恋敵について考えました……すこぶる諦め悪すぎです
お茶会は、急遽、婚約破棄の作戦会議場となり、親友達が嬉々として案を出し合っていた。
俺が少しでも反論しようものなら、上手に遮り、クラリスに言葉が届かない。
そうだ……親友はそういう奴らだった。
クラリスに関わることなら、容赦なく潰しにくる。
俺は目の前で繰り広げられる作戦会議を、ただただ忌々しい気持ちで眺めている事しかできなかった……
おい!
昨日婚約、今日破棄って……いくらなんでも展開早すぎだろー!
1日くらいは俺との結婚も考えてくれても、バチは当たらないと思うんだけど!
心の中で叫ぶ声は、もちろん想い人に届くはずもなく……
お茶会は良案が浮かばぬまま、お開きとなり、俺は胸を撫で下ろす。
王命と説明したのが功を奏したらしい。
帰りの馬車に揺られながら、とてつもない疲労感に襲われ、大きく大きく息を吐いた。
恋敵達の激怒は想定内だが、我が親友ながら厄介な2人である。
昔からよく一緒にいた、同じ年のジェスター・シトリン。
眼鏡の奥にある深緑の瞳は、落ち着きと思慮深さを物語っている。
黒髪が綺麗でしかも、かっこいい。栗毛の俺は子供の頃から羨ましかった。
頭脳明晰。冷静沈着。容姿端麗。
そして、シトリン侯爵家次期当主。
シトリン家はただの貴族ではない。
代々国王の右腕となり、裏でいろいろ手をまわす、この国1番の策略家の家系。
政治的にも発言力が強く、法治の看守という二つ名を持つ。
王家といえど、シトリン家の意見を無視する事はできない。
世間では、王家の次に敵にしてはいけない家系と恐れられていて、王家にとっては、臣下でありながら、身内のような、ちょっと特殊な関係なのだ。
特別な貴族であり、策略家でもあるジェスターが本気で惚れた相手がクラリスなわけで……
ジェスターの事を苦々しく思い出しながら、景色を見ていると、馬車の窓にもう1人の恋敵であるミカエルの顔が映ったような錯覚をおこした。
ミカエル・アルフォントかぁ。
クラリスの身内という立場のあいつは、ジェスターとは別の意味で面倒な相手だと改めて実感し、ため息がでる。
クラリスの義弟で、ジェスターほど付き合いが長いわけではないが、こいつも親友である。
ミカエルは明るめのブラウンヘアーの優しげな甘いマスクの美少年だ。
書類上、クラリスの義弟となっているが、正式な間柄は従姉弟だった気がする。
実母を亡くし、家族に冷遇されている事をミカエルの実母の姉……伯母であるアルフォント公爵夫人が耳にし、アルフォント家で養子に迎えたらしい。
そりゃあ、四六時中、クラリスと一緒にいたら惚れるよな。
義弟といっても、クラリスとは2ヶ月違いの同じ歳だし。
しかも、本来は従姉弟だ。
貴族間では従姉弟との結婚なんて珍しくない……どころか、第一候補となりうる関係だもんなぁ。
それぞれがクラリスを好きになった経緯は知らないが、本気なのは知っていた。
が、さすがに俺とクラリスが婚約すれば諦めるだろう……と思っていたのは甘かった。大甘だった。砂糖菓子ぐらい甘かった。
あいつらの想いはそんな軽いものじゃない。
親友だから譲ろう……なんて考えは、これっぽっちも持ってない。
……俺もだが。
結婚ができる年齢まであと5年。
俺はなんとしてでも婚約者という立場を死守しなくてはならない。