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爽やかな朝だと言うのにルーナの顔は大嫌いな激レアモンスター、悪魔のクモが出た時のように険しかった。悪魔のクモは足が普通のクモと違いウジャウジャあり、身体が熊より何倍も大きく一言で言うとグロなのだ。


そのグロと対峙している時と張るほどイヤな顔をしている理由は目の前のソファに座りルーナとノーラに向かって頭を下げている父、ルクレツィオ・サバルトーネ伯爵がいるからだ。


ルーナと打って変わってノーラは『頭を上げてくださいお父様』と慌てて声を掛けている。だがルーナは真逆の事を思っていた。『もっと謝れ!』


(お姉ちゃんはお人好し過ぎる)


「私は、お姉ちゃ……お姉様を使用人にしたお父様が理解出来ません。ローシェがあんな性格だと分かっているのにお母様とお姉様と私を敷地内の屋敷に住ませたのも理解出来ません。お母様が殺されると想像できませんでしたか?」


「ルーナ!」


思っている事を口にするとノーラが声を荒げた。だがルーナも負けてはいない。


「ごめん、私はどうしても納得できない。私達が毎日どんな目に遭っていたかお父様はご存知?毎日殺されるとビクビクしてた!お父様が帰って来ないからローシェが好き放題にして、お母様だって森に捨てられてしまったし、ニーノだって自分の成長を止めてしまう程心に深い傷を負ったのよ」


ルーナがどうしても言いたかった事を言い終えると涙が溢れた。悔しくて悔しくて仕方なかった。


サバルトーネ伯爵はテーブルに手を突き顔を伏せ肩を震わせ何度も『すまない』と呟いた。


「すまない、本当に悪かった……お前達2人には本当に辛い思いをさせてしまった。先に宰相様の所にお邪魔してニーノ君にも謝ってきたよ」


「お父様、私を使用人にしたのはあの人達にこれ以上私を傷つけさせない為でしょう?」


「そうだ。あの傷を見ていつか殺されるんじゃないかと怖かった。生きていてくれたらいいと安易に考え……本当にすまない」


「ほら、お父様は良い人でしょう?ルーナもいつか分かるわ」


ノーラは先程のように声は荒げずゆっくりとルーナを諭すように声を出した。


(言いたい事は分かるけど結局後はお姉ちゃん本人に身を守らせたんじゃない)


口をとがらせるとサバルトーネ伯爵が顔を上げた。


「ローシェの件は他にも証拠がないか調査する事になった。逃げられても困るから今のところ今まで通り過ごさせているが必ず裁くから暫く待っていてくれ。子供達の事は考えているところだ……一つだけ決定しているのはシャークに爵位を継がせる事はないと言う事だ」


「何故シャークだけ決定してるの?」


「酒を飲み暴れる人間は貴族の品格を落とすと宰相様に手酷く怒られてね。情けない事に私もシャークがそんなに癖が悪いとは知らなかった。マリーの言うとおり、家に居なかった私に責任がある」


(宰相様……きっとルーク様から聞いたのね。この前はニーノとお姉ちゃんの事しか話してないから)


「とても良い判断だと思いますわ。あの人が継いだらきっと領民は苦労する事になるでしょう」


ルーナが考えているとノーラが返事を返した。


(その通りなんだけど、かと言ってシャイルも立派な領主になれるのかは疑問ね)


「それと、マイラ……ではなく今はノーラとルーナだったな。昔見てもらったよりも魔力の強い治癒魔法の使い手にその頬を見てもらえる事になったぞ。治るかはわからんが……」


伯爵が複雑そうな表情で語尾を濁らせるとノーラは口に手を当て涙を潤ませた。


「ありがとうございますお父様。少しでも可能性があるなら見て頂きたいわ」


(あれから何度かやってみたけどやはり傷は消えなかったからその人に託すしかないわ……消えると良いのだけど)


「あと、ルーナは来週から王都の学園に通うように」


「はぁ?!」


思わず立ち上がり何処から声が出たのか分からない声を上げた。


驚き過ぎてバクバクする心臓。


(意味が分からない)


「どういう事ですか?」


「学園に行きながらギルドで働けば良い。もう王都学園に手続きはしてあるから。勿論名前はルーナとしてな」


「はああああ?何故勝手に決めてるの?私はあなたの家から逃げたのよ。もう自由なの!学園に行くとか意味が分からないわ」


「名前を変えようが2人共私の娘に変わりはない。それにルーナはまだ18歳未満だからね。私がこのまま屋敷に連れ帰っても文句は言えない立場なんだよ。だが、学園に通ってしっかり卒業してくれるならそんな事はしない」


ルーナは頭を抱えた。

そして思い切り唸った。


「ヴヴヴヴヴ……」


肩を震わせ謝っていた伯爵は何処へやら。腕を組み強気な顔でルーナを見ている。


「あと半年だけ学園に通えば晴れて自由の身になる。それすら我慢出来ないと言うのなら連れて帰るまでだ」


(まさか本気?連れ戻されるなんて冗談じゃない)


「分かったわよ」


(逃げたはずなのに、何がどうしてこうなったの……)


『父と会う』という予定外の行動で学園に行く事が決定してしまったルーナはガックリと肩を落とし、また来ると去っていく父にもう会いたくないと心から思った。

ノーラが悲しむので口には出さなかったが。


そして夕方より前、いつもより早い時間に鐘の音が聞こえ出ると学園帰りなのか制服姿のルークが立っていた。


「やぁ、学園に通う事になったと聞いたよ。僕はギルドと学園の制服を作る店に案内するように言われて来たんだ。一緒に行こう」


今まで見た中で1番爽やかな笑顔である。

そんな爽やかな笑顔のルークにルーナは口をへの字にし愚痴をこぼした。


「わざわざありがとう。でも私家から逃げて独立したつもりだったの。自分達で生きていくって思ってたのに予想外の事ばかりだわ。また学園に行く事になるなんて思ってもみなかった」


外出用の靴に履き替え外に出ると、ルークは眉を下げ心配そうにルーナの顔を覗き込んだ。


「大変だったね……」


覗き込まれているせいでいつもより少し顔が近いせいだろうか、まるで自分の事のように物憂げだからだろうか?ルークはとても心配していると感じた。


「ルーク様が悲しそうな顔をする事ではないですわ。心配してくれてありがとうございます」


「……行こうか」


ルークは唇だけで微笑んだ。

案内された店に入り、個室に案内され採寸を済ませると学園の制服は来週迄に必ず間に合うように家に届けてくれると約束された。頭を下げ店を出たものの、ルーナはまだ乗り気ではなかった。


「そんなに急がなくて良いのに。私この世界の学園はあまり良い思い出がなくて」


「そうだったね。でも大丈夫、王都の学園生活は以前と比べ物にならないほど楽しい毎日になるよ。一緒に良い思い出を作ろう」


「何故そう言い切れるの?」


「僕もカイもいるし、王都の生徒達には余裕がある。なにより義理の姉妹は王都学園にいないだろう?大丈夫、保証する。何か困った事があったらすぐに僕に言ってくれ」


(確かにジェシーもシャリーもいないけど)


ルーナは足を止め、うかがうように少し背の高いルークの顔を見上げると優しい瞳で微笑んでくれたので、ルーナもホッとして微笑み返した。


(思ってたより頼もしいのね。私もこうなったらグチグチ言ってないで頑張って卒業するしかない)


そう思ったのもつかの間、ルークは突然ルーナに背を向けて近くの出店にあった柱を凝視した。


「すまない、この柱の削り方に感動してしまってね。落ち着くまで1分、いや、2分待ってくれ」


そう言うとルーナに背を向けたままルークは柱に触れた。


「ああ……女神だ。落ち着け、落ち着くんだ」


そう呟いたルークの触れている柱をルーナも後ろから見てみたが至って普通の柱にしか見えなかった。


(女神って言うから柱に彫ってあるかと思ったわ……木目といい、木材萌えってジャンルあるのかしら?)


家に真っ直ぐ帰らず公爵家にニーノを迎えに行くと、喜んだニーノがルーナとルークの真ん中に立ち3人で手を繋いだ。


ニーノとルーナは笑顔で喋りながら歩いていたが、ルークはとたんに無口になり、家に着くと庭を見て来るとすぐには入らず、何故か庭にうつ伏せに寝転がっている所を後から来たニコルに発見されたのだった。


「いやぁ~、ルークストレス溜まってるんじゃない?顔は横向いてたから見えたけどニヤニヤしてただろ?俺見てはいけないものを見てしまった気がするんだよねぇ」


「クッ……勝手に見るな。それは良い芝生と目が合ったから…………」


ニコルとルークの会話を聞きながら木材だけではなく自然全般いけるのだとルーナは解釈した。


(色んな萌えがあるのね。世界は広いわ)




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