第8話 はじめての温泉
村の裏にある高台に登ると、岩を置いて作られた温泉があった。
お湯はたくさん湧き出ている。
透明な緑色の綺麗な温泉だ。
かなりの広さで、湯煙のせいで向こう岸が見えないくらいだ。
グラインダーは湯浴み服を着たラチェットをそっと、岩風呂の中に座らせた。
ラチェット
「ふわああああああー
気持ちいいです。
「おおーー本当だ!
4人の王子達も湯浴み服でバシャバシャと入ってきた。
二ブラとグラインダーは温泉の周りで見張りをしている。
フレア王子
「ラチェット、足の調子はどうだ?
ラチェット
「ダニエル先生のお薬とこの温泉のおかげで痛くありません。
ラチェットは嬉しそうに微笑んでいる。
太陽の光でキラキラ輝くお湯を小さな手にすくっては落とす。
美しいプラチナブロンドの髪はダニエルがくるくる巻いて赤いリボンで高く結い上げてくれている。
頰は上気し桃色の花が咲いたよう、白い大理石のような肌には温泉の水玉がきらめき、なまめかしい。
レシプロスは自分の手のひらを上に向けて何やら呪文を唱える。
すると彼の手のひらに水が溜まった。
レシプロス
「ラチェたん、蒸気を冷やした冷たい水だよ。お飲み。
ラチェットはレシプロスの手のひらに口をつけて飲んだ。
レシプロスは恍惚の表情をしている。
ラチェット
「冷たくっておいしいです。レシプロス様
ブロワー王子
「そんなことなら俺にもできるのに。
さあ、ラチェット、お飲みよ。
ドロリとした液体が入った小瓶を差し出した。
そのとたん、トルクが瓶をはたき落した。
トルク
「悪い、手が滑った。
ブロワー王子
「おまええ!せっかくのびや-----
フレア王子
「ん、何を飲ませようとしたって?
ブロワー王子
「いやあ、なんでもない。はは。
その慌てぶりを見て、王子達が笑った。
ラチェットもあははと笑った。
その笑い方があまりにも可愛かったので王子達はキュン死にしそうに心臓が跳ねた。
その時強い風が吹き、湯煙であたりが真っ白になった。
騒がしかった王子達の声が消えた。
ラチェットはふと横を見ると、
仮面を被った金髪の男が湯に浸かっている。
ラチェット
「あ、あなた様は!
仮面の男
「やあ、ラチェット。
足を怪我したんだね。
仮面の男の髪がお湯の中で揺らいでいる。
ラチェットと同じ色の髪だ。
仮面の男
「無理をしたろう。
立派な王になろうとしなくていいんだよ。
ラチェットはそのままでいいんだよ。
私が助けるからね。
仮面の男は手で湯をすくって、ラチェットの肩にかけた。
ラチェットは温かいと言って 目を閉じた。
仮面の男
「ではまた会おう。
仮面の男は湯から上がった。
ラチェット
「あの!また会えますか?
仮面の男
「私はいつでも、お前のそばにいるよ。
湯煙が仮面の男の姿を包むと魔法のように消え去った。
ウェルズ
「ラチェットや、大丈夫かえ?
ウェルズがラチェットの側で座り込んでいる。
ラチェット
「大丈夫ですよ。
ウェルズ
「何か魔力が渦巻いておったぞ。
二ブラ
「どうかしましたか?
グラインダー
「何かあったのか?
王子達も不思議そうにしながら集まった。
ラチェット
「仮面を被ったお方が今ここにいらっしゃったのです。
二ブラ
「仮面ですか?
ラチェット
「はい、トルク様に捕まった時に助けにいらしたあの仮面を被った金色の髪のお方です。
トルク
「そんなやつ見てないぞ。
ラチェット
「二ブラ様はご覧になったでしょう?
あのお花がたくさん咲いている丘に迎えに来てくださった時、
すれ違いませんでしたか?
二ブラ
「ああ、あの時。
いいえ。誰とも
ラチェット
「そんな-------。
二ブラ
「仮面の---金色の髪か、まさか。
私たちが仕えていたエルヴィア王の最後のお姿に似ている。
病でただれたお顔を仮面で隠されていた。
二ブラ
「ラチェット様のお兄様に当たるお方ですよ。
ラチェット
「お兄様!私の----
ラチェットの瞳から涙がこぼれた。
ラチェット
「お兄様---今一度お会いしたい。
私のお兄様---。
ふうっ--------
ラチェットがぶくぶくとお湯の中に沈み始めた。
完全に湯あたりだ。
レシプロスがさっとお湯の中から抱き上げた。
レシプロス王子
「私に任せろ---先に帰っている。
というとラチェットを抱いたまま魔道士の道を開き、入って行った。
グラインダー
「ああ、コラ!勝手に!
そっちの方が心配なんだよ!
二ブラ、戻るぞ。
二ブラ
「うむ------
二ブラはじっと何か考えているようだった。
レシプロスはダニエルの家ではなく、
温度がかなり低い鍾乳洞に転移した。
鍾乳洞に流れる冷たい小川にラチェットの足を浸してやる。
レシプロスはさらに呪文を唱え、
手のひらから冷気を出してラチェットの首筋を冷やした。
ラチェットのうなじが色っぽいとレシプロスは思った。
かなり好みの髪型だ。
ラチェットがうっすら目を開けた。
まだ顔は火照っている。
ラチェット
「レシプロス様------
レシプロス王子
「しっ----
まだめまいがするだろう?
無理に体を起こすな。
ラチェット
「はあ------またもや、皆様にご迷惑をおかけして----。
私はもう情けなさで心が折れてしまいそうです。
ラチェットはレシプロスの胸にもたれてぐったりしている。
レシプロス王子
「ラチェたんが得意なことはないの?
ラチェット
「私の-----。
ラチェットはちょっと考えたあと、恥ずかしくなってレシプロスの胸に顔をくっつけて隠した。
レシプロス王子
「ははは、ラチェたん、夜以外で。
ラチェット
「あ、はい、えっと----
そうだ、お掃除なら毎日やっていましたし、得意です。
レシプロス王子
「ラチェたんすごいね!掃除ができるなんて
ラチェット
「足が治ったら、きっとお城中を綺麗にしてみせます。
レシプロス王子
「そのいきだよ。ラチェたん
レシプロスはラチェットのおでこにキスをした。
レシプロス王子
「私はいつも暗闇と向き合っていなければならないけど、
ラチェたんがそばにいるとまるで陽だまりにいるみたいに温かい。
そう言ってラチェットの髪に顔を埋めた。
レシプロス王子
「それにね、ラチェたんが魅了の魔力を出してるのは知ってる。
その魔力を私はシャットアウトしててもね、
君に夢中なんだ。
どうしようないくらい可愛い。
レシプロスはラチェットの耳たぶを触り始めた。
ラチェットは身体をビクッと震えさせた。
ラチェット
「あ-------
レシプロス王子
「ラチェたんの好きなところもわかる。
ラチェットの顔がさらに火照った。
レシプロス王子
「もう、ラチェたんを抱きはしない。
何があっても私が守る。
私自身からもね。
ラチェたんは僕の天使だ。
ラチェット
「レシプロス様-------
レシプロス王子
「さあ、もう帰ろうね。
レシプロスは自分のローブでラチェットを包んだ。
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フレア王子
「レシプロスやけに遅かったじゃないか!
トルク王子
「ラチェット何かされたか?このむっつり王子に
レシプロス王子
「鍾乳洞で身体を冷やして、耳たぶをマッサージしてやった。
しってるか?
ラチェたんは耳たぶが敏感だってこと。くくく----
フレア王子トルク王子
「きさま!
ブロワー王子
「どれどれ---
ブロワーがラチェットの耳たぶを指でプニプニした。
ラチェット
「やっあ--------
フレア王子
「ラチェットー公衆の面前でそんな声だすんじゃない!
ラチェット
「す、すみません---
トルクも反対の耳たぶをスリスリした。
ラチェット
「うう----う---ひあ!
フレア王子
「遊ぶんじゃない!
おかしな王子たちだと、
グラインダーと二ブラは顔を見合わせて笑った。
つづく