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逃亡令嬢は気付かぬうちに溺愛される   作者: ハラペコWASABI
終章

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ルーナは1人ベッドの上で膝を抱えていた。


あれから3日、学園でのルークの偽装工作は限界を超え高みの境地に達している。


手繋ぎアピール、食堂真横座りは基本。今思うとケーキを食べさせられるなんて可愛いものだった。


ルークは片時もルーナから離れたがらず、カイの事も遠ざけようとシッシッと手で合図。


休憩時間は人目が多いベンチで2人きり。


ルークは男らしい手の綺麗な指先でルーナの髪の毛を梳いて遊ぶ。


そのまま愛おしそうに髪の毛にキスをされた時はルーナだけではなく周りで見ていた過激派も倒れそうになった。


(もうヤバイ。思い出しただけで激しい動機が……)


噂の上書きの為だと分かってはいるが抑えきれない感情が湧き起こってほとほと困り果てている。


(毎日毎日何回キュンキュンしているか……しても無駄だって分かってるのに)


夜は毎日大体同じ時間帯に部屋に来て壁ドン肘ドン両手ドンと続いている。


その度にルーナはルークの顔に見惚れ今日こそキスされてしまうのではと息を飲むが毎日「明日も学園に行こう」と誘って出ていくだけなのだ。


(何か実験しているのかしら?)


そう思いたくなるほど意味が分からない。

学園での噂は全く無くならずむしろ過激派の動きが活発になりカイとルークに関しての怪文書が出回る事態に。


要するに偽装工作が延々と続く事になる。ルークの言うとおり卒業まで。


そこまで深く考えずにルークの為にと頑張っていたがルーナは一つ見落としていたのである。


ルークが魔性と言ってもいいほどのオーラを持っている事を。


(まさかこんなにルークに翻弄されるなんて)


寝ても覚めても気になるのはルークの事。

今もベッドの上で膝を抱えてルークが来るのを待っているのだ。


(いつもならそろそろ来て壁際に追い詰めて来る時間なんだけど。明日は学園が休みだから来ないのかな?) 


じいっとドアを見つめるがルークは姿を現さずルーナは胸の中で暴れる感情を抑える。


いつも来る時間を過ぎてもドアがノックされる事は無く、ルーナはベッドを下りてウロウロ。念のためドアを開け廊下を確認するがルークの姿はない。


再びベッドに戻り膝を抱える。

それでもまだルークが来るんじゃないかと期待していたルーナは全く眠れず明け方になりようやく眠りに就いたのだった。


朝の光が差し込む中コンコンとドアをノックする音が聞こえルーナはパアッと心が晴れ渡る。


(きっとルークだわ!)


急いでドアを開けるとルークではなくノーラだった。

何故か、もやっと雲がかかり落ち込んでしまう心。


(ダメよ、お姉ちゃんを見てガッカリするなんて……私ってば……)


「今日お父様がいらっしゃるみたいよ」


「え~」


ルーナは思い切り鼻に皺を寄せ嫌な顔をして見せる。

ただでさえ心が晴れないのに父の顔を見ないといけないと考えると頭が痛くなってくる。


「もう、ルーナ。お父様はルーナに爵位を譲るくらい想ってくれてるのだから少し大人になった方が良いわ」


(お父様は宰相様に言われたから私に譲る事にした気がするんだけど……)


ルーナはもう返事をする気力も無くガクッと項垂れた。

そのままノーラと共に朝食を摂りに行くとルークはまだ来ていないらしく姿が見えない。


ノーラと隣同士に座り目の前でジャムをたっぷりパンに塗りもぐもぐ食べているニーノに声を掛ける。


「ニーノおはよう……ルークは?」


「姉様おはようございます。兄上は……今日はご用事があるみたい。って……」


「用事があるみたい?」


「あっ、用事があるんです、誰にも言えないけどとても大事な用事!って」


「そう」と答えたものの気になって仕方がない。

一体何の用事だろうか?昨晩部屋に来なかったのは今日の用事のせいだろうか。

この1週間ずっと一緒にいたのに何の用事か教えても貰えないのかと更にルーナの心はどんよりと落ちていく。


(もしかしてデート?でもそしたら相手はカイのはずよ。内緒にする必要ないだろうし。もしかしたら誰か女子と……)


想像したら胸がキリキリと痛む。


(過激派の人の気持ちが分かるわ……)


カイならいいけどもし知らない女子と一緒だと思うと胸が絞るだけ絞られてカスすら残りそうにないほど痛い。


食も進まずニーノに心配されたが「父に会いたくないからよ」と言い訳した。


ルークは本当に出かけているらしく午前中の領主教育に姿を現さなかった。

おかげで気分は最悪。心の中はドロッドロ。


午後になり応接室に行くと父であるサバルトーネ伯爵が待っていた。

先にジェロルドと話したらしい。内容は主にジェシーの事。ルーナとノーラにも説明をしてくれる。


「王都にある家にジェシーが潜伏してないか調べたんだけど形跡はなかった。地方にある家や別荘も見て回ってたんだよ。でも何処にもいなかった」


「国外に出たのかしら?」


「その可能性はあるかもしれないが……」


サバルトーネ伯爵とノーラの話をぼーっと聞くだけのルーナ。

ジェシーの事が気にはなるがそれどころじゃないのだ。


「ルーナ聞いてる?」


ふいにノーラに声を掛けられ頷く。


(ジェシーの事よね?ジェシーが捕まればここから出られる。でも見つかって欲しいような欲しくないような……)


「ルーナ勉強しすぎか?学園を卒業したらサバルトーネ領に戻って婚約者と一緒にのんびりと教育を受けるといい」


「うん……」


ルーナはボーっと返事を返し、そして違和感に気付いた。


「お父様今なんと?」


「学園を卒業したらここを出てサバルトーネの家で婚約者と一緒に教育を受けるといいと言ったんだ。宰相様にももう話が付いている」


ルーナは全ての時間が止まったかと思った。

サアッと体中の血の気が引いていく。


(まちがいない。婚約者って言った……)


「メイドも警備も総入れ替えしてあるから安心するといい。ジェシーの事もあるから警備は公爵邸と同じ位厳重にしてある」


震える手。逃げだす前ならば喜んでいただろう婚約話。

でも今は脳裏に浮かぶルークの顔。


(いやだ……)


後からニコルとカイとニーノの顔も浮かんで来る。かけがえのない弟分と友人達。

決められた婚約者が男性の友人を良しとする訳が無い。


「嫌です。お父様の決めた人と結婚しないといけないなら爵位は継ぎません!」


勢いよく立ち上がりサバルトーネ伯爵に向かって言い放つ。


「婚約破棄して来て下さい。じゃないと家だって継がないしもう2度とお父様に会うつもりはありませんから」


応接室を後にし客間に戻ると情けない事に嗚咽を上げ泣いた。


心配したノーラが来たが会う気になれず謝った。

いつの間にか帰って来ていたルークが夕飯を知らせに来たがドアを開けず断りを入れた。


貴族の義務として親が決めた相手と結婚しないといけないのは良く分かっている。

しかも爵位を継ぐ立場になったのだから婚約者を決められて当然だ。


なのに心からいなくならないルークの存在。


ルークのカイに対する切ない気持ちを聞いているにも関わらずいつの間にか占領されている胸の中。


叶うはずもないのに好きになっていた事に気付き泣いたのだ。


(我儘言っちゃったけど、たとえ婚約破棄できても私の気持ちが叶うわけないのに……)


涙が落ち着き顔を拭いた頃再びドアがノックされた。


「僕だけど……」


ルークの心配そうな声に胸が締め付けられる。

学園を卒業したらここから出て行き、ルークの謎行動に心乱されたり不思議に思ったりする事も無くなる。


綺麗な瞳で見つめられてドキドキする事も壁際に追い詰められて馬鹿みたいに胸が高鳴る事も男らしい手の平でギュッと手を包まれてときめく事も無くなってしまう。


(ここにいる間だけ……)


ゆっくりドアを開けるとルークがこれ以上ないという程心配そうな眼差しでルーナを覗き込む。


「……婚約破棄して欲しいって言ったらしいね」


「ええ、我儘言いたくなっちゃっただけ。私が家を継ぐのだから婚約者を決められるのは当然の事なのに。明日、お父様に謝るわ」


ルーナはどうせ叶わぬ恋なのだと強がり笑顔を作って見せた。


「想い合える人と結婚したいんだったね。その……君が想いを寄せる人はできたのかい?気になる人とか……」


(まさかあなたです。なんて言える訳がない)


「いないわ。いないけど、そういうのを夢見てたから断りたくなっただけ……」


ルーナが力なく呟くと何故か虚ろげに目を伏せたルーク。

この虚ろ気な表情すらルーナの心を揺さぶり心に痛みをもたらす。


(その伏せたまつ毛を指でなぞりたいわ。はぁ。重症だ……)


「……君は……僕の顔は嫌いかな?僕は何故か顔だけは皆から褒められるんだ」


切なさの湖に溺れていたルーナだったが突然の意味不明な問いかけに小首を傾げた。


ルークの顔は真剣そのものなのでいつもの不思議ルークが始まったんだとニコリと笑う。この不思議に思う瞬間も大切にしたい。


「嫌いじゃないわ。近くで見るととっても綺麗だと思うもの」


答えるとルークは開いていたドアを閉め中に入り、ルーナの頬にそっと手を添えた。





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