍くそれどころか皇国側に優位な姿勢だった。

これは世界大戦での疲弊が存外に大きかったことが挙げられる。特に連合王国では大規模な軍縮すら行おうとしていたし今回の軍縮会議にも合衆国の軍備すら制限しつつ自国の軍縮を達成しようとしていた。

それほど財政が逼迫していたのだ。

それも後一年世界大戦が続いていたら連合王国は財政破綻してしまう程度に。


流石に合衆国は反発した。

それに対して第二案を咄嗟に出したのは成田だった。

比率6割として保有数量は合衆国の案を飲み主力戦艦で50万t、航空母艦で13万5千tを基準とする。

比叡、榛名を廃艦とし戦艦陸奥の建造、航空母艦保有枠遠比率7割とし、さらにそこに戦艦の保有枠で大きく余ってしまう分を空母の建造で使用可能とする。千島、小笠原諸島、奄美大島、アリューシャン列島、フィリピン、サモア、グアム、そして連合王国には香港、東経110度以東に存在する、あるいは新たに取得する島嶼に対しての要塞化禁止を求めた乙案を出した。


この二つの案を新堀はあえて条約の理念を最大限尊重したものであるとして一般公開とした。

各国で議論が巻き起こり皇国では新堀の独断に議会と海軍は大きく荒れた。しかし皇国海海戦の立役者であり海軍どころか政界にも強いパイプを持つ元海軍大将東郷が新堀側に回ったことと大蔵省が予算振り分けで国内投資に充てる予算案を持ち上げた事で議論は軍縮賛成へ傾くこととなった。

特に海軍の予算を回す事で勃発した大陸需要の拡大を見込んだ国家規模の大工業化政策が組まれた事で予算確保のためにも軍縮を受け入れるべしの風潮が一気に強まった。


問題があったとすれば合衆国であった。

海軍としては通商破壊にうってつけな上高速で動かれて対処が非常に難しい金剛型を廃棄できるのは賛成できる点であったが甲案を取れば戦艦の廃棄数が多くなってしまい乙案を選べば陸奥の保有によって質の面でバランスが悪くなってしまうのだった。

現在合衆国が保有する16インチ砲戦艦はメリーランドのみであった。連合王国はG3計画艦をちらつかせていたが実際には建造予定はなかった。


世論としては軍縮の理念を掲げ合衆国側に正義があるという煽りを皇国が行いそこに連合王国も乗っかり合衆国民衆を煽っていたため甲案に賛成する人間が多かった。しかし現状での民意は甲案、乙案、そして中間妥協点を探るべしと三つに分かれていた。

それは議会にも波及し一向に決まることなく一週間が過ぎてしまう。その上優柔不断な状況に痺れを切らした市民によるデモなども発生しており、保有数量25万tと50万tのどちらが良いかなどと極端な煽りすら出てきた。


25万tでは合衆国が保有可能な戦艦はコロラド級一隻、テネシー級二隻、ニューメキシコ級三隻、ペンシルベニア級二隻これで24万3千tとなってしまう。


しかし50万tで妥協するとなれば16インチ砲戦艦の数で負けることとなる。

結果として合衆国は大きく荒れ、各所で不和が出たものの、10日の合間を開けて調整案を提案した。


戦艦陸奥の保有を認めず排水量を35万t基準とする。そのかわり航空母艦保有枠を7割とし建造中の艦艇の改造を認めることで妥協された。また諸島の要塞化禁止はそのまま皇国乙案の内容を引き継ぐものだった。

35万tであればネバダ級とニューヨーク級が組み込めた。


当然排水量枠で新堀は反発する。枠が埋まらないのに保有枠を持っていても意味がない。比叡と榛名は予定通り廃艦とするから空いてしまう6万tの枠をほかの枠に組み込むか、排水量を認める代わりに要塞化禁止諸島から沖縄以南の島と奄美大島、小笠原諸島を撤廃することを条件とした。

合衆国はこの条件に対して後者を選び二国間での争いは一通り終結することとなった。


こうして最後に残った連合王国だったが海軍側が保有排水量で揉めることとなった。

排水量35万tに収めるには新鋭のリヴェンジ級戦艦「リヴェンジ」「レゾリューション」「ラミリーズ」「ロイヤル・サブリン」「ロイヤル・オーク」レウナン級巡洋戦艦「レウナン」「レパルス」クイーン・エリザベス級戦艦の「クイーン・エリザベス 」「ウォースパイト 」「バーラム」「ヴァリアント」「マレーヤ」アドミラル級巡洋戦艦「フッド」では37万tと排水量を超えてしまう。

アイアンデューク級やタイガー級を全艦退役させるだけでは収まらないのだ。

そこで連合王国は植民地に自国の沿岸防衛を行わせる治安維持組織として植民地警備隊を亜大陸、マレー領に新たに新設し海上護衛部隊を編成。そこに戦艦「クイーン・エリザベス」を譲渡、弩級に分類される旧式戦艦を南新大陸やアフリカに一斉に売却し外貨を稼ぐことにした。

戦時にはこれらのうち植民地警備隊は義勇兵扱いで連合王国海軍直下に入ることにより戦力を維持する方式をとっていた。

これはクイーン・エリザベス問題として合衆国は大きく抗議したが守備海域が広いにも関わらず合衆国と同じ排水量であるためにはこうするしかないと真っ向から意見がぶつかり、皇国は半分蚊帳の外に置かれることとなった。

この問題は連合王国が南新大陸の国に中古とはいえ弩級戦艦を売りつけたことも問題を大きくした。

自分達の庭に余計な火種を持ち込む連合王国を快く思わなかったのだ。連合王国としても大西洋の圧力を南新大陸方面に向けて分散させる狙いがあり一歩も引かない状態だった。


皇国本国からもマレーにクイーン・エリザベスが常駐するのは見過ごせないと連絡があったが、新堀は連合王国に全く引く様子がないため、マレー周辺の港湾などの開発抑止と要塞化禁止で活動エリアを閉じる方法を提案した。

クイーン・エリザベスのような大型戦艦が入渠可能なドッグを作らせない事で活動を制限するのだ。

「皇国の見解としていらぬ火種を撒くことになる行為であり誠に遺憾である」


元よりそのための東経110度以東の基地建設禁止だ。




結局その問題が拗れ一ヶ月ほどの議論の末に南新大陸への戦艦売却数の削減と売却先の変更、戦艦リヴェンジの練習艦格下げで落ち着くこととなった。

こうしてワシントン軍縮会議は締結することとなった。

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