二話
都会での生活に少し疲れた主人公・新太が、久しぶりに故郷の島へ帰ってくるところから物語は始まります。
懐かしい家、変わらない母、そして――昔と同じ笑顔で迎えてくれる幼馴染・凛花。
「ただいま」と言うだけで胸が温かくなるような、
そんな“帰ってきた場所”でのスローでちょっと騒がしい日々。
田舎の空気と、幼馴染との距離感が少しずつ変わっていく、
ゆるくて甘いラブコメを書いていきます。
肩の力を抜いて、のんびり読んでもらえたら嬉しいです。
「おっ?開いてる。」
取っ手を引くと、簡単にドアが開いた。
《……田舎あるある、防犯対策の消失。》
なるべく音を立てないよう、慎重に中へと入っていく。
「ただい―――」
「あら、お帰りなさい。」
「っ?!」
反射的に飛び上がってしまう。
「び、びっくりした!まだ寝てるのかと……。」
「何言ってるの?もう6時、流石に起きてるわよ。」
やれやれと言った風にかぶりを振る母。
「正直、港まで行こうかとも思ったけど、私の迎えは必要なかったみたいね。」
それから、僕の後ろへと目を向ける。
「おばさんっ、おはようございます。」
背後から、元気ハツラツとした挨拶が飛んでくる。
「凛花ちゃんいらっしゃい。朝早くから色々と悪いわね。」
「いえいえ~……むしろ役得でしたから。」
「あらまぁ、乙女ね~。」
何やら女性同士で盛り上がっている。
性別が違うだけで、こうも蚊帳の外状態だとは……。
しかし―――
数年越しに見た母の顔は、若干のしわはあれど、あの頃の面影のままだった。
てっきり、昔と今とでギャップでも感じるかと身構えていたのに、
ちょっぴり拍子抜けである。
「せっかく来たのもなんだし、凛花ちゃんもご飯食べていったら。」
「えっ、いいんですか?じゃあ、お言葉に甘えて~。」
《あれっ?今日の主役は僕じゃなかったの?》
実家に帰省した本人を差し置いて、トコトコと家に上がり込む幼馴染。
その先には、茶色と白を基調とした空間が伸びていた。
《分かってはいたけど、本当に帰ってきたんだな、僕。》
しばらく見ていなかったこの光景に、ようやく帰省の実感が湧いてくる。
「ほら。新太も突っ立ってないで、さっさと手を洗ってくる。」
「あ、ハイ。」
靴を脱いで上がり込み、文字通り肩の荷を下ろしたのだった。
***
「「「いただきます。」」」
リビングに三人の声がこだまする。
食パン、目玉焼きにベーコン、あとヨーグルト。
何の変哲もない平凡な食卓が、僕の眼前に広がっていた。
「新太、そっちのジャム取れる?」
「ん。」
そばにあったリンゴジャムを手渡す。
「ありがとうっ。やっぱ食パンにはこれが一番でしょ。」
「ふふっ。凛花ちゃん、昔からほんとそれ好きよね。」
「えへへっ。大人になっても、好きなものだけは変わっていませんからね。」
なぜかチラチラと視線を送ってくる彼女。
期待をするかのような、キラキラした瞳だ。
「えっと、僕の顔に何かついてる?」
刹那、瞳からハイライトが消えた。
「……何でもない、新太のばか。」
「へっ?」
そっぽ向かれる。
どうやら僕は、知らず知らずのうちに、彼女の機嫌を損ねてしまったらしい。
《地雷、踏んだ?えっ、踏んだのか今?》
目の前の母に至っては、頭を押さえている。
「大学で、ちょっとはマシになったのかと思ったけど……ポンコツは健在ね。」
「うぐっ?!」
横からの流れ弾が、僕の心にジャストミート。
続けて、二人の冷めた視線が突き刺さる。
「凛花ちゃん。うちの息子がほんとごめんね。」
「大丈夫です、もう慣れてるんで。」
「はぁぁぁぁ~~。」
《うぅ……。流石にそんなため息つかれると凹むんだが?》
「な、なんだよ。言いたいことがあるならはっきり言ってくれれば―――」
「そういう問題じゃないの。これは、あんた自身で気づかないと意味が無いわけ。」
「な、なるほど?」
母の隣で、ウンウンと頷く凛花。
《絶賛、四面楚歌。辛すぎて滅。》
「いい?分かった?」
女性陣の有無を言わさない剣幕に
「……はい、すみませんでした。」
為すすべもなく、素直に謝るのだった。
「ところで新太、連休中はこっち居られるのよね? 」
「うん、そのするつもりだけど。」
母の問いかけにこくりと頷く。
「なら久しぶりに、この島を見て回ったらいいんじゃない?
あんたがいた時よりも随分変わってるから。」
ウ~ンと少し考える。
《この炎天下で外出するのはちょっと……。》
「いや、家でゆっk―――」
「それいいですね!!」
机をばんっと叩いて、身を乗り出した凛花。
「そしたら私が案内役をやります。だから、ねっ―――行こう新太!!」
「で、でも外あt―――。」
「ねっ!!」
気づいた時には、その瑠璃色の瞳が目の前にあった。
光の粒を散りばめた、宝石箱みたいな瞳だ。
《ち、近い。そんな目で見られたら―――》
「分かった!!分かったから、行くってば!!」
息も触れそうな近距離で、理性が先に音を上げた。
「ほんとっ?約束だからねっ!」
彼女の小指が差し出される。
「嘘ついたら針千本だから、ね。」
「……わかってるよ。」
気恥ずかしさを覚えつつ、その指に自分の小指を添わせていく。
《思ってはいたけど、こんなにも自分の物とは違うんだな。》
華奢で、繊細な指。
触ったら、音を立てて崩れてしまいそうだ。
「えへへっ。新太の手、男の子って感じする。」
「い、いや、どんな感じだよ。」
「ふふふっ。」
鼓動の高鳴りをごまかすように、精一杯の悪態を凛花に返した。
んで別方向からは、母のニマニマとした視線が飛んでくる。
《田舎のスローライフを満喫したいだけなのに―――》
ふへぇ~、と大きなため息が出た。
《……でもまぁ、悪くはないかな。》
こうして僕は帰省早々、幼馴染とのお出かけする羽目となったのだった。
少し編集を加えました。




