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異皇国大戦  作者: 鹿尾菜
10/13

1922年皇国の航空機事情

「新型機の開発と言われてもな……」



1921年新たな航空機の開発が航空機設計局戦闘機部門宛に届けられた。


皇国における航空機開発は、防衛省直轄の航空機開発局にて研究開発が行われ、量産を各メーカーに依頼する方法をとっていた。

航空機業界勃発直後こそ三菱と中島が航空機製造のために設計所まで自前で揃えようとしていたが、軍で運用する機体は軍で設計開発し陸海軍で効率的な開発が出来るようにという方針になってからは二社の設計所規模は縮小されていった。それでも航空機の製造はメーカーで行うのだからむしろ需要や経営の観点から言えば収支は上がっていた。

例外的に民間開発の機体を導入することもあるがそのほとんどは水上機と民間機を利用した一部の用途に使う機体、そして輸送機くらいだった。


そのため軍で必要となる航空機の開発要請の大半をこの局で処理しなければならなかった。


「艦上戦闘機、空母で運用するための機体ならこの前10式が正式開発されたばかりではないか」

机の前で海軍から送られてきた要求書を元に具体的にどのような機体がふさわしいのか、そしてそこまで決めてから適任者に割り当てる作業が待っている平賀大佐は頭を抱えた。


「仕方がないだろう攻撃機部門が作ったあの爆撃機が予想以上だったんだ」

それに答えたのは机のそばでお茶を啜りながら休憩をしていた鏡崎大佐だ。



その突然の要求書を遡ればそれはワシントン軍縮会議によって廃棄が確定した戦艦陸奥まで遡ることになる。

ワシントン軍縮会議が締結した段階で戦艦陸奥は船体の工事がまだ行われていた。しかしその段階での建造中止は予算的にもあまり削減にならずむしろ解体を考慮すると一隻建造させるのと大差ない予算がかかってしまうのだった。


しかし船台を空けなければならないことからどうにかしなければならなかったが、軍部での会議である人物が実際の戦艦と同じ防御力を持つ標的艦にするのはどうだと言うことを提案した。

問題だったのはそのその案に乗るようにしてある人物が航空機による戦艦撃沈が可能かどうかを確かめる試験を行いたいと言い出した事だった。


海軍でも変わり者と称される航空主兵論をよく展開する若い参謀長だった。彼の意見は『大砲も必要だが、航空機の汎用性には現在の運用方法ではいずれ勝てなくなる。その前に新たな道を探るべき』というものであり厳密に言えば航空主兵論とはやや違うものだった。

しかし平賀にとってはそんな事どうでも良い事だった。

その後船体を完成させた標的艦陸奥は皇国海で最新鋭の陸軍爆撃機による魚雷攻撃と水平爆撃を受け短時間のうちに沈没することとなった。

この試験結果を受け海軍は大きく荒れた。曲がりなりにも最新鋭戦艦であり、水密区画はそれと同等だったが故に、それでも複数の魚雷を受け、甲板を破壊された陸奥が短時間で沈没するなど考えられなかった。

沈むはずがないという声が多くその後砲弾試験に使おうなどと考えていた将校すらいたのだ。

彼らの戦艦が世界で最も強いという幻想を見事に破壊したのだ。


しかしそこからというもの海軍はすぐにでも強力な攻撃機とそれを迎撃できるだけの戦闘機を求めた。

その代わりっぷりは異様であり、せっかく開発したばかりだった10年式艦上戦闘機すら追加の量産をやめ、新型機の開発を急いだ。

それほどまでに陸軍爆撃機が強力だったのだが困ったことにその爆撃機を設計した技師はしばらく連合王国に技術研修で旅立ってしまっていた。



「爆撃機に関しては元凶の爆撃機を乗せれば済みそうな話だが……」

そう呟いた鏡崎は海軍が送りつけた書類を一緒に見ながらため息をついた。

その爆撃機は名を七九式重爆撃機と言い、その技師が魔法を使って開発したとまで言われた摩訶不思議な機体だった。

エンジンは連合王国のネイピア社で設計されたライオンエンジン。これを2基櫛形と呼ばれる方式でコクピットを挟むように前後に搭載している。

技師曰く運動性能を高めるための措置だという。

たしかにエンジンを翼に置くと重心点がずれてロールが遅くなる。そのため双発と単発では必ず双発の方が小回りが効き戦闘機には単発とまで言われていた。

それでいて大型な2枚の翼は三桁構造を取り軽さと丈夫さを両立した布張り翼であり乾燥重量で3100kgと双発にしては異様に軽かった。その軽さと2基合計で900馬力を叩き出すエンジンのおかげで水平飛行速度も220km/hと高速であった。

その上で800kgの積載重量、航続距離が1500kmと傑作機だった。

しかし重爆撃機としては欠点もあった。前だけでなく後ろにもエンジンとプロペラを搭載しているため二人乗りながら防護機銃が取り付けられておらず防御ができないという問題があった。さらに後側にもエンジンとプロペラがあるため搭乗員の脱出が非常に困難な機体だった。そのため改良で後部プロペラスピナーに小型の爆弾を設置し無線操作でプロペラを吹き飛ばす装置を搭載していた。


陸軍では防護兵装のないこの爆撃機を護衛することが可能な長距離護衛戦闘機を開発していた。それが10年式艦上戦闘機の派生元である八〇式戦闘機だった。

しかし護衛戦闘機であり格闘戦と航続距離を重視した結果非常に撃たれ弱くなってしまっているのが問題であった。


それでいて今回の要求書には格闘戦闘能力か航続距離を10年式艦上戦闘機と同等程度とし火力、速度、加速力を向上させよというものだった。


「戦闘機はともかく流石に空間が限られる空母で七九式を運用するのは無理だ。性能低下を偲んで単発機にするしかないな。それと八〇式は機体の設計に余裕がないし高速化大型化する航空機の発展速度を考えれば今回の艦上戦闘機はそれなりに新設計を取り入れて早くノウハウを持った方が良い」


「具体的にはどのようなものが良いと考える?」


「設計者次第だろう。ただ、エンジンの高出力化は必須だ。確か発動機部門で開発中の星型エンジンがあったな」

設計されていたのは空冷星型エンジンでありコードネームは寿。

元はこれまた連合王国のジュピターエンジンである。元々陸軍が新型戦闘機に搭載する予定だったものだ。

「だがあれの完成は来年だ。750馬力はあるらしいが振動対策が出来ていないらしい」


「550馬力までなら既に安定して出せている。それにボアアップで600馬力までは出せるらしい。この際そのエンジンを繋ぎとして乗せた方が早い」

平賀の言う550馬力星型エンジンは二ヶ月前に試作3号機として設計された、ライセンス生産品を改良したもので現状最も出力が出ているエンジンだった。

八〇式のエンジンが450馬力という事を考えれば100馬力の向上だ。

「後は翼と武装だ。爆撃機などの大型機相手なら機関砲が良いかもしれん。確かライヒ帝国の鹵獲品で13.2mm機関砲があったな」


「製造ラインごと押収したMG18だな。たしかにあったな……しかしそんなでかいの航空機に乗せるのか」

「重爆撃機を迎撃するならそのくらいは必要だろう」

現在皇国で使用している戦闘機は7.76mmか7.9mmの機関銃が主体であった。

しかしMG18機関銃は本体の重量でそれらの2割増し。さらに携帯する銃弾の重量は1発当たり二倍近い重量増加となる。必然的に火器重量は倍以上の重さを持つ事になる。

「なら大体の性能要求は見えてくるな」


「問題は航続距離と格闘性能か……」


「今更だが貴様は陸軍の仕事があるんじゃなかったのか?」


「陸軍はしばらく八〇式のエンジン強化で時間を稼ぐから良いんだ。技術研究は俺の役目じゃないからな。報告書と海外の資料を漁って持ってくるだけならそこまで時間はかからない」


「まあ良いか。海で運用するには航続距離は重要だが、この仕様書ではちと難しいな。こうなったら航続距離は妥協するか」


そう呟きながら紙に大まかな性能見積もりを書き込んでいく。

「航続距離は片道500km、これで15分の空戦時間を確保できるようにするか」

「かなり割り切ったな。俺なら格闘戦を犠牲にするが……」


「格闘戦は重要だ。何せ乗せられる数が限られるから一機で重戦闘機と軽戦闘機の両方をこなせなければならないからな」


そう言いつつも何かに気が付いたかのように顔を上げては、悩む素振りを見せつつ手元の書類をいくつかあさりあるものを見つけた。

「この増槽を使えばもう少し長く飛べるかも知れないな」

それは爆弾のような形状していたが爆弾ではない。増加燃料槽と呼ばれる外付けの燃料タンクだった。堀越という入ったばかりの若い技師が提案していたものだ。

「そいつか。たしかにそれは使えるかもしれんが邪魔にならないか?」

増槽と言えば聞こえは良いが機体の外部に後付けで取り付ける性質ゆえに空気抵抗となりやすくまた重量物であるため飛行性能の悪化が問題だった。

「必要に応じて取り外しが可能な構造とすれば良いのではないか?」


「燃料ポンプを飛行中に切り離して大丈夫か?バルプの閉鎖機構をしっかりさせておかないと燃料漏れに繋がりかねないが……まあ確かに案としては悪くないな」

それでも外部と燃料タンクを繋いでいる部分は剥き出しになってしまう。開閉式のカバーを取り付ければ良いがそれはそれで重量が嵩む。


「案だけだな。いやせっかくだ、その技師に増槽を作らせてみようじゃないか」


「正気か?入ってまだ半年経ってないんだぞ?」


「何事も経験だ。それに失敗したとしても増槽くらいならそこまで影響はないだろう」


「なら補助を1人付けるべきだろうな。それに増槽だけじゃダメだ。機体側もそれに応じて改修しないと……試作機を用意する必要があるな」


「それは君に任せる。こっちは書類を作らなければならないからな」


「もうこの際だから、こういう改良試験とかを行う運用機を元にした試験機みたいなものを作らないか?」


「なるほど良い考えだ。戦闘機か爆撃機ならすぐに結果を反映できる……なら設計局で試験飛行隊も自前で用意した方がもっと効率が良くなるな……後で詳細を詰めよう」


「なら今夜は徹夜だな。まとまり次第上に掛け合ってみる」

「頼んだぞ」


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