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「じゃあもっと近くで顔を見て、僕の事を好きになってくれないかな?」


ゆっくりと近づけられた顔。真っ直ぐ見つめてくるグレーの瞳は身体の力を全て奪いそうなほど圧倒的に綺麗で動けない。


頬に触れている指先がやけに熱くて、心臓がギュッと縛り付けられる。


(好きになってって……どういう事……?)


やけに切ない感情が全身を走る。

縫い付けられたように目を逸らす事が出来なくて、わけもなく目頭が熱くなった。


熱を持ち潤むルーナの瞳。無言で見つめ合っていたが突如頬に添えられたルークの手が少し震えた。


「す、すまない。少し落ち着くから待ってもらえるかな?」


我に返ったような表情を見せたルークは一気に頬を赤く染める。

くるっと背中を向け「僕、落ち着け」と低くスキルを発動する時の声を出した。


連日顔色も変えずに壁ドン無双していたルークは何処へ行ったのかとルーナは目を見開き小首を傾げる。


「ふぅぅ」と大きく息を吐いたルークは申し訳なさそうに振り向いた。


「すまない、今日はスキルを発動して来てなくて……」


(え?まさか連日の壁ドンはわざわざスキルを発動してから来てたの?何の為に?)


更に首を傾げるとルークは突然膝を突きルーナの手を取った。カイがパーティーでルーナにプロポーズをしていると誤解された体勢だ。


(この体勢…………プロポーズ?イヤ、まさか)


そんな事を想いながらもドンドンドンドン暴れる鼓動。


跳ね回る鼓動と戦いつつルークから目が離せないでいるとルークはゆっくりと手の甲にキスを落とした。


ルーナはハッと息を止める。


今にも心臓が身体から飛び出していきそうな程の驚きと緊張感。


触れたところからどうしようもなく甘い感情が広がると唇が手から離れた。


ルーナは息を止めたままルークを見守ると、ルークは俯き自信無さげにいつもより小さい声を出した。


「君は嫌かもしれないけど、僕と結婚してほしいんだ」


(っ……?)


ルーナは今自分が言われた事が信じられなくて言葉も出ない。

ルークに目を向けるがジッと瞳を落としたままで表情が読み取れない。


何も言葉を返せずにいるとただただ沈黙が2人を包む。

と、ルークが沈黙に耐えられなかったのか顔を上げた。

目が合うとまるですがるような瞳で見つめて来る。


初めて見る表情にキュンとしたトキメキを感じると心が言葉を押し出してくる。


「あの……驚き過ぎて理解できなかったのでもう一度言って貰えますか?」


上手く息すら出来ていなかったルーナは今にも途切れそうな声で聞き返した。

ルークはルーナを見上げたまま今度はハッキリと口を開いた。


「君が王都に来る前から、出会う前から君の事が好きでした。僕と結婚して下さい」


(………聞き間違いじゃなかった…………)


胸の中心をルークの言葉に撃ち抜かれたように一気に広がる甘い喜びの感情。

だが疑問が湧き起こりにわかに信じられない。


「出会う前からってどういう事……?それに、カイは?」


「どうして僕がカイの事を好きだと思ったのか不思議でならないよ。僕が好きなのは君だよルーナ。姿絵を見た瞬間から僕の心は君だけだ」


跪いたまま見上げてくるルークの瞳は変わらず真剣で、それでいてすがるように潤ませている。 


表情だけ見たら本気に思えるがカイの事が好きだと思い込んでいたルーナはまだ信じられない。


「嘘でしょ……?」


「本当だよ。こんな事で嘘はつかない。僕は君と結婚したい。君に好きになって欲しい。一生君を愛し続けたい。本当は君が僕の事を好きになってから言いたかったんだけど、イヤイヤ婚約者として結婚されるなら今告白した方がいいと思ったんだ」


「婚約者として結婚させられる……?」


「君の婚約者は僕だ」


ルーナはどっと体の力が抜けその場に座り込んだ。

まだ胸はバクバクしているが安堵感と幸福感から涙腺が緩む。


「ルークだったの?」


「ああ、だから僕の取柄である顔だけでも好きになって貰えたらと思ったんだ」


大真面目な顔で言うルークを見ていたら自然と笑みと涙が込み上げて来る。


「私、顔だけじゃなくてルークが好きよ。可愛い所も不思議な所もツンツンしてる時も男らしいところも……いつの間にか好きになってたの」


口にした瞬間ルークは信じられないとばかりに大きく口を開けルーナの顔をじっと見据えた。


「……本当に?」


「ええ」


返事を返すとルークの瞳がジワリと涙で揺れた。


「今の言葉、取り消しとかさせないけど……いいかな?」


「うん。心からの気持ちだもの。心配なら言葉の色を見て?私は、ルークが好き」


ルークはホロホロと綺麗な涙の粒を零しニッコリと笑う。

腕を引き寄せ顔を近付けるとルーナの頬にルークの唇が触れた。


「本当はずっとこうしたくて……毎日……抑えるのに必死だった」


「私は毎日顔を近付けられる度、もう少し近づきたいと思ってたわ」


見つめ合うと2人揃って涙を零しながら微笑み合う。

お互いの涙を指で撫で合うとルークはルーナを引き寄せそっと軽く口づけをした。


例えようが無いほどの甘い感情に全身を支配されたルーナはルークの事が好きなんだと実感してしまった。


(気付いたばかりの気持ちだけど、私ルークの事凄く、凄く好きだわ)


すぐに唇は離れたが耳まで赤くしたルークにつられルーナも頬を真っ赤に染めた。


恥ずかしすぎて目を合わせる事も出来ずに俯くと、緊張と恥ずかしさを誤魔化すようにルークが声を出す。


「夢みたいだ……全然振り向かせられないと思っていたよ」


「……最近の学園でのベッタリと、壁ドン攻撃で自分の気持ちに気づいたわ……」


「そうか。それはピーターにお礼しないと。彼にアドバイスを貰ったんだ」


言われてみるとルークが急に壁ドンをしに来始めたのはピーターと挨拶した日だ。


ルークは立ち上がり、へたり込んでいるルーナに向かって手を差し出す。


手を取り立ち上がるとルークはルーナの両手をギュッと握った。


「返事を貰えるかな?僕と結婚してほしい」


「はい」


頷くと、ルークは緊張したようにゴクリと喉を鳴らしルーナを抱き寄せ口づけたのだった。



**********




「ほら、ルーナ」


差し出されたスプーンの上でプルプル震えるオレンジゼリー。


同じものを食べているのにどうして食べさせようとするのか分からないがルークがとても幸せそうに差し出してくるので口を付けない訳にはいかなかった。


パクっと食べるとノーラとニーノがボソボソ囁き合う。


「見た?うちの妹、昨日婚約者と結婚したくないって泣いてたのよ」


ノーラがニコルに似てきたとルーナは心配に思ったが幸せなので良しと微笑んで見せる。

ニーノはルーナの笑顔を見ながら微笑む。


「ノーラ姉様、それはお相手が兄上って知らなかったからだよ」


「でも急に熱々過ぎないかしら?」


「だって兄上は相当好きだったもの。僕も本当はルーナ姉様が好きだったんだけどあまりにも兄上が好きだから譲ったんです」


ボソボソ話しているのを幸せいっぱいと微笑んで聞いていたルークは突然反応しニーノを見た。


「彼女は誰にも渡さない。それに彼女も僕の事を本気で想ってくれているからね。僕達は想い合っているんだ」


ニコニコと嬉しそうに言ったルークにニーノは笑いを零す。


「あはは。知ってます。それにしても兄上と姉様が幸せそうで嬉しいです。ピーターも良かったってずっと言ってます!でも、カイ兄様とニコル兄様は泣くかな?」


ルークから途端に笑顔が消え、俯くと重々しく口を開いた。


「……ニコルは泣き言を言うけど、カイはどう出るか分からないな……家を出禁にしてルーナの半径1メートル以内に近づくのをやめて貰うか……」


「何故?そんな事をする必要ないわよ。だってカイよ?」


目を見開き言うとルークは凍えそうなほどの冷たい瞳でルーナの髪の毛を撫でた。


「……そうだね」


目を細め口元を緩めたがその表情は冷たく固い印象だった。


(変なルーク……)


朝食が終わると午前中の領主教育。

ルークも一緒に教育を受ける理由をルーナは今更気付いたのだった。


「領主教育受ける時に婚約の事教えてくれたら良かったのに」


「ん〜?」


ルークはとても大胆で、休憩になり部屋に入った途端後ろからギュッとルーナを抱きしめて髪に顔を埋めた。


「言っただろう?僕の事を好きになってくれてから言おうと思ってたんだ」


「それは解ったけど……あのっ、大胆すぎない?」


今までの微妙な距離感や昨日の真っ赤なルークは何処へやら。

後ろから抱きしめてくるなどかなり積極的過ぎてルーナの心は落ち着かない。


「全然足りないよ。心が通じ合ったと分かったからもっと近づきたい欲が凄いんだ。もちろん結婚まで色々我慢するけどキスはしてもいいかな?その……昨日したし……」


(昨日も緊張してスキルを発動してたのに別人みたい……でも嬉しい)


自分で思うよりもルークが思っているよりもずっと好きだろう。そのくらい心が喜んで好きだと叫んでいるので拒否するわけがない。


ルーナが照れながらコクンと頷くと、ルークは壁際に行きくるっと位置を入れ替わる。

ルーナの背を壁につけ逃げ場を無くす。


(とうとう壁ドンでキスされてしまうのね?)


と思ったらルークはルーナの両手首をしっかり掴んで壁に押し付け顔を近付けてきた。


予想していたより少し強引な仕草に男らしさを感じ、頬を染めたルーナは唇がつく前に照れ隠しで話しかける。


「ねぇ、どうしていつも壁際なの?」


「ん?君が逃げられないから好きなんだ。一生こうやって僕の腕の中に居て欲しくて」


ルークはうっとりとした瞳で笑った。


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