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努力が水の泡になりました……敵もさる者引っ掻くもの……あーあ


「はい、僕、クラリスと仲良くなりました」


 はぁぁぁ!? めっちゃ接触してるじゃん!! ジェスターの態度がおかしかったのはこれかっ!


「セドニー王子、クラリスの義弟(おとうと)のミカエルです。義姉(あね)がなにか失礼をいたしましたら、すぐにでも席をお変わりください。本当にすぐにでも」

 

 口元だけは微笑みの形をとり、お辞儀をしながらセドニー王子に挨拶をするミカエル。


 身構えている俺達の事などまったく気づかず「ちょっとぉ、ミカエル、酷くない? 義姉ちゃん泣いちゃうよ?」とぶつぶつクレームをつけているクラリスをよそに俺達3人は額を寄せ合い、小声で揉める。


「どうして隣になったんだよ!?」

「僕だってわけわからないよ。先生の決定事項だ」

「ジェスター、何やってたのさ!?」


「1週間だけですし、僕はクラリスにテキストを見せてもらおうかな。いいですか? クラリス」

「ダメです」


 セドニー王子が俺達がコソコソ話しているのを笑顔で見ながら、クラリスに提案をするのが聞こえ、素早く俺が返事をした。


 そんなもん、ダメに決まってんだろ。隣の席っていうのだって我慢の限界なのに、テキストを一緒に見るだとぉ。なに、いけしゃあしゃあとクラリスと距離を縮めようとしてるんだよ!


「大切な王子様にご不便をかけるわけにはいきません。早急、速攻準備させます。あと……」


 俺は腹立ちを悟られないよう、いつもの王子スマイルを浮かべ、にこやかに穏やかに話す。クラリスをチラッと見て、セドニー王子に牽制の言葉を投げつける。


「このクラリスは私の()()()でして……」


 ……だから、近づくなっつーの! 


 と言いたいが、王族の掟として、そこまで言えないのが悔しい。

 

「知ってますよ。アルベルト王子の婚約者なのは。()()()()()()ですけどね」


 セドニー王子は余裕たっぷりに目を細める。


 だよな……知ってて、手を出しに来たんだもんな。


 今まで、黙っていたクラリスがコソッと俺に耳打ちをした。


「婚約破棄が隣国まで噂になっているのでしょうか?」


 この戦闘態勢の中、痛恨の一撃をクラリスがぶっ込み、心のダメージ過多で意識が遠のきそうになるのを俺は必死に(こら)えていた。


 セドニー王子が来訪してから5日が経った。

 学園に通う最終日。

 明後日にはセドニー王子は帰国する。

 

 授業以外は王子に張り付き、ジェスター、ミカエル、なぜかローザ嬢まで加わり、クラリスと2人にならないように気をつけていた。おかげでクラリスを口説く時間はなかったと思う。


 ふぅ……なんとか5日間耐え抜いたぞ。

 俺の疲労は限界突破しているかもしれない。


 この後、倒れるかも……いや、後で倒れるのは構わない。今、倒れるわけには絶対いかない。今、倒れたら、クラリスがかっ(さら)われてしまうから。


 本日の授業が終了し、何事もなく終わった安堵感と勝利の高揚で俺は心の底から万歳をした。


 お、わ、っ、たぁぁぁー


 サッサと帰り支度をして、セドニー王子を迎えに行き、とっとと王宮に連れ帰ろう。


 急いで帰り支度をしていると、教室にひょこっとクラリスが顔を出す。

 

「アルベルト様、明日なんですが……」


 クラリスが俺を見つけると、トコトコと近づいてきて話しかけてきた。


「うん? どうした?」


 明日? 明日は学園は休みだし…… 

 え? もしかして、デートのお誘いとか?

 やばいな。頭が都合のいい事しか考えなくなってきた……いや、でも本当にデートかもしれないし……


「えっと……」


 クラリスが頬をピンク色に染め、うつむく姿が愛らしくて抱きしめたくなる。もう、俺、ダメ。疲労が溜まりすぎて、理性崩壊、欲望全開。


「明日……ですね……デートすることになりました」

「えっ? デートッ!」

 

 本当にデートのお誘いなのかぁ!

 もちろん、行く! 行……く……ぞ……えっ? デートすることになりました?


「はい。セドニー様と」


 ……………………えっ?


 喜びは一瞬にして消えてなくなり、俺は足元からガラガラと崩れ落ちていく感覚に襲われる……


「な……んで?」

「あのですね、セドニー様、今までデートしたことないのですって……異国でデートするのが小さい頃からの夢だったらしく」


 は? 夢? 嘘だろそんな夢。


「今回を逃したら、一生夢が叶わないと寂しそうなお顔をされて……」


 いいよ。そんな夢、叶えなくても……一生、寂しそうな顔させとけよ!


「私、お願いされまして……」

「クラリス……お前、立場わかってるのか?」

「立場? はい、わかってます」


 あいつの狙いはお前を口説いて妃にすることなんだよ!


 って、言えないのが辛い。

 そして、王族の暗黙の掟により本人の了承があれば、婚約者の俺でも引き止めることはできない。


「仮とはいえ、王子の婚約者である私はセドニー様におもてなしをしなくてはなりません! 夢を叶えて差し上げるのもおもてなしの1つかと思いましてっ!」


 ああ……

「俺の婚約者と言うことを忘れるな」と言った台詞……そっちの意味じゃナイ……


 顔面蒼白になり、とてつもない絶望に(さいな)まれているとクラリスが俺の目を覗き込む。


「大丈夫ですか? あの、私、アルベルト様の仮の婚約者として国の恥にはならぬよう、しっかりとセドニー様に楽しんでいただきますから。明日はアルベルト様、ゆっくりお休みください。ずっと忙しくて休めなかったですよね? 明日は私にお任せください!」


 ガッツポーズで俺の事を心配してくれるのは嬉しいけど……ムリ。それ無理だから。1番ゆっくり休めない事態に陥ってるからね?


「クラリス……あのな……」

「アルベルト様、本当に倒れないでくださいね。すごく心配なんです」


 クラリスは目をつむり、祈るように俺の両手を取った。

 その様子から本気で心配してくれているのが伝わって、胸は熱くなるのだが……


「では、明日はゆっくり休んでくださいねぇ!」


 声高らかに元気よく話すクラリスに俺は複雑な顔をしてしまう。

 

 心配してくれるのは嬉しい……すごく嬉しい……でも、結果、セドニー王子とデートするなんて……この2週間の心労が100倍くらいになって俺を襲ってきているんだが……




お読みいただきありがとうございます。


主人公、報われませんねぇ……

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