第9話 はじめてのお城
ラチェット
「すごいです!ああ、なんて美しい街でしょう!
あ、あの青い建物はなんですか?
7日ほどダニエルの家ですごした後、
一行はついに王都に入った。ラチェットは大はしゃぎだ。
城に近づくにつれ、活気にあふれ、街並みも豪華になってくる。
城の大きな門をくぐってからはラチェットは口を開けっぱなしだ。
ラチェット
「ああ-----お城が-----あわわ-----ああ-----あ---
その様子を見てグラインダーも二ブラも笑った。
王宮の入り口に馬車をつけると、すでに年配の大臣他執事メイド、
多くの使用人がズラリと並んでいた。
二ブラ
「ポリッシャー伯爵、王位継承者のラチェット様をお連れしました。
ポリッシャー
「ご苦労だったな、二ブラ。
こちらの方は問題ないぞ。
して、ラチェット様は?
二ブラ
「実は足をケガしてしまわれ、お一人ではお歩きになれません。
ポリッシャー伯爵
「では、執事に-----
二ブラ
「いいえ、グラインダー一人で大丈夫ですよ。
ポリッシャー
「そうなのか?
伯爵は王位継承者の若くたくましい青年を想像しているに違いない。
グラインダーが馬車から先に降り、ラチェットを横抱きにして外に出した。
伯爵も執事も皆が目を丸くした。
ラチェットは足の包帯を取り替えやすくするため、ふわりとした白いドレスを着ていて
まったく男には見えなかった。
さらにプラチナブロンドの長い髪に太陽の光が反射してきらめき、
小さく整った顔を際立たせている。
まるで、妖精の女王が現れたような、不思議な感覚を人々に与えた。
ポリッシャー伯爵
「二ブラ----ラチェット様か?確認するが男性なのか?
ポリッシャーは二ブラに小声で話した。
二ブラ
「はい、詳しいことは後でお話ししますが、紛れもなくラチェット様です。
足をケガされてるのでドレスをお召しになっています。
ポリッシャー伯爵
「ふむ、
ラチェット様、私はこの国の大臣ポリッシャーでございます。
長旅でお疲れでしょう、まずはゆっくりとおやすみください。
その後、城をご案内いたします。
ポリッシャー伯爵は戸惑いながらもラチェットに貴族の礼をした。
ラチェット
「伯爵様、不束者ですがよろしくお願いいたします。
ラチェットは両手で伯爵の手を握って、
恥ずかしそうに微笑んだ。
ラチェットの小さな手は赤ん坊のようにつるつるで柔らかい。
伯爵は頬を赤くした。
執事
「この王宮の執事をしておりますパッキンと申します。
それではまず、お召し変えを、こちらの者がお連れいたします。
青い制服を着た大柄の使用人がグラインダーからラチェットを受け取った。
使用人はあまりの軽さに驚き、美しい顔を見て少し呼吸が荒くなった。
ラチェットは少し不安そうだったが、グラインダーが微笑んでうなづくと
キリッと口を結んでうなづいた。
またその顔も可愛いとグラインダーは思った。
かなり頑張っているようではあるが。
使用人に運ばれ、豪華なバスルームにつれていかれたラチェットは
大理石のバスタブにつけられた。
使用人達はあまりにもラチェットの肌が柔らかいので、
最高級のスポンジでさえも傷つけると判断し、
メイドの手で優しく洗うことにした。
ラチェット
「あ-----------うふっ---
メイド
「どうかされましたか?
ラチェット
「こ、こそばゆくって
ラチェットは頬をピンクに染めてはにかんだ。
(可愛い!)
叫びたい衝動を抑えて、メイド達は洗い続けた。
長い髪も櫛で梳かしながら丁寧に洗い、香油を少しつける。
話し合いの末やはり、軽いが美しいドレスを着せることにした。
男用の用意されていた服は大きすぎたし重すぎたからだ。
メイド達は腕の見せ所とばかり、美しい髪飾りをつけ、
トップを左右に分けてお団子を作り下の髪はそのままおろした。
首には軽めのピンク色チョーカーをつけ、
完全な美しいプリンセスが出来上がった。
メイド達は自分達の最高の作品にため息をついた。
また大柄の使用人が来て、ラチェットを抱き上げ部屋を出ると
メイド達は一斉に悲鳴をあげた。
「きゃあーーーーー!可愛いーーーーー!
「王様があんなに可愛いなんて反則よね!
「肌なんて解けそうなくらい柔らかいのよ!
「毎日が楽しみでたまらないわ!
「明日はどんな髪型にする?
しばらく大騒ぎは続いて最後に女官長に叱られた。
ポリッシャー伯爵
「なんと!
寿命が10年-----
ご不憫な---
二ブラ
「ですので、一刻も早く王妃を決め、後継を作っていただかなければならないのです!
ポリッシャー伯爵
「そうじゃな、早急に------
「王妃だと------。
急に4人の王子とウェルズ爺が現れた。
レシプロスの魔導の道を使ったようだ。
ポリッシャー伯爵
「な、これは-----。
フレア殿下、レシプロス殿下、トルク殿下、ブロワー殿下----
一体全体---
ポリッシャーは混乱している。
二ブラ
「こちらの王子様がたは、ラチェット様のご友人で、
この度ラチェット様の即位に合わせて、
一足早く我が国にいらっしゃったのです。
二ブラは4人を睨みながら言った。
フレア王子
「ポリッシャー伯爵、今---
ラチェットの王妃を決めると、
聞こえたが、まことか?
ポリッシャー伯爵
「はい、これは我が国の危機ですからのう。
そこで4人の王子のそれぞれの脳内に妄想が浮かび上がった。
もちろん、ラチェットが弟になるという妄想だ。
「フレア兄上----
「トルク兄様!
「レシプロスお兄ちゃん
「ブロワーにい
4人はしばらくあらぬ方向を見てにやけていた。
フレア王子
「伯爵、宰相!
我が国の姫を是非王妃に!
私の妹は美しく賢く---
トルク王子
「我が草原の国と婚姻を結べば良質な馬も手に入るぞ!
レシプロス王子
「我が妹は魔導の力すさまじく、美しい、
ラチェットにふさわしい。
ブロワー王子
「えっと、3日で用意するからな、我が国の姫を、そんはさせない。
二ブラ
「ふう、王子様がたのお気持ちわかりました。
検討させていただきます。
王子達はニヤケながらラチェットの所に向かった。
おそらくラチェットに自分の妹をアピールするつもりだろう。
二ブラ
「どうしたものか----
ポリッシャー伯爵
「そうじゃな、いっそ4人もらうか、ははは
二ブラ
「ご冗談を--
---------
全て完璧に整えられて、
ラチェットはグラインダーに抱かれ、広間に降りてきた。
着替え終わったラチェットを見て、
伯爵は絶句した。
ポリッシャー伯爵
「これはいったい、さらに美しくなっておるではないか!
なぜ男らしくせんのか!?
ラチェット
「す、すみません----わたし----
ラチェットは泣き出してしまった。
ポリッシャー伯爵
「ラチェット様のせいではございませんよ、これはメイド達の---
ああ、どうか泣き止んでください、ね、
伯爵はオロオロしている。
4人の王子達はラチェットを取り囲んで舐めるように見つめ、大絶賛中だ。
ラチェット
「わたし---男らしくないから、ダメみたいです。
グラインダー
「別に男らしいから、王様になれるってわけじゃないでしょう。
ラチェット様はラチェット様でいいんですよ。
なっ。
グラインダーは上から爽やかに微笑んだ。
ラチェットは頬を赤くして、ゆっくりとうなづいた。
ラチェットはまだまだツアーを続けたいようだったが、
長くなりそうなので、
先に昼食をとることにした。
料理長が腕を振るいまくったランチはそれはそれはきらびやかで
美味しい料理だった。
ラチェットは話す余裕もないくらい美味しい料理に夢中で、
たまにグラインダーに微笑んで身振り手振りで感動を伝えた。
グラインダーは可愛くてしょうがない。
王子達も自分の食事よりも、あれもこれもとラチェットにすすめた。
中でもラチェットが涙して喜んだのがプリンだった。
なんという料理なのかと料理長に聞くと
「プリン!------プリン!------ああ、プリン-----プリン----プリンなのですね!
と5回連呼するほどだった。
ラチェット
「私もプリンを作ってみたいです。
年配の料理長は驚いたようだったが、では今度と、嬉しそうに言った。
その後もお城ツアーは続き、ラチェットは疲れ果ててディナーも食べずに
グラインダーの腕の中で眠ってしまった。
真夜中、ラチェットは微かな物音で目が覚めた。
広い王の寝室、特大の天蓋付きベッドにポツンと1人ラチェットは置かれていた。
ラチェット
「だ、誰かいるのですか?
部屋はロウソクの灯りが2つほどで、ぼんやりと暗い。
何も音が聞こえない。
ラチェット
「グラインダーさん、二ブラさーん----
返事はない。
ラチェットは入り口のドアを開けて外に出た。
入り口の両隣に鎧を着た騎士が2人座って寝ている。
ラチェット
「あの、すみません。
ラチェットが起こそうと鎧に触れると、
騎士は倒れた。
ラチェットの手のひらに生暖かいぬるりとした感触がある。
ラチェット
「これは------あ----あ----。
ラチェット
「大丈夫ですか?しっかりなさってください!
騎士を案ずるラチェットの後ろにゆらりと黒い人影がたちあがり、
ダガーがキラリと光った。
その瞬間、ラチェットは青い光に包まれた。
ダガーが弾かれる。
ウェルズ爺だった。
ウェルズ爺はラチェットに寄り添うように立って守っている。
ラチェット
「ウェルズさん!
ウェルズ
「すまんが今のわしでは結界で精一杯じゃ。
暗い廊下から剣の合わさる音が聞こえる。
グラインダー
「ラチェットーー無事か!?
ラチェット
「 グラインダーさん!
グラインダーと二ブラは5人の魔導師部隊と戦っている。
1人がラチェットにすごい勢いで向かってきた。
二ブラはラチェットの前でそれを食い止めた。
二ブラ
「ラチェット様、私の後ろに隠れていてくださいよ。
魔導師部隊は恐ろしく強い。
とうとう、二人の魔導師の稲妻に打たれてグラインダーがどうっと床に倒れた。
ラチェット
「ああ----グラインダーさん!!
二ブラ
「相手が強過ぎる。グラインダーじゃ無理か。しょうがない---
二ブラはメガネをとった。
そして何やら呪文を唱えると、
ウェルズ爺の頭にはまっている銀の輪に触れた。
銀の輪は星屑のように光となって消えてしまった。
ウェルズ
「なんと!
二ブラ
「戦え!ウェルズ!
ウェルズの姿が若い男に変わった。
髪は足首まで届く黒のような緑のような色合い、
服は同じボロボロのローブだが、
そこから出ている手には動物のような 長い爪が見えている。
ウェルズは大声で笑いながら、魔導師達を爪で切り裂いていく。
二ブラは体から炎を出して、それを援護する。
あっという間に5人の魔導師部隊は全滅した。
ウェルズは蛇のような眼をギラつかせて笑っている。
ウェルズ
「お前だったとは------。
全く気づかないとは、わしももうろくしたもんじゃ。
ラチェット
「ウェルズさん----?
ウェルズ
「ラチェット、わしもお前もまんまとこの男に騙されたんじゃよ!
この男はわしを封印しおった憎いやつじゃ!
こいつはのお---
二ブラ
「そこまでだ、ウェルズ。
また封印されたいのか?
ウェルズ
「むむう
二ブラ
「私はチャンスを与えたんだ。
ラチェットを守れ、ウェルズ。
そうすれば、もうお前を封印することはない。
しかし、もしここでお前が逃げれば、次に会った時殺す。
ウェルズ
「なんと傲慢なやつよ。
ウェルズはラチェットの首を掴んだ。
ウェルズ
「では、ここでラチェットを殺すと言ったらどうだ?
ラチェット
「う---------
二ブラ
「やってみろよ。俺の方が早いさ。
ウェルズ
「ほう-----
ウェルズは長い舌でラチェットの顔をベロリと舐めた。
ウェルズ
「美味そうだ---ははは
ラチェットは小さな身体をカタカタ震わせて、
とうとう泣き出した。
とっさにウェルズは手を離す。
ウェルズ
「ラチェット---
ラチェットはビクッとして後ずさった。
ウェルズ
「ラチェットや、ほら、ウェルズ爺じゃよ、ちょっぴり若返ったがの。
怖がらんでいいぞ。の?
ウェルズは精一杯ニターッと笑ってみせた。
ラチェットは気を失った。
倒れて床に衝突する前に二ブラが受け止める。
二ブラ
「もう遅いみたいだな、蛇ちゃん。
お前はもうラチェットを殺せない。
守るしかないんだよ。
ウェルズ
「ふん、守るって何から守るんじゃよ。
二ブラ
「あらゆるものからさ。
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翌朝-------------------------
ラチェットは王様専用の大きなベッドで目が覚めた。
ふと横を見ると、昨晩の若くなったウェルズが至近距離でこっちを見つめている。
どうやら添い寝したようだ。
ラチェットはあっと小さな声を出して体を硬直させた。
ウェルズ
「ラチェットや、昨日はすまなかったのう。怖い思いをさせて。
忘れてたかもしれんから一応言っとくが、
わしはウェルズ爺じゃよ。
おまえさんの友達じゃ。
ラチェット
「ウェルズさん-----。わ、私を殺すと---。
ウェルズ
「ん、むう、わしはいつでもおまえさんを殺せると思っておったのは確かじゃ。
おまえさんの魔力は跳ね返してたつもりなんじゃがのう。
なんかのう、無理なんじゃよ。
ウェルズは切れ長の蛇のような金色の瞳をギラギラさせながら、
ラチェットの髪を長い爪で弄んでいる。
ウェルズ
「じゃから、諦めておまえさんを守ることにしたよ。
正直言ってわしがいれば安心じゃからな。
ラチェットは目を閉じて、深呼吸した。
ラチェット
「良かった-----。ホッとしました。
ウェルズさんは私の初めてのお友達ですから。
ラチェットはにっこり笑った。
ウェルズは端正な細い眉を片方釣り上げた。
ウェルズ
「その魔力、ひどい垂れ流しじゃなあ---。
と言ってニタリと笑う。
ウェルズ
「まあ、友達でもいいが、わしはフリーじゃから
恋人になってやってもよいぞ。
その気になったらいつでも言うてこい。
ラチェット
「あの、友達から恋人になるとどういう風に変わるんですか?
ウェルズ
「そうじゃのう-----。
今までぞろぞろ皆で散歩したり買い物したりしてたじゃろ、
それが2人きりになるのう。
それに、友達でイチャイチャすると、
4人の王子にぼこぼこにされるが、
恋人同士だと、遠慮なくイチャイチャできるのう。
つまり、恋人とはラチェットにとって
他の人間より特別に好きな人間なのじゃよ。
ラチェット
「特別に好き----。
ラチェットは少し考えて頬を赤くした。
ウェルズ
「時間はたっぷりあるからの、ゆっくり考えることじゃ。
ほっほっほ
まあ、今はまだラチェットはフリーじゃからのお。
そういうとウェルズは至近距離の顔をさらに近ずけてラチェット唇に吸い付いた。
ラチェット
「ん-----
ウェルズのニョロニョロとした長い舌が口の中でこそばゆい。
その時勢いよく扉が開いた。
トルク王子
「おっはよーラチェ------。
おいーーー!誰だーー!
次から次に入って来た王子達に、
ウェルズはボコボコにされた。
つづく




