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6 と、ある男のおはなし。

完結忘れておりまして、すいません。

お詫びに、蛇足の蛇足です。

 きちんと国王が立ち……国も少し落ち着いてきた頃。とある男が街へやってきた。

 明るい金髪の背の低い、ほっそりとした男だ。

 瞳の色は、深い黒のようにも見える。


 瞳は闇に染まったのだと説明を受けた城下の人々は、いたく同情し、命があるだけ良かったよと口々に慰めた。


 男は、度々城下に現れた。その人懐っこい性格と口達者な男はたちまち城下の人々の顔馴染みとなった。


「普段は、城で下働きしてんだよね」

「はいはい、馬の世話でもしてんのかい?」

「うっわ、おばちゃんひでー」

「お姉さまって呼びなって言ってるだろう!」


 そんなやり取りをするほど男は街に馴染んだ。男は街の噂話を聞くのが大好きのようで、噂好きな女連中とは特に仲が良かった。


「ねね、おかみさん……」

「ライト。何べん言ったら分かるんだい?」

「あ、とっても美しいお姉さま」

「……まあいいよ。なんだい?」


 ライトと呼ばれた男は笑顔を浮かべた。


「今度さ、陛下のお誕生日っしょ」

「そうさね。やっとお祝いして差し上げられるよ」


 嬉しそうに目を細める恰幅の良い女性は、城下の寄合の頭の奥さんだ。おしゃべりな上に、発言力も実行力もあって、人情に厚い。

 最初に話をするのはこの人だと、男は決めていた。


「オレさ、面白いこと聞いちゃって」

「なんだい?」

「実は、誕生日の夜にね……」


 異世界から来た大魔法使いが、国王の誕生日に空に小さな灯りを浮かべると。そう聞いたおかみさんはうっとりと目を細めた。


「それは素敵だねえ。陛下もお喜びになるよ」

「でもさ。お姉さんはいいわけ?」

「何がだい?」


 不思議そうに尋ねるおかみさんに、男は答える。


「陛下が生まれた時から、一緒の国にいた皆はそれでいいのかって思って」

「どういう意味だい」

「たかが数年一緒に居ただけの、それも異世界から来たぽっと出の魔法使いだけに良い所取られていいの?」


 男の言葉に、おかみさんは目をしばし瞬かせ、にやりと笑った。


「私を焚きつけるなんざ、二十年早いよ坊や」


◇◇◇


 それから、城下中の紙という紙が集められた。運よく、適した紙が大量に手に入り……細いしなやかな棒も手に入った。

 まるで、これが行われるのが分かっていたかのようで少し不気味だったが、材料が無いよりはずっと良い。


 湖のほとりに住まう、第二騎士団団長の妻が異世界出身だということを聞き、何度も作り方を習いに通った。

 彼女もまた非常に協力的で、二人の子どもを連れて城下へやって来ては一緒にランタンを作り、蝋燭も平たいものを作る技術を教えてくれた。


 いい香りのする蝋燭を作る方法も教えてくれて、これが後の城下の名物になったというのはまた余談だ。


 最後の打ち合わせの日に、男はまた訪れた。日にちが迫るに従い、男の目元には隈が濃くなり……皆は心配した。


「あはは、そういうみんなだって、隈がすごいじゃん」


 皆の心配に、男は笑って答えた。それもそのはず。日数が迫ったが皆も日々の生活がある。空き時間でやっているので皆忙しいのだ。自然と削る時間は睡眠時間となってくる。


「オレさ、当日は来れないんだよねー」

「城勤めじゃ仕方ないさね。私たちで上手くやるさ」


 最初に相談したおかみさんのウインクに男は嬉しそうに頷いた。そして、ぽつりとつぶやいた。


「みんな、ク……陛下が大好きなんだな」


 男の言葉に、一同がしんと静まり……大笑いが響いた。


「なあにを今更!! ここに居る皆、陛下が心配で心配でたまらなかったのさ!」

「そうだぞ、若造! 俺たちの国の唯一の王族であり、たった一人になってしまった子どもさ」

「祝いってのもあるがなあ、これはどっちかっていうと……応援だなあ」


 最後の言葉は、恰幅の良い主人はおかみさんの夫のものだ。


「陛下は俺たちを見捨てなかった。だから、決して俺たちもこの国を出ていきはしねえ」


 そうだそうだ! と、大きくなる声に男は俯き……額をごしごしと強く擦った。


「だから、心配しないで。アンタはアンタの勤めをしっかり果たしなよ」


 おかみさんが笑いながら男の背中をバシバシと叩く。


「そうだそうだ。お前だって訳アリなんだろ! 自分のやれることをしっかりやんな!」


 わいわいと騒がしい一同を見て、ライトと呼ばれている男は笑い、ぺこりと頭を下げた。


「んじゃ、当日はよろしくっ!」

「あいよ! 任せとけって!」


◇◇◇


 白樺の並木を抜け……湖のほとりへと出る。普段、この時期は雪に埋もれてとてもじゃないが行き来できない状態になっているはずだが、今年は綺麗に雪が分けられている。フリクセル夫人にランタン作りを乞うために通った城下の人々の力だ。


「あら、大輝」


 二階建てのこじんまりとしたログハウス。その扉から男の姉がひょっこりと顔を出す。


「どうだった? 間に合いそう?」


 弟の上着を暖炉の前に並べて乾かしながら、姉は心配そうに尋ねた。先ほどまでランタンを作っていたのであろう。テーブルの上には作業途中の材料が散らばっている。

 

 大輝と呼ばれた男は、明るい金髪に手をかけて引っ張る。金髪はバサリと音を立てて落ち……現れたのはふわふわとした黒髪だ。


「うん。大丈夫そう。みんなノリノリだった」

「そう。良かった……。私も、これをまた追加で持って行っておしまいかな」


 テーブルの上に置かれた作成途中のランタンに目をやって、美雨は満足そうに頷いた。


「今日はチビたちは?」

「ああ、ご近所さんちに遊びついでに預かってもらってるの。作業が進まないもの」


 随分とこの世界に馴染んだ姉に笑みを漏らした。たった一人の姉だ。幸せな姿を見るのは嬉しいものだ。


「でも、いいの? 皆に魔法使いだって黙ったままで」

「うん。これでいい……情報収集にはもってこいだから」


 美雨は何か言いたそうだったが、口をつぐんで作業に戻った。


◇◇◇


 そして迎えた、生誕祭当日の夜---ランタンは空高く飛んで、城下の人々は歓声を上げた。涙ぐんでいる者の姿も、大喜びで踊り出す酔っ払いの姿もあった。

 あの男が教えてくれた通り、最初に王城の上に小さな光が灯り……一気に飛ばしたのだ。

 城下の人々の噂は城へと伝わり、城下町の外れの住民へも。そして出入りをしていく商人たちは噂話を連れて旅立ち、近辺の里へも伝わり、ランタンの数は増えて行ったのだ。

 見聞きした者は、興奮気味にこのことを話すだろう。そして、次の年にはランタンの数はもっともっと増えていくのだろう。


 その後……竜殺しの大魔法使いは他国から畏敬を集めた。そんな大魔法使いに弟子入りをしたいと志願した者が集まり……ネスレディア王国は、ちょっとした魔法大国へとなった。

 人の行き来は随分と増え、少年王と呼ばれなくなって久しい王は、道を整備し街をゆっくりと広げていった。王の性格を現すように堅実に。

 彼は争いを好まなかったので、戦をしかけることはなかった。厳しい気候と、何よりも恐ろしい魔法使いの名に畏れた近隣国は侵略をすることもなかった。


 戦をせず、法の整備と土地を整え、人を集めて国を豊かにしたクロード王。

 その彼の優しい人柄と知性。そして穏やかな物腰に、姫君たちは我先にと殺到したそうだ。しかし、彼の心を射止めたのは……小さな国のお転婆姫だった。

 少年王と呼ばれていたことが昔話になる頃には、賢王と呼ばれることとなる彼は、紆余曲折を経て、お転婆姫と仲睦まじく国を治めることになる。しかし、それはまた別のお話。


◇◇◇

 

 相変わらず、“ライト”と名乗る不思議な男はふらりと城下に現れる。


 毎年恒例となり、遠い国からも観光に訪れるほどの名物となった生誕祭。そのランタン実行委員を取り仕切るおかみさんと、ふらりと現れた男は何気ない会話をして去って行った。

 その遠くなっていく相変わらず年を取らない後ろ姿を見て、目元にだいぶ皺の増えたおかみさんは優しく笑い、小さく呟いた。


「これからも陛下を頼んだよ、ライト」


 年を取らない彼は、あれから随分と年月が経過していることに気付いていないのかもしれない。


 例え本当は、大魔法使いだろうと、異世界人だろうと。城下の人々にとっては、変わらず“ライト”という男であり、一緒に国を守り支えていく大切な同志なのだ。


「さて。もうひと頑張りしようかね」


 おかみさんは腕まくりをして店へと戻る。

 また今年も、大きくなった少年を祝うのだ。

大輝も気づかれているのはなんとなく気付いてますけど、お互いに言いません。

それでいいんじゃないかな、と思います。


ほんとうの本当におしまいでした。

こちらまでお付き合い頂きまして、ありがとうございました。

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