そうです、私がトゥロウサン王国国王です
俺の娘ってこんなんだっけ?
ヴァナティクト・フレネス・トゥロウサン、トゥロウサン王国の国王にてフレネス公爵、そしてメフティアの父親は、執務室の机を前にして首を傾げていた。
凄まじい勢いで第三王女の勢力が膨れ上がっている。
意味が分からない。
つい数週間前まで、正確に言うのならば学園の入学祝賀会の日から、凄まじい勢いで勢力が膨れ上がっている。
まずもって次代の勇者、トリック家の長男がメフティアの派閥への参加を明言した。
これがトリック家の事であるのか、もしくは次代の勇者ショウ個人の事であるのかは未だ不明なのだが、どちらであったとしても前代未聞の珍事だ。
ヴァナティクトにとって、メフティアは可愛い娘ではあった。
しかし、それはそれとして。
王になる強かさも、そしてその意思もない娘、というのがヴァナティクトの評価であった。何をやらせても抜きんでた所はなく、全てそこそこ止まり。
中流とは言わない、しかし王を目指せる人間かと言うとヴァナティクトは首を横に振ってしまう。
トゥロウサン王国は大国である。当たり前だ、なにせ現状大陸にある唯一の国家だ。
それを束ねる王家は強く、そして賢くある事が求められる。
数多くの民族、広大な領土、それらを一つに纏めるのは並大抵の事ではない。
故に、王位継承権争いは実力が重要視される。
そうなれば、まだ先が見えない幼い兄弟達と違い、先が見えているメフティアの派閥が弱小化するのは当然の事であった。
貴族とはそういう者だ、見返りが期待できない者に貸しを作ろうとする者はいない。
それがだ、そんな弱小派閥にあの独立独歩、なぜか未だに王家の頼みを聞いてくれるが、その厚い忠義はどこから来るのか分からない勇者一族が、参加したのだ。
端的に言って謎である。
しかも、それからのメフティアの行動がまさに怒涛だった。
ヴァン学園という第一王子派閥の庭から、優秀な学生だけを狙って自派閥に取り込んだりと、今まで大人しくしていたのが何だったのかと思いたくなるような政治工作をやってみせた。
「まさか実力を隠して無能を装っていた?」
ヴァナティクトは首を傾げる。悩む姿は王らしからぬものだが、ここには誰もいない。
過去にもそういう王がいた、初代国王ヴァンがまさしくそうだった。
まさかあのメフティアが? 結果を見てもなおヴァナティクトは信じられない。
優秀な兄二人と比べて自分は無能だとヘラヘラ笑っているメフティアの姿しか思い浮かばない。いやヘラヘラはしてなかったか。
本人に王位継承の意思なし、そうと思ったからヴァナティクトは娘をそのように扱ってきた。
メフティアの事は愛しているが、王としては弱い国王は要らないのだ。
これは一度メフティア本人の意思を確認してみるべきだろうか?
ヴァナティクトは第一王子と第二王子に意思を確かめた時の事を思い出す。
第一王子は堂々と、自分こそが王位を継ぐに相応しいのだと宣言した。
第二王子は静かに、時流がそれを望めばと静かな目で答えた。
才能は違えど、どちらも王位を継ぐに相応しい才覚の持ち主だった。
これにメフティアを並べてみる。
「……駄目だ」
チワワのようにプルプル震えながら首を横にふる娘しか思い浮かばない。
あの娘はあの顔をすればどうにかなると思っている節があるからな、いや実際ちょっとどうにかなってしまうのだが。
ヴァナティクトは考える。
メフティアは無能を装っていた有能なのか、もしくは――。
幼少の頃より、向かぬ、そして意思なしと思い、王位継承権から遠ざけ、自由にさせ過ぎたが故に、遅い反抗期でも迎えたか?
だとしたらそれはそれで可愛い物なのだがな。
ヴァナティクトがそう微笑んだのと、最近思い付きで作った秘書なる役割を割り当てた、若い貴族がドアをノックしたのは同時だった。
国王と官僚の間に一人入れる、それだけで王家の権威が少しだけ増すというのは面白い試みだった。
入れと命令するのも気楽で良い。
ヴァナティクトの入れの声に、ドアを開けて入ってきた秘書の顔は、急いできたのか若干赤らんでいた。
余計な事を言わない落ち着いた性格の青年、そう評価していたヴァナティクトは一瞬だけ心中で首を傾げた。
「り……竜が」
上がった息は意思で抑え込んでいたのか、話しだした途端に秘書の声が上擦る。
「伝説の黒竜様が学園に現れました」
ヴァナティクトは声が出なかった。しかし間抜けな声がでるよりかはマシだっただろう。
沈黙は王の尊厳を棄損する物ではない。
「メフティア王女殿下をお訪ねに来られたそうです」
「は?」
なんでお前、倒置法みたいに言葉を区切った。
ヴァナティクトは心中で文句を言いながら、おそらくこの「は?」は何者が漏らしたとしても、許される物であるはずだと、思った。




